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アポカリプスの庭で-15




「ジョン、朝よ」

「・・・ん。起きた」

「呆れるくらい寝起きがいいわねえ。あら、もう軍事用デバイスを着けてるんだ」

「うん。これでいいんだよね?」

「そうよ。そうしておけばジョンの行動を軍事用デバイスが読み取って、そのうちレベルを表示してくれるようになるわ。技能があれば、それもね」

「ないとわかってるけど、ほんのちょっと楽しみ」


 朝食を摂ると、アキとジャニスはすぐに探索に出る準備を始めた。

 目的はクリーブランドの繁華街なのだが、そこまでの道にも偶発的な戦闘などで死んだ当時の兵隊がいたはずなので、時間はいくらあっても足りないらしい。

 カレンとティファニーはバスの屋根で、それぞれ見張りと自身の修理だ。


「テステス。どう、みんな。聞こえる?」


 アキの声は、僕が腕に着けている軍事用デバイスから聞こえている。ティファニーが修理してくれた軍事用デバイスの通信機能は、問題なく使用可能らしい。クリーチャーを呼ぶ危険もあるからと音は小さくしてあるが、はっきりと言葉が聞き取れる、

 僕はティファニーの指示でバスの屋根から見えるクルマの残骸を漁りに来ているので、繁華街へと歩き出したアキとジャニスとの距離はすでに遠くなっていた。


「カレン。感度良好」

「こちらジョン。問題なく聞こえるよ」


 腕のディスプレイに顔を寄せて言う。


「よしよし。これで二手に分かれてても、少しは安心できるな」

「そうね。何かあったら、すぐに連絡するって事で。ジョン。危なっかしいけどカレンも運転は出来るから、何かあったらバスを呼ぶわ。あまり離れないでね?」

「うん。まずは鉄集めだから、この駐車場から出ないと思う」

「ティファニーが朝ごはんの時に言ってたあれね」

「ベッドルームも作るから、期待してていいっすよ~。アキ」

「・・・呆れた。軍事用デバイス同士の通信にも割り込めるの、ティファニーは。じゃあ、そっちも気をつけてね」

「アキもジャニスも、ムリだけはしないで」

「あったりまえだよ」

「そうね。まだまだ行けるはもう危険、その心構えで進むわ」


 バスから最も近いクルマの残骸。

 その運転席は、車体がひしゃげているせいか開かなかった。


「うえっ。いきなりの予想外」

「そんな時は助手席っすよ、マスター」

「なるほど。了解」

「革手袋はしたっすね? 残骸の車内には割れたガラスなんかが多いんで、素手だと血だらけになるっすよ~」

「うん。右は厚手のをちゃんと着けた。左は軍事用デバイスがあるから大丈夫」


 助手席のノブに手を伸ばす。

 握り込んで引いても、ドアは開かない。

 でもこのクルマには4つのドアがある。いや、最後部も入れれば5つだ。ガチャガチャとノブを引いて回ると、最後部のドアが開いた。


「・・・よし」

「いいっすね。1を聞いて2を知るのは才能っすよ、マスター」

「おだてても何も出ないよ。えっと、このトランクの床に収納されてるタイヤが必要なんだよね?」

「それはハッチバックだから、ラゲッジスペースっすけどね~」

「楽しみだなあ、性能が上がったバス」

「アキとジャニスに途中に修理工場なんかがあれば、工具を持ち帰るように頼んであるっす。それがないとキツイっすよ~」

「そっか、あるといいなあ。・・・よいしょっと。タイヤと、剥き出しのまま入ってるジャッキに。タイヤレンチだっけ、これ?」

「そうっすね。じゃあ、タイヤとクルマの近くに落ちてるボンネットを、バスまで運ぶっすよ~」

「うん」


 タイヤとボンネットを同時に持つのはキツイ。

 でも、タイヤ1つだけ持って運ぶのは非効率的だ。

 近くにある大きなクルマのトランクからタイヤを取ろうとしたが、今度は開くドアが1つもなかった。


「くっそ。もったいない」

「マスター、運転席のガラスを見るっす。下の方に小さな突起がないっすか?」

「・・・ある」

「それがカギっす。上に引っ張れば、ドアが開くっすよ」

「ガラスを割ればいいのか。了解」


 ショットガンを抜き、銃床をガラスに叩きつける。

 カギを引っ張ると、あっけなくドアは開いてくれた。


「う~ん。都市迷彩コンバットスーツを着てサングラスをした美少年が、ソードオフ・ショットガンの銃床でガラスを割って黒塗りのワゴン車を開ける。画になるっすねえ」

「それは是非とも拝見したいねえ。こっちは今、駐車場を出た。住宅街に続く、あまり大きくない道路だ。これじゃ、修理工場はしばらくないね」

「クリーチャーは、ジャニス?」

「臭いはないわね」


 僕の問いに答えたのはアキだ。

 それでも気をつけてと伝えて、トランクを開けるレバーを探す。

 3つ目のレバーを引くと、クルマの後ろから鉄の軋む音が聞こえた。

 いい物がありますようにと願いながら、トランクまで歩く。


「へっ?」

「どしたっすか、マスター?」

「んーと、たぶんバイクってヤツだと思う。ついこないだバスに置いてあった雑誌で見て、アキにスペルを教えてもらった」

「・・・マジっすか」

「待ってね。僕1人で降ろせるか試す」

「うっはーっ。バイクだってよ、アキ。ジョン1人で降ろせなきゃ戻ろうぜ。可動品なら、お宝なんてモンじゃねえぞ!」

「ジョン。本で見たのと比べて、足りない部分とかはないの? タイヤとか」

「ザッと見た感じじゃ、構成部品は足りてる。でも、雑誌のバイクとは感じが違うかなあ」


 バイクは、広いトランクの右端に結びつけて固定されている。


「この鉄の板を使って降ろすのか。・・・ガタンってなりそう」

「ヤバイって、アキ。1人で作業して、ジョンが怪我したらどうすんだよ!」

「ああもう。ジョンが心配なのは本当だろうけど、ジャニスもバイクを見たいんでしょ。・・・わかったわ。戻るわよ、もう」

「よっしゃ。ジョン、少しだけ待ってろ。すぐに走って戻って手伝うぞ」

「わかった。ゴメンね、アキ」

「いいわよ。一目でも見なきゃ、ジャニスが探索に集中できそうにないし」


 さっきのクルマに戻り、タイヤレンチを手に取る。

 そのまま僕が歩き出すと、軍事用デバイスからティファニーの素っ頓狂な声が聞こえた。


「ありゃ。なにやってるっすか、マスター?」

「ひっくり返ってるそこのクルマから、タイヤを外そうと思って。軍事用デバイスに、やり方は載ってるんでしょ? バイクがあったクルマのトランクからタイヤを取ろうと思ってたんだけど、なさそうだからさ」

「タイヤを両手に1つずつ持つためにっすか。感心っすねえ。マスターは効率厨っす」

「なんとなくだけど、バカにされてる気がする・・・」


 タイヤの外し方は軍事用デバイスのページを見るまでもなく、ティファニーが口頭で説明してくれた。

 要はタイヤを固定しているボルトというのを、タイヤレンチで外せばそれでいいらしい。コツは1つのボルトを数回転ほど緩めたら、対角線のも同じくらい緩める事。

 2つのタイヤを外し終わった所で、アキとジャニスが戻って来てくれた。


「おお、マジバイク!」

「ジョンがウソなんて言うわけないでしょ。・・・それにしても状態がいいわね。そのまま動くんじゃないの、これ?」

「おっし、降ろしてエンジンかけてみるぞ。ジョン、手伝え」

「うん。でもまずは背中からキャリアーを下ろそう、ジャニス。そのままじゃトランクに2人は入れないよ?」

「おお、悪い悪い」


 アキの手も借りて、慎重にバイクを降ろす。

 僕には乗り物の知識なんてこれっぽっちもないが、このバイクならバスより速く走れるんじゃないかという予感のようなものを感じた。


「なんだ。メーター系が何1つ付いてねえぞ、これ」

「こんな美品なのにね。組立ての途中だったのかしら」

「単にレース用だったんじゃないっすか、それ」

「レース?」

「クルマやバイクで速さを競い合う競技っすよ、マスター。素人同士のレースなら人より速く走るために少しでも車体を軽くしようと、燃料計なんかを外す事も多かったみたいっす」

「スタンドがバイクに付いてなくて、地面に置くようになってるのもそれが理由か。ティファニー?」

「そうなるっすねえ。データベースのカタログに、そのバイクを発見。SS250R・カスタム。オフロード仕様に間違いないっす。市販されてたフルカウルのオンロードバイクを買って、それをわざわざオフロード仕様に改造してるっすから、趣味でレースに出てた人のバイクっすねえ。金持ちの道楽っす」


 よくわからない。

 でも、朝の陽を浴びる白いバイクが、とてもカッコイイのはたしかだ。


「お、ジョン。目が輝いてるな。もし動くようなら、これにはジョンが乗るか?」

「ええっ、いいよいいよ。そんなの悪いって」

「気になるんだろ、バイク?」

「・・・そりゃ、まあ」

「なら決まりだ。アタシは、バスを運転しなきゃなんねえんだ。カレンじゃ変な体勢にならなきゃ足が届かねえし、アキは白兵戦をやらせりゃバカみてえに強いのに、バスの運転も出来ねえくれえドン臭いからな」

「はったおすわよ、ジャニス。・・・これくらいの大きさのバイクならバスに積めるし、練習してみて乗りこなせそうならジョンが使うといいわ。ジャニス、エンジンが動くかたしかめて。早く探索に戻るわよ」

「あいよっ」


 祈るような気持ちで、エンジンをかけるジャニスを見詰めた。

 ジャニスが日焼けした足で何度か部品を蹴ると、眠りから目覚めたようにエンジンが始動する。


「やったっ!」

「へっへー。今日から、これがジョンの愛機か」

「練習して、危なっかしくなかったらよ?」

「なあに、運転なんてある程度までは慣れだ。技能を得るには、また別のものが必要になるけどな」

「ジャニス。運転が技能として軍事用デバイスに認められるのに、必要なのは何?」

「あらゆる意味での才能、素質だね」

「えっと、あらゆる意味って?」

「クルマで言うなら、ミリ単位。いや、それ以上に細かいアクセルやブレーキの踏み込み操作。それを的確に使うための判断能力。他にも機械に対する考え方や知識で、車体に触れた時なんかの音も違う。軍事用デバイスに目はないんだ。だから音や振動、ハンドルを握った手の筋肉の動きを読み取ってジョンの行動を判断する。機械を雑に扱う人間に、運転技能なんて出ないさ。こっち来てみな。こことここを持って。そう、それでいい。いくぞ・・・ほら」


 バイクにはタイヤが2つしかない。だから、支えていないと倒れてしまう。

 僕だけでエンジンを切ったバイクを支えると、すぐにでもシートに跨ってみたい欲求が湧き上がった。 

 その気持ちを押し込め、万が一にも倒したりしないよう、しっかりとハンドルを握る。


「雑に扱う事はないだろうけど、他は自信ないなあ・・・」

「大事なのは練習だよ、練習。軍事用デバイスに技能が表示されなくたって、バイクには乗れるんだ。少しでも巧くなりたいなら、練習しかないね」

「・・・頑張って練習に使うガソリンも集めよ」

「そうしてくれ。そんじゃ行こうか、アキ」

「ええ。ジョン、バスの前にスタンドを運んでおくからね。倒したりしそうなら、カレンに手伝ってもらうのよ?」

「うん。わざわざ戻ってくれてありがとう」


 2人を見送り、バスの方向にバイクを押す。


「動いたっ!」

「そりゃ押せば動くっすよ。バイクっすから」

「僕1人で動かしたのが重要なんだよ! わかってないなあ、ティファニーは!」

「・・・はあ。押して動いただけで、このはしゃぎっぷり。先が思いやられるっす」



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