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市街探訪

8)市街探訪


「今日は本当に良い天気ですね、お兄様」

「ああ、そうだな。やっぱり城を抜け出して正解だったな」

「はい、本当に」


 何が嬉しいのか、市はにこやかに答える。

 まあ、市が嬉しいなら俺も嬉しい。ただ…、心に引っかかった思いは拭えない。

 今日はミツとの約束をやぶって城下の町に遊びに来ているのだ。

 一緒に稽古するぞと数日連日で続けたが、流石に飽きた。とはいっても、何も言わなかったのはマズかったな。

 きっと、ミツはカンカンだ…。


「浮かない様子ですね…。お兄様、大丈夫ですか?」

「そんなことないぞ。久しぶりに市と遊ぶとなるとどこで何をするか、そう考えていただけだ」

「でしたら、もう少し楽しそうなお顔をしていただかないと」

「この顔は生まれつきだ。見てくれ良い顔じゃねーから仕方ないだろ」


 全く、市は美形だというのに、何故俺はこんなんなんだ。同じ遺伝子なのにおかしいぞ。


「お兄様。殿方は顔ではありませんよ。お兄様のことを好く女性はちゃんといます」


 そりゃまた残念な女もいたもんだ。俺に惚れるのはきっと俺よりバカな女なんだろうな。


「世辞でも嬉しいよ。できるなら、市のような女に惚れて欲しいもんだな」

「お、お兄様!?そ、そんな。私なんて不相応です!!」


 だよねー。俺と市だと釣り合いとれてねーもんな。市だって年頃だしイケメンが良いに決まってる。

 だからって兄離れしてほしくないが、こうやって俺と遊んでいる時点で、その心配はなさそうだ。


「そうだな。俺に市は高嶺の花過ぎるしな。分相応にだよな」

「そう言うことでは…。もう、お兄様の分からず屋…」

「何で不機嫌?まあ、いいか。先ずは腹ごしらえ、茶屋にでもいこうぜ」

「はい。お兄様とお茶…。一体、何時ぶりでしょう。楽しみですね」


 機嫌直るの早っ。市もやっぱ血筋だな。案外、チョロいぞ。

 そんなチョロい妹を連れて、町並みに並ぶ茶屋に入る。

 茶屋といっても喫茶店とは違う。メイドさんが注文を聞きに来るわけでもない。さらにこの茶屋の看板娘は花の散り終えた老婆だ。

 まあ、当たり前だが、これが普通の茶屋だ。


「そうだな。城のような堅苦しい茶とは違うから気楽で良いよな」

「茶道ですね。あれはあれでおもむき深いですよ。お兄様も一緒にいかがですか?私がお茶を立てますよ」


 市とラブラブお茶会か。思いっきり鼻の下伸びるな、それは。

 おっと、その前に茶道の礼儀を習っておかないとな。市の前で恥ずかしい真似はできないしな。


「じゃあ!また今度な。楽しみだな!!」

「はい。お任せください!!」


 今日は婆さんの団子とお茶で我慢。来た団子を素早く食べ終え、お茶を飲み干す。

 横でモグモグとおしとやかに食べる市を見る。もう少し時間が掛かりそうだが、ジッと待つ。

 待つことさえ、至福の時間だ。


「あの、…お兄様。そんなに見つめられると…」

「悪かった。ゆっくりで良いからな。団子が喉に詰まったら大変だ」


 とか、言いつつチラ見する。美少女というのは何をしても絵になるな。

 神か仏か、この地に舞い降りた天女だ。

 そういえば、降りて来た天女の服を盗んで自分の嫁にした話…。あれはなんだったっけ?

 俺も市の服を盗めば…。変態だ!!それはただの変態だ!!

 やっべー、危うく道を踏み外すところだったぜ。


「はい、ごちそうさまでした」


 俺が妄想しているうちに食べ終えたようだ。となれば次は何をするか。

 せっかく、市と二人きりだ。邪魔の入らないとこ、二人でやる遊びが良い。


「うーん。野山を駆け回るわけにもいかないし、水遊びもダメだろ」

「私は何でも良いですよ」


 うん。それが一番困る。映画もないしカラオケもない。ホント、娯楽ないよな。

 何か良いアイディアは…。


「スポーツ。スポーツなら大丈夫か?」

「すぽうつ…ですか? 何ですか、それは…。お兄様の考えた新しい遊びでしょうか?」


 アウチ。そりゃそうだ。この世界にスポーツするって発想ないよな。だが、ここで広めておけば娯楽が発展するかもしれない。

 我ながら良いアイディア!!

 だが、スポーツするにしても何のスポーツが良いか。野球、サッカー、バスケ…。


「あ、ボールがない。いや、魔法で作れるか?」

「ぼーる?ですか。それは一体…」

「ああ、えっと…。丸いヤツ。こう丸っとなってポンポン弾むヤツ」

「それは手鞠でしょうか?」

「そうそう、それそれ。まあ、今から作るから待っててくれ」


 イメージして…。想像、想像。

 サッカーボール、野球ボール、バスケットボール…。


「よし、四象魔法!万物創造クリエイト・オリジン!!」

「流石です、お兄様!!」

「まぁな。それほどでもあるけどな!!なっはっはっ!!」


 では、早速と地面に放る。…放ったっきり跳ね上がることはなかった。

 見た目はボール、中身は泥だ。何故に?

 って、市が反応に困ってるじゃねーか!!俺のバカ!!


「これは!?…その、失敗だ。すまん…」

「お気になさらずに、お兄様!大丈夫です、大丈夫。次はきっと!!」


 その後も何度も試してみたがボールを作ることはできなかった。

 こういう時は諦めが肝心。場がしらけるだけだ。


「まあ、仕方ない。スポーツは止めておこう」

「残念ですが、仕方ありませんね…」

「だが、大丈夫!!思いついたことがある。これなら大丈夫だ!!木曜なのに日曜大工!!出よ、羽子板!!」


 テニスでも、とも思ったけどボールにラケット。どちらも作れる気がしない。と言うわけで日本古来のはねつきだ。

 デザインは、若干オリジナルはいってる。簡単に言うとデッカいしゃもじだ。これはちょっとテニスのイメージが強かった。

 失敗じゃない。これは失敗じゃないのだ。


「お兄様、これははねつきでしょうか?」

「うん。そうだ。だが、普通にやってもつまらないからな。ちょっとやり方を変える」


 と先ほどと同じようにある物を作り出す。

 地面から二本の棒を生やし、その間に網を張る。大きさは適当だが、これはそう。バドミントンだ。


「お兄様、この網は何なのですか?」

「何って、簡単だよ。この網のうえを通してはねつきするんだ。網に引っかかって自分の陣地に落ちたら負け。この外枠に落ちても負け」

「なるほど…。ちゃんと決まり事があるのですね…。流石はお兄様!!これは面白そうですね!!」

「じゃ、早速始めるぞ!───えいっ!!」


 緩やかに山なりの線を描く羽。

 何も本気を出してラリーする気はない。イチャイチャ、ラブラブしたいのだ。


「───はいっ!お兄様!!」


 トントンはねつきを繰り返す。最初のうちは失敗の多かった市も慣れてきてラリーが続くようになってきた。


「じゃ、そろそろ強めに行くぞ」

「はい。どこからでもかかってこい、ですね?」


 おっと。市も言うようになったな。ではでは遠慮なくっと!!

 その後は白熱したラリーに変わる。市には難しいかと思ったけど。

 なかなかやるな。これも血筋か、運動神経が良い。外枠ギリギリの玉も難なくとる。

 だが、兄として負けてはいられない。市のスマッシュを返し、勝敗は決した。

 勝ち誇る俺!!大人げない気もするけど、兄の威厳は守らねば。


「ウオオーっ!!スゲー!!」

「おいおい、なんだよ。こりゃ…」

「また信長様か!?正月でもないのに本当にうつけもんだな!!」

「たのしそー。ぼくもやりたーい!!」

「い、お市の方さま、おらの嫁に!!」


 歓声が上がる。俺と市、やはり目立つのか人が集まってしまったようだ。

 一部の奴には天誅を下したのは割愛だ。言わずもがな、だろ?


「信長様、これは一体なんですか?」


 バドミントンの方が注目されていたのか…。一部はホントに一部だったようだ。

 これは…。ハズいっ!!

 けど…。仕方ない。こういったスポーツはないからな。みんな娯楽に飢えているのだ。

 とりあえず、やりたがっている奴らと交代し、ルールを説明。俺が人に指南するって驚きの事態だ。


「───という風にやるんだ。分かったか?」

「はい!!」


 こうして、近隣住民のバドミントン大会が始まった。お祭り騒ぎな気もするが楽しけりゃ何でも良い。コートが一面では物足りなくなり、空いてるスペースに後三面ほどコートを作る。

 当然、俺と市も加わり、その日は大騒ぎとなった。


 日が暮れ始め、俺と市も城に帰る。流石にヘトヘトだ。

 あり? 何か、忘れているような…。

 城門前に立っているミツ。鬼の形相だ。

 話を聞けば、俺が道場に来るのを待っていたら、親父が来たのだとか…。ご愁傷様と言いたいが俺の責任?

 しゃあない。俺にできることがあるとすれば、これからは毎日道場に行くこと。

 暫くは、街に行けそうにないが、コートもラケットもあのまま置いてきた。楽しく遊んでくれるなら今日は街に出た甲斐があったというものだ。


 その後…、俺が部屋と道場の往復している間に、城下ではバドミントンが一大ブームになったとか…。ホントに娯楽に飢えてるな。



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