淡い恋心
私、ユミルは5つ年上のリアンに片思いをしている。
だけど、彼はユミルのことは妹にしか思っていないだろう。
でも、それでいいのだ。
この淡い恋心は彼に伝えないつもりなのだから。
ユミルの家族は祖母だけだった。
幼い頃に両親が亡くなり、祖母一人手でユミルを17年間育ててくれた。
祖母は内職で編み込みの仕事をしており、ユミルはそのサポートとして、足の悪い祖母の代わりにおつかいや、祖母の編んだものを売ったりしている。
収入は微々たるものの、ユミルは今の生活に何の不満もなかった。
小さな村の外れに家があり、周辺は豊かな自然に囲まれている。
食べ物には恵まれているし、ユミルはこの小さな故郷が大好きだった。
今日も祖母の編んだ服や帽子を持ち運び、田んぼ道を歩いていると、反対側から一人の男性が歩いてくる。
「ユミル」
声の通る低い声が、ユミルを呼ぶ。
「…リアン」
リアンを見た途端、ユミルの胸がドキドキと高鳴り、声も小さくなってしまった。
「重そうだね。持つよ」
リアンがユミルの荷物を見て、近付いてくるとあっという間に荷物を奪われた。
「あ、ありがとう」
「大丈夫だよ。行こうか」
リアンに優しく微笑まれ、ユミルは顔を赤くする。
リアンは村で一番の狩猟者であり、その他にも何でもそつなくこなす。
かつ、若く、深い藍色の瞳と優しげな表情に村の女性たちには人気だった。
ユミルより5つ年上で、男性でも20過ぎれば結婚適齢期と言われているこの村では、リアンは日々女性たちから迫られていた。
女性も16歳を過ぎると、結婚と考えられているため、ユミルも今が適齢期なのだが、あまり前向きではない。
そもそも男性に積極的に声を掛けられたことがないし、リアンぐらいだった。
「ユミル?大丈夫?」
「…え?あ…、うん、大丈夫」
リアンが覗き込むようにして、ユミルと目線を合わせている。
深い藍色の瞳に見つめられると、どぎまぎしてしまい咄嗟に目線を外す。
「あ、じゃあ、ここで大丈夫。ありがとう」
ユミルがお礼を言うと、リアンは何か言いたそうにユミルを見下ろす。
「リアン?」と言おうとすると、リアンは徐にユミルの両肩に手を置いた。
「ユミル。最近僕を避けていない?僕が何かしてしまったなら、言ってほしい」
「え…、な、何もないよ。リアンの気のせいだよ」
「気のせいなんかじゃない。最近、僕と目を合わせなくなった」
いつもは優しい笑みを浮かべているのに、真っ直ぐにユミルを見つめるリアンに、ユミルは驚く。
こんなリアン、初めて見る――――……。
大きい手の温もりが両肩越しに伝わってきて、ユミルは動揺を隠しながらリアンから離れようとした。
「そんなことないよ。本当に気のせい…っ」
ユミルが離れようとすると、リアンの手に力が込められ、ぐっと前に引き寄せられる。
そのまま前のめりになると、広い胸に包まれる。
「っ……、リアン」
ユミルは今度こそ動揺を隠せず、リアンの腕の中で身動ぐ。
しかし、リアンの抱き締める力が強くなった。
「ユミル」
ユミルの耳元で、リアンが低く囁く。
ユミルはびくっとし、リアンの胸を叩く。
「やっ…!」
「ユミル。僕は…君のことが…」