お仕置きと反省
6)お仕置きと反省
「起きろ!!ノブ、起きろよ!!」
ん? 誰だ、ノブって…。ああ、俺のことか。
「もう朝だぞ!!早く起きろ!!ノブ!!」
俺をノブと呼ぶのは、一人だけ。親友だけだ。
なら、俺を呼ぶのはミツと言うことになる。親友がミツだけって、寂しい気もするけど…。
「あー。ミツか…。昨日は徹夜明けだっんだ。今日は寝かせてくれ………」
昨日のハイテンション&道場騒ぎのせいで眠いのだ。今日は流石に遊ぶ気になれない。
せめて、明日に…。
「そんなの知らないよ!!いいから、早く起きろ!!」
「じゃ…、せめて、あと10分………」
何だよ。ミツの奴、そんなに俺と遊びたかったのか…。
「いい加減にしろ!!この世界に時計なんて無いだろ!!」
「あるだろ…。そこに……」
部屋の片隅にあるものを指差す。
現代ではよく見慣れた形をした目覚まし時計を。
「何でこんな物がここにあるんだよ!!」
「俺が魔法で作った………昨日の夜に………動かないんだけどな………」
「意味ないじゃん!!じゃあ、何で作ったんだよ!!」
「いや、作れないかなぁって思って…さ…。時計って何で動かしてんの?」
「ネジとかゼンマイでだよ!!って、そんなのどうでも良いだろ!!こんなことのために無駄な魔法を使うなよ!!バカ!!」
「そう怒鳴るなよ、ミツ。もう起きるって」
ミツとのやりとりを終え、布団から出る。しかし、朝っぱらから元気だな。
そんなに俺と遊びたかったのか。仕方ない奴だ。
「起きたなら、早く着替えて行くぞう」
「行くって、どこに?」
ミツが行きたい所に心当たりがない。出会って一日で、ミツの行きたい所を当てるのは難しいな。
「決まっているだろ。道場の再建だ。それを無駄に魔法を使って───」
「おはようございます、お兄様……」
おっと、このタイミングで市登場か。
朝から千客万来だな。
「な、な、な!?いや〜ん!!なんつって」
あり?反応なし?
「し、失礼しました!!お兄様!!」
ふすまを閉めず飛び出して行く、市。ちょっとからかい過ぎたな。この時代では、やっぱ大胆だったか。
「ヤっちまったか? とりあえず、市のことは暫くソッとしておいてやるか」
「そうだな。仲の良いのは良いけど、早く服を着ろ」
何故、朝早くから市が来たのかは知らないけど、ミツの方は俺をどこかに連れて行きたいようだ。
ミツと遊びに行くのもやぶさかじゃない。
パッパッと着替えを済ませ部屋を出る。
ミツのことをこれ以上待たせては親友の名折れ。待たせる真似を俺はしない。
って、もう遅いか?
連れられて来てみれば何もない場所。間違った。ここは元・道場があった場所だ。
瓦礫は綺麗に片付けられているが間違いない。
流石に俺でも気づく。遊びに来たわけじゃなかったと言うことに…。
ダヨネー。
昨日はアレだけ大見得切ったんだもんネー。
「さあ、始めるよ」
「いきなり今日から始めるのか。もうちょっと準備した方が良いんじゃないのか?道具も無い資材も無い何もできないだろ」
「一体何を準備するんだよ。魔法で作るんだ。なら、魔法による創造に必要なものってのは何だと思う?」
おお、そうか。魔法でな。
魔法に必要なものか。想像力? でも、それには知識が必要だろ。じゃあ、ミツは何が言いたいんだ。
俺の場合、昨日今日で魔法を覚えたようなもの。悪いが、そこまで頭の回転早くない。素直に降参だ。
「分かんねえよ。大体、火水風地木天と、月だっけ?魔法って言われてもなんとなく分かる程度だ。それだけじゃダメなんだよな」
「そうだね。それだと半分正解だな。魔法には属性の他にも型がある。ノブだって知っているだろ?」
型というのは…。ああ、あれのことか!!
「治癒系統とか攻撃系統だな。勿論、知っているぞ。俺はほぼ全て使えるからな!!」
「ノブのは例外だ。個人の人間が、そこまで多くの属性や系統を得ることは出来ないんだよ」
モチロン、それも知ってる。だから、ちょっと自慢したくなったのだ。
市の魔法は月、系統は治癒。兄妹ではあるが市に使えるのはこれだけ。親父も似たようなものだ。
これは、俺が天才だという証明か?
「だけど、そのことと道場再建とどう関わるんだ。言っとくけど治癒系統は使えないぞ?天才でも得意不得意があんだ」
「誰が天才なんだよ!!一言もそんなこと言ってないし!! 信秀様の言っていた四象天院の秘術は知っている…わけないよな」
「おお、それそれ。それって何なの?」
「ノブ…。本当に今までどうやって生きてきたんだよ。武士の一般教養だぞ。まあいい。四象天院の秘術っていうのは簡単に言うと合成魔法のことだ。因みに、魔法の最高峰技術だからな」
「えっ。それ使ったわ、俺。道場ぶっ壊したのその魔法だ、多分」
四象天院の秘術っていわば、テンプレ的に超必殺技って感じだな。何でそんな簡単な魔法が最高峰技術ってなってるんだ。
「なに、さらっと爆弾発言しちゃってんのさ!?僕、初耳だよ!!ノブ、魔法で道場壊したってしか言ってなかったよね!?」
「いや、だから合成魔法だろ?俺、何も間違ってないだろ。魔法でぶっ壊したのに違いないしさ」
「ノブは一体今まで何を教わってきたんだよ!!魔法にだってちゃんと理屈があるの!!」
ヤりたかったからヤってみただけ。 原理?法則?んな難しいものは知らん。
「仕方ねえだろ。今の記憶と前世の記憶の整理がまだついてなかったんだよ!!大体、魔法って理屈抜きなんじゃねーの?」
「そんなわけないだろ!!おかしいと思ったんだよ。四象天院の道場が壊れるって!!何でそんな魔法使ったのさ!?」
「あの時は…。市に格好いいとこ見せたかったんだよ」
「はあ!?そんなことのために、そんなくだらない理由で四象天院の道場を壊したのか!?大体、本当なのか?魔法の極みをノブが?」
「そんなってなんだよ!!嘘じゃねーよ。なら、ホントに使えるかどうか見せてやる!!」
と、売り言葉に買い言葉。また考えもなしに魔法を使う。
「地と火の饗宴!!煉獄魔法!!行くぞっ、富岳大爆破!!」
巨大な地鳴りと響く爆音。全てを焼き尽くす爆発が起きる。想像以上の爆発、呪文に相応しい噴火だ。
噴き上げる爆煙は軽く天守閣を越える高さまで昇り、爆心地となった道場跡地の大地はめくれ焦土と化した。
想像以上に上手くいったことに喜ぶ、俺。だが、ミツの反応は薄い…。
目の前で大爆発だぞ? フツーの中学生なら驚くとこだろ?
「おい。どうしたんだよ、ミツ。見ろよ、これ!!すっげえだろ?」
「バカノブ!!バカか!!バカだ!!ノブはバカだ!!」
あれ?何でミツの奴、怒っているんだ?
どう見ても、これは成功だろ。四象天院の秘術と呼ばれる最高技術をこの俺が使ったんだよ。ここは素直に負けを認めて共に喜ぶ場面じゃねーの?
「バカバカ言うなよ。ホントにバカになるだろ」
「本当のことだろ!!道場を壊したことをもう忘れたのか!!次は城まで壊す気かよ!!」
いやいや、ちゃんと手加減しましたとも。現に城への被害は何もない。俺も成長するのだ。
「いや、そんなのはまだ良い。問題はノブが四象天院の秘術を使ったことだ。不味いぞ、これは…」
浮かない顔だ。一体、何がそんなにマズいんだ。他にも色々と試してみたいが、ミツの表情を見る限り勝手するのは止めといた方が良さそうだ。
「ミツ、悪いけどキチンと説明してくれ」
「これも一般教養なんだけどな…。本来、四象天院の秘術は数人掛かりの魔法なんだ。ノブのように複数の魔法を使える者も居るけど、その組み合わせは複雑で、解明されてないことが多いんだ。今、ノブが使った魔法は火と地の属性だったけど、それだけでさっきのような爆発は起きない。攻撃だけじゃなくて他の系統の魔法も絡み合って、さっきの爆発が起きたんだ。これは、常識外れなんだよ」
「ごめん。さっぱり意味が分からない。つまり、アレだろ。俺が天才だってことだろ?」
「違う。違うけど、もうそれで良いよ」
あれ?何か、面倒臭がってない?
だが、ちゃんと俺だって理解はしたさ。一人で合成魔法を使うのは不可能だったってことだろ。俺の魔法は想像力。それに自動補正が掛かり、イメージした通り魔法が発動する。
不可能を可能にする男、俺!!と自慢したいところだが、確かにコレを知られるとかなり面倒くさいことになりそうだ。
戦国乱世にこんだけの魔法を使い手がいるとなると真っ先に狙われる。強い者から先に…。バトルロイヤルの基本だもんな。
これは、俺とミツだけの秘密にしておこう。
あっ、あと市にも口止めしておかねーと。
「じゃあさ、これならなんとかなりそうじゃね?」
「それには同意。本当なら魔法訓練も兼ねてじっくりと建て直しするつもりだったんだけどな…。これも、まあ…ノブらしいか」
諦めたのか納得したのか、ミツは呟く。
ミツのGO−サインが出たことだし、俺も遠慮なく魔法が使えるというもの。何がどうなって何て難しい理屈は要らない。俺は想像力を膨らませイメージすれば良いだけだ。
何という才能…。自分の才能が怖いぞ!!イエーイ!!
「さて、一体どんな道場を造ろうか」
「普通で良いだろ、普通で。ノブは何を造るつもりなんだよ」
「道場を元通りに直してどうするんだよ。親父に啖呵切ったからには前以上のものを造らないとダメだろ」
「やる気出してくれるのは嬉しいけど、そのやる気が心配なんだよ。ロクなことにならない気がする…」
「ま、心配すんなよ。俺に任せろ!!四象魔法・道場創造!!」
子供の頃に行った横浜のスタジアム、それをベースに…。天候に合わせた屋根の自動開閉システム。それと親父の自慢の庭を見えるように壁には斜高をつけて。勿論、元の道場の機能的魔法はそのままだ。
多少、時間は掛かったが二枚貝のような道場が出来上がった。立地は同じはずなのに内部はやたらと広くなっていた。
これも魔法の影響か?
「信長!!今の音は一体何事だ!!貴様、また何か…した…わけじゃ───」
「お兄様!!何かあったんですか!?今の音は一体───」
「丁度良いところに、市も親父も」
「な、何だ、これは!!」
と、腰を抜かしている親父。逆に市は平然としている。ま、表面上は…だけどな。
「お兄様、お見事です。もう完成させたのですね。それも以前よりも立派な道場を。感服しました」
市は笑顔で拍手を贈る。
やはりと言うか、何というか…。市に誉められると嬉しい。俺のことを誉めてくれるのは市だけだ。
「まあな。市…、今朝は悪かったな。悪ふざけが過ぎた」
「お気になさらずに、お兄様。あれは私が悪かったのです。寝ているお兄様を起こそうなどと…」
「な?!そ、そうだったのか!!何てことを…」
「申し訳ございません、お兄様。私には出過ぎた真似でした。もう二度と───」
「是非!!是非、これからは毎朝お願いします!!」
何ということでしょう!?まさかの「お兄ちゃん朝だよ早く起きて…」だったのか!!
このチャンスを逃してはならない!!これは、俺へのご褒美だ!!
「はい!!では、これからは私が毎朝お兄様を起こしに行きますね!!」
「市、あまり信長を甘やかすな。反省にならないではないか…」
「わかっています、父上。ですが、お兄様の成長を一番喜んでいるのは父上でしょ?」
「な、何を言っている!!儂がそのようなこと、思うはずないだろ!!」
知っているよ。そんなこと。
親父が俺に期待しているはずがない。毎日毎日、グダグダと怒られてばかりいるのだから。
「の、信長!!道場の件は、これで不問とする!!以後、軽挙妄動は慎むことだ、分かったな!!」
「…ああ。分かったよ」
とりあえず、反省はした。
だが、今回の件で得るものは多かったな。魔法の極意とも言える合成魔法。理屈は分からないが研究は必要だ。色々と試してみたいが、城の中では止めておいた方が良いな。
何が起きるか分からないし…。起きると言えば、市だ。
市からのご褒美、これからは毎朝起こしに来てくれる権。まさにお兄ちゃん特権!!これに勝る報酬はないよな!!
今日は祝杯を挙げたいが、俺もミツも酒は飲めない。酒の味はさっぱり分からんからお茶で祝杯だな。
ここはせめて炭酸飲料が欲しいところだ。
魔法で出せないか部屋に戻ったら試してみよう。と、浮かれ気味の俺の横で、ミツが思案顔で物思いに耽っている。
何か、嫌な予感がするのは気のせいか?一応、声を掛けた方が良いかな…。
「どうかしたのか、ミツ?」
「ノブ…。明日から僕が魔法指南してやるよ。良かったな、市姫様が毎朝起こしてくれるんだ。朝から稽古できるぞ?」
なんという地雷を踏んでしまったんだ、俺は!! 天国と地獄。俺はゲームではチュートリアルはやらない派なのに…。
まだまだ試行錯誤中です。書くというのも、なかなか難しいものですね。