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ミョルニル
どこまでも続く空を追いかけていると
風を切るサドルだけの存在が僕を責めるように追い越した。
癪に障るほどに洗練されたその流線型で
誰も彼も置いてけぼりにしてしまうのだろう。
後ろに残されるものの目つきも知らず
彼は自分の能力に酔って先へ進むのだと妬んだ。
誰かが当然と決めたルールを持ち出しては
誰にも当然と思われない差異を笑うのだ。
「・・・」
荒いコンクリートの壁に手を着くと
撫でるようなその岩肌に君の手は傷だらけになった。
コンクリート沿いに続くこの道の嫌味さといったらそれはもう
却って蛇行する川の方がイサギが良いくらいなのだ。
「・・・」
君は血しぶきを上げながらコンクリートの壁を殴る。
おおごとだと思われないようにそっと無言ですこしだけ手加減をして殴る。
上を見れば手の届かない街灯の灯りは君の姿を笑うばかりだ。
ああ、知っているだろうか、なめくじは。
コンクリートを食みながら進むのだそうだ。
君はナメクジのように柔らかい。