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捏造の王国

捏造の王国 その4 アベノ総理夫妻のカジノ狂騒曲

作者: 天城冴

敗戦と不祥事に気の休まる暇もないガース長官にニシニシムラ副長官は静養をすすめるが、候補地のリゾート地はガース長官にとって頭痛の種の一つであった。実は総理夫人の…

自称民主主義国家ニホン国では、十月に入り、ようやく、秋らしい気温になってきた。天候も次第に落ち着きをみせていたが、ここ官邸では、まーったく落ち着く間もない方がちらほらと存在していた。

「何、ガタヤマの口利き献金疑惑だと。しかも訴訟騒ぎまで。まあアレはどうせ何か起こすだろうとは思っていたし、もともとモリモリカケカケ問題から国民の目をそらさせるための捨て石のつもりで内閣に入れたのだったが」

ガース長官はメディア統制の成功度チェックのため、ではなく公務の情報収集を行うため雑誌や新聞を読んでいた。一度に何誌も読みこなすために、“週刊スプリングセンテンス”を斜め読みしながら、ニチニチ新聞も広げる。

「ああ、他の新閣僚の不正がまたバレたのか、オオブチもどきの資金疑惑に、シバケンヤマにもか。奴は失言もしたし、辞めさせてもいいのだが。しかし、代わりがいない…。選挙には負け続けてアマリリの代わりに私が責められるし、今度の国会が恐ろしい、が、シイノが。総理を責め、その八つ当たりが私に、わ、私もマンゲツに何を言われるか…」

ガース長官は胃のあたりを抑えてつぶやきながら机に向かっていた。庶民にまったく寄り添わないガース長官の応援選挙負け続けは自業自得ともいえるが、新内閣も脛に傷だらけの人材しかおらず、すでに臨時国会での炎上は必死。それを考えるとガース長官のストレスは耐えられうる上限一歩手前にまで達していた。

 大好きな玉露の入った湯飲みに手さえ触れず、何かにとりつかれたように新聞雑誌を読み続ける長官の姿に副長官のニシニシムラとタニタニダはおびえていた。

 腫れ物に触るようというか、空腹の猛獣を扱うようにというか、遠巻きにガース長官をみていた副長官の二人であったが、やがて意を決したニシニシムラが口を開いた。

「ガース長官、だ、だいぶお疲れのようですから、その、臨時国会開催前に少し休暇でもおとりになれば」

「休暇だと」

ガース長官がやつれた顔をあげた。

「そ、そうです。ほらこちらのリゾート地にでも、名目はカジノ法案のための視察ということで」

と、パンフレットに記載された写真をニシニシムラが指さすと

「リ、リゾートだとおお、バカモーン、そんな、そんなことできるわけないだろ!そ、そのリソートはなあああ」

いきなり切れまくるガース長官。

「も、申し訳ありません」

わけもわからず恐縮するニシニシムラ副長官。

「す、すまない、しかし、ここはだめだ、なぜなら…」

ガース長官は大激怒、大反対の理由をいかにも苦々しいという顔で語り始めた。

***

「ああん、もう、退屈だわ。せっかくダーリンについてって、外国にきたというのに面白い人にも会えないし、この高級リゾートホテルに閉じこもっていろっていうし」

「アキエコ様、外出お控えくださいと、長官及びお義母さま、ほか皆様から、おっしゃられているんです。なにしろ例のモリモリ問題他大麻やらなにやらのおかげで、総理は大変困ってらっしゃるんですよ」

「えー、私が支援したい人を支援してどこがいけないの?夫に引き合わせて何が悪いのよお」

側近もとい政府公認見張り役カトウダの厳しい意見に総理夫人アキエコは腐っていた。よく言えば自由奔放、悪く言えば後先考えず行動する軽薄な女性であるアキエコに振り回され、彼女の付き添いたちはさんざんな目にあっているのである。田植えから酒場の手配、はてな怪しげなファックスの代筆をして栄転だか左遷だかわからない転勤までさせられる。

 もちろん、付き添いだけでなく夫のアベノ総理や与党関係者、つまりアキエコ以外の周囲の全員が大迷惑をこうむっていた。本来ならばアキエコも夫とともに滞在国の政府高官らとの食事会に出席するはずだったのだ。しかし、酒を飲みすぎ酔っぱらい、相手国の重要人物の顰蹙をかいまくるので、とりあえず夫についてはきたものの、会食などは出禁。ホテルに缶詰めとなっていた。

「あーん、ダニダさんだったら、言うこと聞いてくれるのに、イタリアでどうしてるのかしらねえ、一緒だったらぜひ」

「だめですよ、このホテルから出てはなりません」

カトウダはアキエコの外出を何がなんでも阻止するつもりだ。

「もう、お堅いんだから。ホテルの中を歩くのならいいでしょ」

「それなら、まあ。しかし念のため財布、クレジットカード、スマホはお預かりします」

「わかったわよ。でも、ついてこないでね!バンッ!」

 ドアを乱暴に閉めるというお嬢様総理夫人らしからぬ振る舞いをしてアキエコは部屋を出た。プンプンしながら廊下を大股に歩く。

「もう、私が楽しい思いをして何が悪いのよお。総理夫人だからこそやれることをやってるのにい」

とはいいながら、アキエコのやることと言えば、自分の会いたい人に総理夫人の肩書を利用して会い、ちやほやされているだけである。アキエコの思考からは夫を選んでくれた国民のためという観点が全く抜けおちていた。彼女には民主主義国家の在り方や、立憲主義などを考える能力はなかったのである。それだけでなく、すべて自分の都合のいいように解釈するという無能であるがゆえの一種の自我防衛機能が備わっていた。

「まあ、ホテルの中は安全だしねえ、“金を湯水のごとく使うな”とかいう市民団体もいないし、いいじゃないのねえ、私は総理夫人なんだし」

だからといって金を使っていいわけじゃないーと側近すら呆れそうなことをブツブツいいながら、アキエコはホテルのエレベーターに乗り込んだ。

「さて、バーにでもいこうかしら、うん?」

エレベーター内の回数ボタンの一番下にCとかかれたボタンが

「なにかしら、これ」

アキエコは何気なく押してみた。

たちまちドアが閉まり、スムーズにエレベーターが動き出す。

幸か不幸か誰も乗り込むものもなくアキエコはC階に到着した。

チーン!

「いらっしゃいませー、VIP専用カジノへようこそ。あ、あなた様はアベノ総理夫人のアキエコさまですね」

口髭と顎髭を細長ーくカールした黒髪の白人男性がタキシード姿でにこやかにアキエコを出迎えた。

「あら、よくご存じね。それに日本語もお上手ねえ」

「私、当カジノの支配人、オールと申します。当ホテルにお泊りのVIPの方々はすべて存じております、アキエコ様はお酒がお好きでご自分でお店を経営されていることも。いや総理夫人とは言え多才な方だと」

「まあ、そんなことまで知ってるの」

「今日はご視察ですか、ニホン国でもカジノを開かれるとか」

「ううん、そうねえ」

アキエコはカジノのパンフレットをみたぐらいでカジノ誘致のことなどまったくわかっていなかったのだが、さも知っているかのように答えた。

「そうなのよ、夫のために来たのよ。だからちょっと見学させてほしいんだけど」

「もちろんでございます、なんなら少しルーレットなどを」

「いいの?でも、私、何も持っていないのよ」

「何をおっしゃいます、ニホン国の総理夫人なら顔パスでございますよ。こちらは顔認識システムで判別も行っておりますし。何よりアキエコさまのお顔は印象深いですから、すぐわかります」

「あら、そう?私ってそんなに魅力的?もうオールさんうまいわねえ。じゃあ、ちょっと遊んで、いえ見学ついでにルーレットも」

世界の富裕層を手玉にとるオールのお世辞にまんまとのせられたアキエコは上機嫌でカジノに足を踏み入れた。

 

「ああ、アキエコ様どこにいったのだが、バーにもいないし。まさかスマホもカードもなしで外出は」

部屋に残っていた側近もとい政府公認見張り役カトウダは焦っていた。

「そろそろ、総理やSPたちが食事会を終えて戻ってこられるというのに。どうしたらいいんだ」

 なにしろアキエコがホテル内見学と称して出て行ってから二時時間以上戻ってこないのである。ロビーやバーなど行きそうなところはすべて探したが見当たらない。頭を抱えているところに部屋の電話がなった。

「あ、はい、もしもし」

「あらーん、カトウダさあん。ここすっごく楽しいんだけど、ちょっとねえビンゾーさんを呼んできてくれるうう」

カトウダがとりあげた受話器から聞こえてきたのは、ほろ良い気分のアキエコの声。

「あ、アベノ総理をですか?その、アキエコさま、ど、どちらに」

「ホテルのカジノよおん。もうルーレットって楽しいわねえ」

アキエコの言葉に顔面蒼白になるカトウダ、急いでアベノ総理の直通電話番号を探した。


「アキエコさん、どこなんだ」

カトウダからの連絡をうけ、アベノ総理一行は地下のカジノ階に降りてきた。さすがに総理なのでアキエコと違い、側近がぞろぞろついてきた。

「あらーん、ビンゾーさん、ここよお。いやだわ、いっぱいきちゃったのねえ」

アキエコは支配人オールほか、礼服がよく似合う各人種のハンサムなバーテンたちに囲まれ超ご機嫌であった。

「いや、その僕は総理だからね、ね。二人っきりのほうがいいにきまってるけど、立場がねえ」

アベノ総理がもごもごというと、

「いやねえ、こんなときぐらい、いいじゃない」

すっかり酔っぱらった口調のアキエコ。今回の滞在は国費をつかった公的外国訪問だが、アキエコには私的な夫婦いちゃいちゃ旅行と区別がついていなかった。いるはずもないのだ、なにしろお嬢様大学のエスカレーター入学を断られたアキエコである。

(ああ、アキエコ様はかなりできあがっている。それにこの取り巻き、超高級ホストみたいだ。おまけにいくらか賭けもやったようだし、一体いくら使ったんだろう)

カトウダおよび側近たちはもちろん、アベノ総理もかなり動揺しているようで、小刻みに震えている。カトウダが意を決し、アキエコの隣のオールに尋ねた。

「その、アキエコさまのお使いになった額は」

「あ、五十万ドルね」

「ああ、五十万。って米ドルですよね。今日の為替レートは一ドル110円だから」

ざっと五千五百万円。

「ぼ、ボッタクリだ!」

カトウダの叫びにオールは眉と髭をつりあげて反論した。

「なーにをおっしゃるんです。ここはVIP専用のカジノですぞ。それぐらい普通、普通。それにアキエコ様は高級酒、ハンサム高価なものがお好きですな。それにルーレットの豪快な賭けかた、さすが総理夫人、お見事ですなあ」

とオールの言葉通り、アキエコはいかにも高級そうなブランデーのはいったグラスをもっていた。そばに侍らせているのは俳優並みの美男ぞろい。しかもこれにルーレットの負けが加わっているのである。

「そのう、どれぐらいやったのかねアキエコは、賭けを」

おそるおそるアベノ総理が尋ねると

「もう二十回以上ですな。ちなみに確か勝ったのは二度ほどでしたか。しかし負けても負けてもめげすに次に勝つまで挑戦されるアキエコさまのバイタリティには感心します」

オールの言葉に、ふらふらとするアベノ総理。

 アキエコは夫ビンゾー・アベノの落ち込みぶりなど気にもせず、そばにいる青年たちの

「いや、次回は大丈夫ですよ、アキエコ様」

「素晴らしいご趣味ですよ、僕の話にこんなに共感してくださるとは」

「このブランデーを嗜まれるとは、さすがアキエコ様」

と流暢な日本語のお世辞に聞きほれていた。

 アキエコを横目でみながら、オールは腕時計を確認して

「あ、また二万ドルばかり増えそうですな」

「な、なんで」

唖然として言葉もない側近たちの中、かろうじてカトウダが口を開いた。

「アキエコ様ご指名の男子の時給は高いもので」

(こ、この金食い虫、でたがり、のーたりん女がああ)

カトウダだけでなく側近たちは似たようなことを考えていたのだろう、全員アキエコに向けた視線が険しくなっていた。

 が、アベノ総理はなぜか意気込んでいた。

「よし、その借金、僕が帳消しにしてやる」

へ?

カトウダたちの当惑をよそにアベノ総理が続けた。

「僕がルーレットをやって、勝つ。妻の危機は夫が救うものなんだ。カッコいいだろ。心配しなくていいぞ君たち。僕は学生時代、マージャンは強かったんだぞ」

(そ、それは実は総理はいいカモだったから、雀荘のおかみが適当に弱い手でかたせ、高額なときは全部プロの雀士が巻き上げたと聞いていたのだが)

カトウダの不安をよそにアベノ総理は大乗り気で。

「そうだ、オールさん、各国の首相たちの負けも含めて僕が勝って返すよ、どうだい」

「それもおもしろいですな。しかし総理は何を担保に。それこそニホン国の国債を含む保有資産をすべてをかけるぐらいでないとあいませんな」

「よし、いいぞ、ニホンの資産をすべて賭ける。勝てば各国首相は僕に頭があがらない。そうすれば、もう面倒な外交交渉なんて必要ないんだ!」

「おやめください、総理、いくらなんでも、いくらなんでも」

「いや、大丈夫、オールワンで勝つ」

それを言うならオールイン。

と、壊れかけた思考回路をなんとか元に戻しながらカトウダたち必死になってアベノ総理夫妻の暴走を止める。

「アキエコ様!帰りますよ!」

「いやよおお」

「総理、おやめください!そんなことできるわけが!」

「僕を信じろー」

もみ合う総理夫妻と側近たち。が、総理夫妻は簡単に諦めそうになかった。

ついにカトウダは最終手段に出た。

シュッタ、シュッタ!

カトウダの手刀を後ろから首筋に受け、崩れ落ちる総理夫妻。

「はあ、はあ、これだけは使いたくなかった。万が一アキエコ様が暴走した場合にと許可は得ていたのだが、まさか総理にまで使うことになるとは」

他の側近たちはオールに軽く拍手し、めいめいで総理夫妻を抱え上げた。

「オールさん、これで会計です。お支払いの相談はこの電話、ガース長官のほうにお願いいたします」

カトウダはオールにガース長官の番号がかかれたメモを渡すと、総理夫妻を抱えてエレベーターに乗り込む側近たちに続いた。

***

「…。と、いうわけだ。あのあと、オールと話をし、ニホンにおけるカジノリゾートを彼に一任するということで借金を帳消しにしてもらった。アキエコ夫人のおかげで、カジノリゾートで国内企業が潤うことがなくなったのだよ。しかし、そんな巨額の借金はさすがに官房機密費で賄いきれないからな、オールのいいなりになるしなない。いや、まかなえたとしても、出せるギリギリだ、そうなったら他の工作に使う金がない。ああ、もうあのリゾートはみたくもない、が、カジノの件での打ち合わせがあるし…」

話終えると椅子にどっかと座りこむガース長官。

 やつれ切った長官のためにお茶をいれようと、ニシニシムラが急須を取り上げたその時、副長官トリオの最後の一人シモシモダが飛び込んできた。

「長官、大変です!モリモリ問題で投獄されていたカゴモリ夫人の暴露本がアマゾンで一位になりました。翻訳も検討中と」

「なんだとおおおお。あまりに詳しすぎてドキュメンタリーそのもの、とかいうあれか。テレビ放映は何とか握りつぶしたが」

「それが、アメリカの社会派監督ミカエル・ムンムンやらオリババ・スターンやら、変わったところでは社会派ギャグ映画進出を狙うアサイラムラム映画社などから、オファーが」

「ぎゃあああ、アメリカじゃどうやって握りつぶすんだ。こうなったら改憲だ、草案提出などまどろっこしい。改憲後、すぐに緊急事態要綱を発令すれば、予算も使い放題、マスメディアの規制も大っぴらにできるのだ!」

ガース長官の“ホンネちゃん”もびっくりな発言に副長官トリオらは青くなる。

「長官、長官、落ち着いてください」

「ニホン国が賭けのカタになってしまったんだぞ、これこそ緊急事態と言わなくてなにが緊急だ!」

「大変だ、長官が錯乱された、き、緊急事態だああ」

長官室の夜は今日も騒がしく更けていった。


かけ事はほどほどに。カジノできたらどうなるんでしょうねえ。案外、富裕層の方々が夢中になってしまったりするんでしょうかねえ。

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[一言] 「よし、いいぞ、ニホンの資産をすべて賭ける。勝てば各国首相は僕に頭があがらない。そうすれば、もう面倒な外交交渉なんて必要ないんだ!」 それはいくらなんでも、それはいくらなんでもご勘弁下さい…
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