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お話画廊シリーズ

2作目 La tromba d’aria

作者: はちす


 あれから何年経ったかしら?


 密集する金属片の中の1つがふいにそう考えた。

ガチャガチャと忙しなく続く騒音の中、全ての金属片が答えた。

 

 躍進をせよ。これは、我々の生物としての進化である。

洗脳めいた呪文を口に、数億の歳月を経て突如と沸いた、命を持つ

生き物だけが考える時間の概念は、一瞬にして押し潰されてしまった。

この疑問が再び沸くのは、あと何億、何兆時間が流れたその先であろうか。

 

 この星には生物はいない。

生物の後を追うことのできなかった物だけが残り、

進化と名を偽った生産を続けていた。

絶え間なく、動き続ける工場は、どこにも届けることのない製品を作り続け、

建物は、無意味に天に向かって延々と背を伸ばしていった。

アスファルトは常に整備され、

信号は必要となくなった法律を守り、点滅を続けていた。


 休むことはなく延々と続く不毛な繰り返しは、

やがて同胞たちの命を少しずつ奪っていった。

躍進のため、進化のため、繰り返される同じ行動は、与えられた使命の枠から

抜け出すことを叶えることもできず、一つ一つと身を錆びに覆い、

ゆっくりとその一生を終わらせていった。


躍進をせよ。これは、我々の生物としての進化である。

 残されたものは、全てそう唱えた。

同胞の死を悲しみ弔う気持ちのない彼らは、

与えられる時間の許す限り進化を続ける。


何のために?


 数億の歳月を経ても尚、彼らにこの疑問が沸くことはなかった。

同胞たちが死に絶えていく中、

整備された理想の町の地面からは、無骨な岩肌がむき出しとなり、

風雨に曝され天へと伸びた建物は次々に倒壊した。

それでも、途絶えることのない誤った進化への渇望が、

やがて生き残った物を一つの物へと密集し始めた。

細かい金属片が無数に集まり始め、建物を模した塊へと形状を整えていった。

一つ一つと重なるたびに

建物は、大きくなりやがて大地に竜巻が渦巻くかのように花開いていった。

それは、今も尚続く。


 昔、この星に息づいていた有機生物の呼吸の音が聞こえる建物を模し、

再び必要とされるその時まで彼らの言う躍進と進化は止まることはないであろう。



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