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賭けをしよう。確かにそう聞こえた。
「賭け…だと?」
反射的に聞き返す。
「えぇ、そうです。あなたの寿命返して欲しければ、私の出す3つの条件を全てクリアするのです。」
…言葉が出なかった。「こいつ」の言っていることに脳の理解が追いつかず、思考が停止しているのだろう。
僕の残りの寿命が1ヶ月で、返して欲しかったら「こいつ」の言うことに従え、と。言われたことは至極簡単な内容のはずなのに、あまりにも現実離れした文章の応酬に、頭でそれを理解しきれていないのだ。
「今、全てを理解しきれないのも当然ですよ。でも時間が無いのも事実ですので、取り敢えず一番最初の条件だけ提示させていただきますね。」
「待て、待て。僕はまだ賭けをするとも君の話を信じたともーー」
「私の話を信じる、信じないはあなたの勝手ですが、取り敢えず黙って聞いていてください。でないと、あなたは必ず後悔しますから。」
まただ。僕は一体何に後悔するというのだろう。失うものなんて何も無い人生で。
「…たとえ僕の余命が本当に1ヶ月だったとして、僕はそれでもいいと思っている。なんなら明日死んだって構わない。僕はこの人生、後悔ができるほど真っ当に生きていないからね。だから君の賭けとやら自体に乗る必要がないんだよ。」
本心だった。僕の人生を例えるなら、床に落ちている紙屑を頬張るような、無味無臭で息苦しいだけの日々だったのだから。
生まれてから、今までずっと。
「…そうですか。まぁ、今のあなたではそういう結論しか出せないことは分かっていました。が、取り敢えず私の話を聞いてください。先ほども申しましたが、私はあなたへ3つの条件を提示致します。そして、その条件を1ヶ月以内に全てクリアできましたらあなたの余生を返してあげましょう。」
話を聞くだけだ。何度も言うようだが、「こいつ」の言うことは一切信用なんてしていないし、たとえ本当でも僕なんていつ死んだって構わない人間なのだから。
「心の準備はいいですか?では、一つ目の条件を教えてあげましょう。」