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余命1ヶ月の恋物語  作者: 渡辺 呼
1/10

8/31 ①

自分の人生があと一ヶ月で終わりを迎えると言われて、果たしてどう生きるのが「幸せ」なのだろうか。或いは潔く死んでしまった方が「楽」になるのではないか。

手元には何も無い。隣には誰もいない。

あるものと言えばこの先腐り続けるであろう僕の余生と、漠然とした「死」の感覚のみである。

これは、そんな僕が、その残りの全てを賭けて挑む最初で最後の恋物語。





2年生になってからすぐに、僕はいわゆる引きこもりになった。理由らしい理由は特にない。ただ、元から人と関係を持つことが苦手な僕にとってはむしろ、1年の頃ほぼ毎日のように学校に行っていたことの方が奇跡だと思えた。

引きこもってから気づいたことがある。それは、退屈を潰す時間ほど退屈なことはないということ。そして、時間は溢れるほど有り余るくせに、何もすることがないこと。そのくせいつも、「何かせねば」という焦燥感に襲われていること。

家には、退屈を潰せるようなものは何もなかった。実家を追い出され、父から振り込まれるギリギリの生活費だけで生きている僕にとって、家電やゲームといった、退屈しのぎの娯楽は全くの無縁だった。僕の一日といえば、朝に寝て昼過ぎに起き、布団の中でしばらく眠気を追い出してから何十回と読んだ小説を読み、或いは気が向いたら勉強をし、それすらも飽きたらバイト雑誌を手に取り日雇いの項目を漁るのだった。

このまま死んでいくのだろう。そう思った。栄養失調か、或いは熱中症か、ほとんど動かないせいで心臓が弱っているかもしれない。ともかく僕は、漠然とした死を常に隣に感じていた。


それは気まぐれだった。

普段ほとんど外出をしない僕が出かける時といえば、週に一度、近くのスーパーへカップラーメンを買うか、月末にお金が無くなりそうな時だけ日雇いのバイトをしに行くかだけだった。家に電話を持ち合わせていない僕は、バイトの申し込みは公衆電話か直接現地に赴くのだった。他に家を出たことは、少なくとも引きこもってからのこの数ヶ月では記憶にない。

なのにその日は、その日に限って僕は宛もなく外に出た。ただ何となく歩きたい気分だったのだ。それが運命だったのか、或いは「奴」がそうするように仕向けてきたのか。それは僕の知れることではなかった。



とにかくその日、僕は外に出た。そして、それと同時に僕の人生は大きく変わったのだ。







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