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余命1ヶ月の恋物語  作者: 渡辺 呼
2/10

8/31 ②






寝苦しい夜だった。

8月31日。世間では明日から学校が始まるのだろう。僕には関係の無い話だけれど。

午後11時31分。閑静な住宅街を1人歩いていた。夜は好きだ。昼間によく見慣れた景色は、夜になると不親切なまでに別の景色へと変わる。この親近感と疎外感を持ち合わせたような雰囲気は、住み慣れた街の夜を散歩してみないことには味わえない。引きこもりになってからは、たとえ夜中であっても知り合いに遭遇するのが嫌で、散歩も億劫になっていたのだが。


散歩をしていると色々なことを考える。とはいえ空っぽの生活だ。週刊誌で話題沸騰中な漫画の話や、ネットで炎上しているタレントの話なんて興味もないし、そもそも耳にすら入ってこない。

僕が考えるのは、いや、思い出すのはいつも過去のことだ。


酒に狂う母と、勤め先が経営難で倒産した父との間に生まれた僕は、存在していることそのものを常に否定され続けた。お前なんか生まなければよかったと、日々叫び殴りつける母。寡黙でその日のほとんどをパチンコか自室に引きこもっている父。どちらも週に3、4回互いの不満をぶつけ合い、その度に両者共に離婚を持ち掛けていた。それでも僕が中学を卒業するまでそれをしなかったのは、一重に僕の存在が邪魔だったからだろう。結局なんの躊躇いもなく、中学の卒業式当日に両親は離婚した。

親権は、醜い押し付け合いのもと父のものとなったのだか、お前はもう1人で生きていけるだろうと、最低限の生活費と学費の一部のみを送るだけで、追い出されるように僕は一人暮らしをすることとなった。母は早速新しい男ができたらしく、1度街ですれ違ったが僕のことなんて全く眼中にないようだった。恐らくは、僕の顔などとうに忘れているのだろう。それほど僕のことに興味がなかったのだ。僕としても、その方がありがたかった。


思い出らしい記憶なんてなかった。幸せらしい幸福など望むことすら許されなかった。生まれてから今まで、ずっと存在を拒まれ続けてきたのだ。当然、友人らしい友人も、ましてや恋人らしい恋人などいるはずもなかった。


いや、唯一、唯一僕の人生に救いがあるとするならば、それは「彼女」の存在だろう。


彼女は僕と同い年の、凡そ唯一の幼なじみと呼んでよい子だった。

その子は、太陽のよく似合う子だった。










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