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余命1ヶ月の恋物語  作者: 渡辺 呼
9/10

初日 ②



何度も帰ろうと思った。


登校中、すれ違う男女を見る度に「僕は何をしているんだ」と思わざるには居られなかった。


同じ制服を着ている生徒を見かける度に、知り合いではないか、何か言われないかとビクビクしていた。

当然そんなことはなく、何の波乱もないまま僕は学校に辿り着いてしまった。


教室はどこだったか。春休みから一切学校に行かなくなった僕は、確か4月中頃に担任と思われる男性教師からクラスを聞いていたはずだが、どうにも記憶が曖昧だった。

仕方なく大棟とよばれる校舎の1階にある職員室へ行き、近くにいた教師に学年と名前を名乗り教室を調べてもらおうとした。少しここで待っててくれ、そう言い残しその教師は奥の方まで入っていった。


しばらくすると、僕より二周りほど大きく、ガタイの良い40代半ばほどの男性教師が僕の前にやってきた。


「そうか、双海。お前今日は登校してきたのか。」

心底嬉しそうな顔と声で僕に話しかけてくる。


「俺が担任の田中だ。一応去年の体育を教えていたんだが、覚えていないか?」

そうだ、思い出した。

男子の人数が奇数だった僕のクラスでは、大抵いつもペアを作る時僕が余っていた。キャッチボールやバレーボールのパスでは3人組を無理やり組まされていたが、ストレッチなどどうしても二人でやらなければならない作業だけはこの体育教師と組んでよくやったものだった。

そうか、この男が僕の担任だったのか。

「…いえ、覚えています。昨年はありがとうございました。」

「ん、構わんさ。それで今日はどうしたんだ?」

「すみません、クラスが分からなくて。僕は何組でしょうか。」

「そうか。お前は始業式早々に休んでたからな。お前は1組だぞ。この大棟の3階にある。座席表が教卓に置いてあるから、確認して座れ。」

そうですか、どうもありがとうございます。僕がそう告げ、職員室を後にしようとすると、田中は急に神妙な面持ちを向け、

「お前はもう、一学期に必要な単位を幾つか落としてしまっている。恐らく来年3年に上がることは出来ないだろう。お前の家の事情も何となくは聞いている。教師としてこんな質問はいかんだろうが、一つだけお前に聞きたい。何故、今このタイミングで学校に来ようと思ったんだ?」

答えたくなければ答えなくてもいい、そう付け加え僕に質問を投げ掛ける。

昨晩顔も名前も知らない誰かから、学校に行かなければ死ぬと告げられたから、などと言ったところで当然頭のおかしな人間としか思われないだろう。

「……何となく、来てみたかっただけです。すみません、ありがとうございました。」

それだけ言うと、僕はそそくさと職員室を出て行った。後ろから、おう、また後でな。と田中の元気な声が聞こえた。


階段を上り、2年1組の教室に辿り着く。


今朝とは違う心臓の痛みを感じる。


音の出ないように教室のドアを開けた。





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