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余命1ヶ月の恋物語  作者: 渡辺 呼
8/10

初日 ①



初めは金縛りの類だと思っていた。手足が動かず、声もろくに出すことが出来なかったのだ。しかし、次第にその拘束力は力を増大させていき、四肢が張り裂けるような痛みが僕を襲った。

悲鳴も出せず、仰向けで眠っていた僕はその痛みを逃がすことも許されなかった。そして心臓が握りつぶされるような感覚がやってきた。


このまま死ぬのではないか、そう思った刹那。不意に昨夜の出来事を思い出す。


そう、『奴』との賭けだ。


「明日、早速 双海ふたみさんに登校する意思なし、と判断されますとその時点であなたは賭けに負け、死んでしまいますのでご注意を。」


これはつまり、『奴』の言っていた「死」が僕を蝕んでいる真っ最中だということなのだろう。激痛の中、しかし意識だけはハッキリしている。そんな中、ただ感じる感情は一つだけ。


怖い。


どうしようもなく怖い。死ぬのが怖い。死にたくない。この激痛から逃れたい。


(わかった。学校に行く。行くから…助けて…。)


情けなくも、心の中でそう叫んだ。

この痛みから、恐怖から逃れられるのならどんなみっともないことでもしてやろうと、そう思った。


次の瞬間、先程までの苦しみがまるで嘘だったかのように痛みが引いた。


激痛に悶えていた身体は自由に動くし、まるで自分が死から最も遠い場所にいるような錯覚さえある。先程の痛みは夢だったのだろうか。


違う。

心臓が、僕の身体の中で唯一心臓だけが先刻の恐怖を覚えているのか、ドクドクと鈍く脈打っていた。

昨晩の『奴』が言っていたことが本当だったのだろうか。僕の寿命は本当に残り1ヶ月で、しかも『奴』の条件を満たさなければ先程のように激痛に苛まれながら死にゆくということなのだろうか。

俄には信じられない。しかし、そうであるなら今起きたこと全てに説明がつく。

全身の痛み。間近に迫った死の感覚。条件を遂行しようとすると痛みは引いた。まさか本当に…。



…学校に行こう。

もうあんな痛みは二度と体験したくなかった。

一年前の衣替えから一切目にしなかった夏服を取り出し、それに着替える。軽く寝癖を整え顔を洗い、朝食を摂ることなく玄関を出た。

もう9月に入ったというのに、茹だるような暑さだった。



実に半年ぶりの登校だった。





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