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アポカリプスの庭で-13




 アキが抜身の日本刀を、ティファニーの眼前に突き立てる。


「あぶっ、あぶーっ!」

「えーっと、アキ。エージェントとかガーディアンで迎え撃つとして、勝算は?」

「数によるでしょ。ティファニー、ヘキサゴンステイツが保有する戦闘用ロボットの数は?」

「5000くらいじゃないっすかねえ」

「・・・西海岸の人間は確実に皆殺しにされるわね、それ」

「ねえ、ティファニー。どうすればオクトってアンドロイドを止められると思う? 僕達はその西海岸で平和に暮らしたいから、攻撃なんかされたら困るんだよ」

「そんなん、オクトを殺すしかないんじゃないっすか?」

「でも、5000もの戦闘用ロボットに守られるアンドロイドを相手に・・・」

「軍事ロボは、国境線に配置されてるっす。オクトのいるシカゴのビルには少しいるかもしんないっすけど、アンドロイドは反乱を起こしたりしないっすからねえ」


 アキが日本刀を納めて考え込む仕草を見せたので、とりあえず僕はティファニーに手を伸ばした。

 機械は総じて重いものだが、下半身と片腕がないので僕でも運べるだろう。

 肩を持ち上げようとしたら口を押し付けられたので咬まれるのかと思ったが、どうやら攻撃するつもりではなかったらしい。


「や~ん、身動きできない美少女にセクハラっすか。顔の割りに鬼畜ですねえ、少年。・・・やんっ、先っちょはらめ~っ! っす」

「うっさいよ。三つ編みを引き千切られたくなかったら黙って」

「イエス、マスター!」

「マスター?」

「はい。伸ばされた手をペロッと舐めたっす。その時にDNAを採取、それでマスター登録完了っす。ちょろいもんっすね、マスター?」

「・・・ジョン。なにしてんのよ」

「いや、ここで3人で話してても埒が明かないから、バスに戻って話を聞こうと思って・・・」


 マスターとは主人の事だ。

 性行為の勉強のために読んだ雑誌で、マスターと呼ばれる男の人は『ご主人様の命令に逆らうのか、悪い子だ。お仕置きが必要だな』とか言いながら、女の人を喜ばせていた。


「・・・あれ、マスターが女の人を喜ばせるなら、マスターは主人じゃない?」

「なに言ってんだか、この子は。というかティファニー。人間を攻撃しようとしてるアンドロイドに、なんでマスター登録なんて機能が搭載されてんのよ!」

「ちょいとお待ちくださいっす。マスター、今の質問をマスターの口から言って欲しいっす」

「はあ。人間を攻撃しようとしてるアンドロイドに、なんでマスター登録なんて機能が搭載されてんの?」


 僕が声に出すと、ティファニーが瞳を閉じる。


「マスターの問いにより、データ閲覧可能領域拡大を実行。・・・完了。・・・ふむ。どうやらアンドロイドは、新しい何かを設計する事は出来ないらしいっす。修理なんかは得意ってあるっすけどねえ」

「それって、マスター登録機能を削除したりも出来ないの?」

「みたいっすねえ。この機能は、アンドロイドの魂に関わるパーツに組み込まれてるっすから。ちょ、マスター。三つ編みを離すっす。自慢の金髪が傷んじゃうっす」

「ねえ、ロボット三原則は?」

「なんすか、それ」

「人間を襲わない、人間の命令には従う。・・・もう1個は忘れたわ」

「ロボットはアンドロイドを人間と認識するっす。人間が人間を襲えと命令したら、襲うに決まってるっす」

「じゃあ、アンドロイドは? アンドロイドだって、人間に危害を加えないようにプログラムされてるはずでしょう」

「いえ、人間とアンドロイドに上下はないっすよ? 国際社会の常識っす」

「マジ!? ・・・あ、そうだ。世界が違うんだった。こっちなら、そんな事もあり得るのかしら」

「とりあえず運ぶよ、アキ。ジャニスとカレンも心配してるだろうし」

「そうね。でもジョン、勝手にマスター登録なんかされたのに余裕あるわねえ」


 アキ達なら背負って運ぶけど、ティファニーにそこまで気を使うつもりはない。

 勢いをつけて肩に担ぐと、小さな悲鳴が上がった。


「きゃっ。もうちっと優しく抱き上げろっす。ってか、お姫様だっこしやがれっす!」

「うっさい。マスター登録されたって、僕のティファニーに対する意識が変わる事はないからねえ」

「なるほどねえ。じゃあ、行きましょうか。あ、腕だけでも持つわよ」

「ありがと。しっかし重いなあ・・・」

「乙女になんて事を言うですか、このマスターは。バツとして体液を舐めさせやがれっす!」

「体液って・・・」

「アンドロイドには、多少の不純物が必要なんっす」

「へえ。砂でも舐めてるといいよ」

「そんなん舐め飽きたっす!」

「・・・舐めてたのか。ねえ、ティファニーはどうしてここに来て、どのくらいここにいたの?」

「そ、それは・・・」


 振り回されていたティファニーの左腕が、だらりと垂れる。


「嫌かもしれないけど、話して欲しい。僕はアキと、これから向かうバスにいるジャニスとカレンを守りたいんだ。そのためには、聞いておかないと」

「・・・役を演じる事を拒否すれば、ヘキサゴンステイツで暮らすアンドロイドは見せしめに処分されるっす。廃棄場はここだけじゃなくて、各街の国境外に必ずあるらしいっす。毎年どのくらいのアンドロイドが処分されてるのかは、想像も出来ないっす・・・」

「なるほど」

「作って殺して廃棄。西海岸を襲うのは、資源確保の目的もあるのかしらね」

「どうなんっすかねえ」

「お、バスが見えて来た。意外と近かったんだ。じゃあ、人間とアンドロイドに上下はないのに、マスター登録なんて機能があるのはどうして?」

「・・・そういえばそうね」

「ああ。マスター登録は、人間とアンドロイド間での婚姻の形っす。結婚ってすると配偶者のいる人間はアンドロイドの恩恵を受けられないので、マスター登録って事にしてるっす」

「な、なんですってーっ!」


 その大声は、バスの2人まで届いたらしい。

 死体を担いでいるようにしか見えない僕を見て怪訝な表情を浮かべていた2人が、さらに首を傾げている。

 バスに戻ってシートにティファニーを立てかけると、アキが今までの状況をジャニスとカレンに説明してくれた。


「・・・ほう、結婚ねえ」

「判決、スクラップ刑」

「いやいやいや。なんなんっすか、この殺気。マスターはもしかして、ハーレム野郎なんっすか!?」

「ハーレム?」

「複数の異性を囲って、持て余す性癖と性欲を満足させる人間のクズっす!」

「精通はしてるけど、性欲は持て余してないなあ」

「マスターはいくつになるっす?」

「14」

「え。ちゃんと夢精はしてるっすか?」

「たまに。あ、でも住んでた街を出てからはないなあ。まあ、バスでの生活はいつクリーチャーに襲われるかわかんないから緊張感があるし。そのせいかな」

「・・・なるほどっす」


 飲み物でも飲みながら話そうという事になり、アキがガソリンスタンドの店で手に入れた缶コーヒーを渡してくれた。

 ティファニーには、バスの整備のために確保してあったというオイルが出される。

 重要な話なのでカレンも屋根ではなく、車内で見張りをするそうだ。


「そんで、ティファニー。あの戦闘用ロボットは、アタシ達を襲うのかい?」

「それはないっすねえ。ロボットは人間の姿形なら、反対に守ってくれるっす」

「じゃあ、クリーブランドにはどのくらいのアンドロイドがいるの?」

「いないっすよ」

「はあっ?」

「アンドロイドは、シカゴにしかいないっす。いつかは他の街にも配置する計画らしいっすけど、人間と同じように自我があるアンドロイドに役を演じさせてるから、反抗して見せしめのために殺されるアンドロイドや、シカゴから逃げ出すアンドロイドが後を絶たないっす。ああ、そうやって逃げたアンドロイドが住み着いてる可能性はあるっすねえ」


 どうやらオクトというアンドロイドは、僕が暮らしていた街のブルースよりも嫌われているらしい。


「じゃあ、シカゴの街に私達が潜入するのは可能?」

「車両はムリっす」

「どうして?」

「もう輸入できないガソリンがもったいないんで、シカゴの街じゃ車両は稼働させてないっすから」

「じゃあ、アンドロイドは私達を見て人間だと気がつく?」

「マスターのいないアンドロイドは、臭気スキャンや体温スキャン機能が使えないっす。そしてシカゴでマスター登録をしているアンドロイドは、オクト1人。問題はないっす」


 そこで会話が途切れたので、僕は思い切って気になる事を訊いてみる事にした。


「ねえ、オクトを殺しに行くの?」

「当然よ。LAはジャニスとカレンの故郷。私にとっては、一宿一飯の恩義を受けた賢者の住む街。見過ごしたら女が廃るわ。ああ、ジョンは付き合わなくてもいいわよ。バスで留守番してて、私達が帰らなかったら修理を終えたティファニーと西海岸を目指すといいわ。出来れば賢者に、オクトの計画を伝えて欲しいわね」

「それは出来ない。僕もシカゴに行く」

「本気かよ、ジョン。ムリに付き合う事はねえんだぜ?」

「嫌だ。3人は、僕が守る」


 ガソリンスタンドでアキとジャニスが吹っ飛ばされた時、僕は心臓が飛び出してしまうのではないかと思うほどに驚いた。

 次に湧き上がった感情は、目も眩むほどの怒り。

 3人だけを危険なシカゴに行かせるつもりなんて、これっぽっちもない。


「そしてマスターを、ティファニーが守るっす。ミニスカ黒髪、提案があるんっすけど」

「ミニスカ黒髪って。アキよ。何?」

「オクトを殺しに行くなら、ボルトアクションライフルやダブルバレルのソードオフ・ショットガンなんかじゃお話にならないっす。クリーブランドで、武器なんかを探さないっすか?」

「そうね。軍事ロボットが私達を襲わないなら、そうするべきだとは思うわ。最低でもジョンにアサルトライフルと、軍事ロボット用に対物ライフルが欲しいわね」

「軍事ロボやアンドロイドの治安部隊も相手にするだろうから、パルスガンも人数分欲しいっすね~」


 そして具体的な計画だが、まずはこの公園を離れるのを何より優先するらしい。

 ここにいては見せしめに始末したアンドロイドを、シカゴの治安部隊が捨てに来るかもしれない。貴重なガソリンはその部隊が戦闘車両を運用するためにのみ使われているそうなので、万が一にも発見される訳にはいかないという判断だ。

 なので、出来るだけ急がなくてはいけない。

 ポリタンクを載せるキャリアーにティファニーを縛り付け、僕が背負う。

 いつものキャリアーを背負うのは、ジャニスだ。

 アキは姿を消してエリー湖に水のサンプルを取りに行き、カレンがバスに残る。


「そんじゃ行くか。手早く掻っ攫うぞ。ジョン、ティファニー」

「だね」

「ホントは厳選したいっすけどね~」



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