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アポカリプスの庭で-10




 ダアンッ!


 いきなり暴力的な音に鼓膜を叩かれ、僕はガソリンスタンドに視線を向けた。

 日本刀を抜ける構えで、アキが1歩の半分ほど前に。ジャニスは腰を落として、軽機関銃を店舗の入り口に向けている。

 ガソリンスタンドにはよく併設されているという1階建ての店舗。そこから出て来たクリーチャーが、カレンのスナイパーライフルで頭部を吹っ飛ばされたらしい。サハギンより人間に近いカタチのクリーチャーが持っていたのは、・・・斧だろうか。

 アキが笑顔で、親指だけ立てた拳を上げているのが見えた。


「さすがだね」

「でも普通のパーティーじゃ、狙撃手を連れ歩いたりしない」

「なんで?」

「スカベンジャーの目的は、売れる物を持ち帰る事」

「クリーチャーを倒すだけの人はいらないって?」

「そうなる。スナイパーライフルは割高な弾代もかかるし。それと高額な車両を買って、所有権でモメないパーティーなんてない」

「だからジャニスとカレンは、パーティーにいらないと」

「うん」

「・・・スカベンジャーって、バカばっかなの?」

「優秀な人間はエージェントになる。エージェントは、エージェントとしか行動しない」


 残りカス。

 そんな言葉が頭に浮かんだけど、僕だってもうスカベンジャーだ。

 それにしてもどうしてカレンとジャニスは、エージェントにならなかったんだろう。


「あのクリーチャーは、カレン?」

「初めて見る。ジャニスより少しだけ大きい人型。長い腕に歪なツノ。ドアを開けて外に飛び出す仕草は、まるでガーディアンのようだった。武器も使うし、油断は出来ない」

「ガーディアン?」

「エージェントが外で仕事をするエリートなら、ガーディアンは街で仕事をするエリート。西海岸の治安を守る武装組織」

「それも賢者が選んだ人間が、賢者の言う通りに街を守るの?」

「うん」


 サハギンは出て来ない。

 スカベンジャー・ハントに慣れているカレンでも初めて見るという、体毛のない大きな人型クリーチャーもだ。

 アキが周囲、特に店舗の方向を警戒して立っている。

 ジャニスはといえばキャリアーを下ろして地面に伏せ、僕にはわからない作業をしていた。


 ザッ、ザザーッ。


 バスの屋根に置かれた通信機から音がする。

 見ると周囲を警戒しているアキが、彼女の肩にかけている通信機を操作しているようだ。


「・・・ン。ジョン、聞こえる?」

「聞こえる。って、僕はこれの使い方を知らないや」

「そのまま話して大丈夫よ。問題なく聞こえてるわ。タンクにガソリンが、かなり残ってるらしいの。ジョン達がいる屋根の後ろに、荷物がたくさん括り付けてあるでしょ。そこにポリタンクが8つ結んであるから、それをここまで運んでくれない?」

「わかった。その後はガソリンの入ったポリタンクを、バスまで運べばいい?」

「そこまで頼んでいいのかしら」

「いい。ジョンは仲間。お客さんじゃない」

「カレン。・・・じゃあ、お願いしようかな」

「すぐ行く。ありがと、カレン。ボルトアクションライフル、ここ置くね」

「ん。気をつけて」


 屋根の荷物は、物の上に物を置かないように結び付けられている。屋根でこうして狙撃をする時の、視界確保のためだろう。

 なので、ポリタンクはすぐに見つかった。8つのポリタンクを結んでから、さらにそれを屋根の上に敷いた金網に結んでいるらしい。

 中身がなければ、ポリタンクなんて銃より軽い物だ。

 それを担いで、屋根の手摺りを飛び越える。


「あれ、アキがなんか言ってる? まいっか」


 ポリタンクの束を担いで2人の所まで走ると、ジャニスは作業の手を止めて笑顔を見せた。


「サングラス似合ってるぜ、ジョン。いつだったかシアターのムービーで観た、フェニックスの坊やみてえだ」

「それより危ないでしょ、バスの屋根から飛び降りたりしちゃ!」

「それを怒ってたのか、ゴメン」

「次から気をつけてね。ガソリンを入れたポリタンクは重いけど、背負える?」

「こう見えても、力だけはあるんだ。大丈夫」


 ジャニスが僕にキャリアーを背負わせてくれた。そしてガソリンがいっぱいに入ったポリタンクを2つ乗せ、太いゴムバンドで固定してくれる。

 それに腕を通して足に力を込めると、僕はふらつきもせずに立てた。


「おお、やるなあ」

「こんくらいはね。これは屋根に?」

「後部の荷台。運転席とを隔てる壁と金網のところに固定するわ。だから、後ろのドアの近くに置いといてくれればいいわよ」

「わかった。すぐにまた来るね」

「急がなくていいぞー」

「あの身軽さに、あの筋力。やっぱりジョンって、それなりのレベルなのかも・・・」

「それに銃系の技能ってか? そんなん、すぐにでも一流エージェントになれるじゃんか」


 歩き出した後、2人のそんな会話が聞こえる。


「みんながスカベンジャーなら、僕もスカベンジャーがいいな」


 2つのポリタンクをバスのドアの前に置き、急いで駆け戻る。

 地面の穴に長いポンプのホースを入れているジャニスは、半分も満たされていないポリタンクをポンポンと叩いて僕を出迎えた。


「急ぎ過ぎだって、ジョン。まだ1つ目も満タンになってねえぞ」

「ねえ、ジャニス。技能って?」

「軍事用デバイスが認めた、ソイツの特技さ。特殊技能。エージェント・ライセンスにそれが1つでも記載されてりゃ、まず一流のエージェントで間違いはねえ」

「もしかしてジャニスは・・・」

「運転の特殊技能があるな。カレンは狙撃で、アキは白兵戦の特殊技能持ちだ」

「なんでエージェントにならないの?」

「3人共、ガラじゃねえのさ。西海岸じゃエージェントは、人類の希望なんて呼ばれてる。シカゴの調査1つ、マトモに出来ねえのにさ」

「ふうん」


 僕のいた街でも、ブルースに雇われている男達は大きな顔をしていた。

 そんなに偉そうにするなら、ご馳走である獣肉を毎日でも狩って来ればいいのに。そう思った事が何度もある。

 ジャニス達も、そんな感じでエージェントを嫌っているのかもしれない。


「ジョン、次のポリタンくれ」

「はい。ガソリン入れたのはもらうね」

「ああ」


 8つのポリタンクを僕がバスに運ぶと、アキは仕草で戻って来るなと伝えてきた。

 なのでハシゴを使い、バスの屋根に上がる。


「おかえり」

「ただいま。サハギンの様子はどう?」

「・・・何かがおかしい」

「どんな風に?」

「カレンお姉ちゃんを食べたそうに見る。でも何かに怯えているように、ガソリンスタンドを窺っては湖に戻るのが多い」

「じゃあ・・・」

「たぶん、何かがいる。あそこに」


 カレンが鋭い視線で見詰める店舗に、アキとジャニスがゆっくりと接近している。

 僕はボルトアクションライフルを手に取りながら、何かあればここからの銃撃で援護すべきか、それとも駆け寄ってショットガンを撃ち込むべきか、スカベンジャー・ハントの経験が少ないなりに考えていた。


「ジョン?」

「え。なにかな」

「考え込んでるように見えた」

「・・・ああ。ボルトアクションライフルとショットガン、どっちが威力あるのかなって」

「距離による。ショットガンをここから撃っても、ガソリンスタンドのクリーチャーには1発も命中しない。でも接近した状態なら、ショットガンの散弾がすべて命中する」

「ここからボルトアクションライフルを2発命中させるのと、接近してショットガンを2発、散弾をすべて命中させるのだったら?」

「考えるまでもなくショットガン。・・・アキとジャニスが店舗に入る。ジョンも狙撃準備」

「わかった」


 アキとジャニスは店舗の裏まで確認して、それから入り口に戻ってその横に立っている。

 キャリアーを下ろし日本刀を右手にぶら下げるアキと、軽機関銃を両手で構えたジャニスが頷き合う。

 そのままアキはガラスの割れた入り口に姿を晒し、ドアを蹴った。


「危ないっ、アキ!」


 爆発。

 アキとジャニスが吹っ飛ぶのが、酷くゆっくりと僕の目に映った。


「くっ。狙撃準備。敵が見えたらぶち殺す!」

「それじゃ2人が。・・・狙撃は任せたよ、カレン」


 バスから飛び降りる僕を、少し涙目のカレンが呆然と見ている。

 アキとジャニスがいたのはドアの右。つまりバスに近い方だ。

 運が良いのか悪いのか、吹っ飛ばされたアキとジャニス入口の手前に倒れている。あれなら、店舗の中に敵がいても追撃は受けないはずだ。

 アキはスカートの短いセーラー服で、ジャニスは下着が見えそうなタンクトップにホットパンツという軽装。

 それでも走りながら見る限り、出血はない。

 人は地面や壁に叩きつけられると、その衝撃で意識が飛ぶ。レベルというのが高いおかげで怪我はなさそうだが、それでもノーシントーとやらには勝てないらしい。


「ジャニス、返事を!」


 そう叫びながらその横を駆け抜け、アキの細い体を肩に担ぐ。


「あ、ジョ・・・」

「生きてるならいい。今は体を休めて。アキ、生きてるなら声を出して」

「・・・ま、だ、死ねない、わよ」


 どちらもまだちゃんと喋れないが、どうやら無事らしい。

 アキをジャニスの隣に横たえる。

 2人の白い肌が、土や煤で汚れてしまっていた。


「・・・許せないな、これは」

「てった、い・・・」

「逃げ、て、ジョン」

「アキの方が、言葉がはっきりしてるね。これ、使い方は知ってるよね?」

「こ、れは・・・」


 アキの手に握らせたのは、小さなリモコンだ。


「入り口に向けてC、アキがクレイナントカって呼ぶのを仕掛ける。後は任せたよ?」


 返事を聞かずに、入口に向かう。

 信管を入れたCを仕掛けた僕は、ベレッタとソードオフ・ショットガンを抜いた。

 初めてのスカベンジャー・ハントにナイフを持って行かなかった僕は、それを少しだけ後悔した。

 だからそれからは腰の後ろにナイフを差しているし、同じく腰に小さなバックを着けてそこにCを入れている。


 ザッ、ザザッ。


 入り口の横に転がっている通信機は、まだ生きているようだ。

 これも忘れられた時代の遺物。結構な値段がしたはず。壊れてなくて良かった。


「ジョン、戻る!」

「えっとね、カレン。今から敵をおびき出す。Cの起爆をアキに頼んだけど、スナイパーライフルの狙撃で片付けられるなら頼むね」

「敵はトラップまで使うクリーチャー。危険! お願いだから、3人でバスに戻る!」

「許せねえんだよ」

「えっ・・・」


 声が低くなっているのが自分でもわかる。

 人を殺す前は、いつもそうだ。


「ジョン?」

「許せねえつってんの。アキとジャニスを吹っ飛ばして、カレンを泣かせて、僕を怒らせた。そんなヤツ、生かしておけねえよ」



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