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余命1ヶ月の恋物語  作者: 渡辺 呼
4/10

8/31 ④

公衆電話が鳴るのは、都市伝説なんかでよく耳にする。だが実際のところは意図的に鳴らすことは難しく、受話器を取ってみても間違い電話だったというオチばかりらしい。


そう、間違い電話なのだ。


数歩先にある公衆電話が鳴っているのも、ただの間違い電話のはずだ。


時計に目をやる。深夜の11時52分。もう日が変わろうとしていた。こんな時間に電話をかける迷惑者がいるのか。或いは友達の家にかけたつもりだったのか。


頭では解っているつもりだった。

それでも真夜中に鳴る公衆電話に、僕の中の本能に近い何かが恐怖を感じ取ったのだ。

それと同時に、同じだけの好奇心もまた僕の中で沸き上がるのだった。


公衆電話までゆっくりと歩いていく。恐怖で足を震わせながら。こんな姿、誰かに見られたらたまったものではないな。そう思い公衆電話を目前に、辺りに人がいないか確認する。こんな時間の周りに何も無い空間では、当然誰も見つけることはできなかった。

真夜中の静寂にあるのは、鳴り響くベルの音と僕の呼吸音のみ。ゆっくりドアを開け、受話器に触れる。

覚悟を決め、そのまま受話器を掴み一気に耳元に近づける。


ガチャッ!…ツー…ツー………


耳の奥で電話の切れた音がした。


…イタズラ電話だったのだろう。どうやったかは知らないが、何らかの方法で公衆電話の番号を知り、真夜中に鳴らして通行人を驚かせてやろうとかいうくだらない魂胆が見え透いた。


ため息とともに心が萎み、代わりに自分の中にある何か別の感情が膨れ上がっていった。顔も見えない誰かへの怒りのようなものがふつふつと湧き上がっているのがわかった。

初めての気分だった。近くにあるものに手当り次第当たってしまいたい気分だった。

もちろん公共の物に当たるわけにもいかず、やはりため息のみが僕の口から零れるのだった。

ここに残っていても仕方ない。早く帰ってシャワーを浴びたかった。


そうしてドアに手をかけ出ようとしたその瞬間。


またしても電話が鳴り響くのだった。


僕は驚きもせず、ましてや期待も好奇心もすっかり消え失せていた。


ただ、2度目のイタズラ電話に僕の怒りは頂点まで達しそうで、受話器の奥で笑っているであろう奴の顔が許せなくて。


たとえイタズラでなくてもこんな時間だ。多少の説教くらい垂れてやっても文句はないだろう。

そう思い、受話器をまた勢いよく取り上げた。



結果から言うと、僕の予想は半分当たり、半分外れていた。


確かに受話器の奥にいた「奴」は笑っていたが、それはイタズラ電話なんかではなかった。


そう認識するまで、少し時間はかかったのだが。




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