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親父

5)親父


 なんて、格好つけた所で俺がやったことはただ一つ。つまり、ミツの言った土下座だ。

 後は、「道場を壊してしまいました。」と「申し訳ございません。」の二言言っただけ。ミツの弁護にお任せコース。ちょー頼りになる親友だ。


「つまりは、今回の件は信長様の力量を見誤った私の過ち。責任は私にもあります」

「よい。光秀、貴様の責任はこの際不問だ。だが、この大うつけを見過ごすわけには如何ぞ!!お前が破壊したのは四象天院の秘術を用いた道場だぞ!!それを考えもなしに!!」


 怒りの形相にビビるが、これでもまだマシな方だ。ミツが俺には魔法の才覚がある。磨けば光る的な説得のお陰で若干だが怒りを抑えているのだ。

 今は戦国乱世だ。力無き者は殺される。それは国も同様で、俺の魔法は織田を守るだけの力がある。

 それを理解するだけの理性が残っているからこそ親父の怒りはこの程度で済んでいるのだ。もし、これが俺のただのイタズラだったなら、今頃は俺の首は胴体は離れ、畳の上に転がっていたはずだ。

 しかし、ししょーてんいんの秘術ってのは何だ?そんな事を言われても俺に分かるはずないのにな。


「信秀様…。恐れながら!!」

「なんだ。光秀」

「はっ。信長様には未だその才覚を磨く時間が必要。しかし…もし、仮に信長様が壊した道場と同等、又はそれ以上の道場を再建できたとしたら、お怒りを鎮めて頂けるでしょうか?」


 おいっ!?ミツ!!それは聞いてないぞ。黙っているとは言ったが、ここはもの申すぞ!!


「おっ───」

「許す」


 俺の言葉にカブって、親父の静かな声が響く。


「もし、に。…だがな。この大うつけに本気であの道場を建て直すことができるならな」

「はい、信長様なら必ずや。私を信長様のお目付役としてお付けください」

「是非に及ばず。光秀、貴様が言い出したことだ」


 と、俺のことを無視して勝手に話が進む。ミツのことだから、考えなしの行動ではないだろう。俺と違って…。


「親父…、当主 様。では、俺のことを許してくれるのか?」

「道場が再建されたらだ。途中、投げ出すことも許さん。分かったなら、もう良い。下がれ」

「あ、ああ。スゲーの建ててやる。見てろよ、親父」

「それでは、私も失礼させて頂きます」


 とりあえず、これで何とか命拾いしたな。ハラハラドキドキしたが、ミツのお陰だ。

 話が終わるとさっさと親父の部屋を出る。こんな所、用が済めば用はない。自室に戻って早くダラダラしたい。もうクタクタだ。




 自室に戻って小休止。

 命を懸けた死闘だった。よく生きて帰れたものだ。二人とも…。

 あれ?誰か忘れているような。まあ、いいか。

 だらける俺とミツ。俺の部屋は男空間だ。


「ノブ。とりあえず、お疲れさん。ノブにしては、よく我慢したと思うよ」

「俺のことより、ミツだ。ありがとうな。ミツのお陰で助かった。ホント、ありがとうな」

「れ!?礼なんていらないよ!!僕の方こそ、勝手に話を決めちゃってゴメン!!」

「何で謝ってんだよ。ミツのお陰で、許して貰えるんだ。何も悪いトコねーじゃん」

「そうか…。ん、はぁ…。何だか、今日はもう疲れたよ…」

「だな。俺も、もうクタクタだ」


 暫く無言で、ゴロゴロする。普段なら無言なんて耐えられない状況だが、今は悪くない。

 疲れた。と言うのもあるが、ミツがいるからだ。なんか、和む。街に出れば遊び仲間はいるが友達と言うにはちょっと違う。ガキ大将が子分を引き連れているような感じだ。

 つまりは対等な関係ではないのだ。

 その分、ミツとは対等だ。だから、一緒にいて疲れない。肩肘張る必要がないからな。


「ノブ…。良い親じゃないか、信秀様は…」

「はあ!?あれのどこが良い親なんだよ。昭和だよ、昭和の頑固親父。って今は戦国時代か」

「正確には、天正だけどな」

「え、そうなの?」

「本当に馬鹿だな」

「悪かったな。どうせ、俺は馬鹿だよ」


 悪口なのに、不思議な感じだが、悪口に聞こえない。俺のことを理解しているぞ、そう言う口振りだ。

 フツー…以上に嬉しい。って、ホントに俺はMか!!


「だけど、信秀様は本当に良い親だと思うよ。子供に無関心な親なら、絶対にあんな事言わない。何だかんだ言ってノブに期待しているんだよ」

「そうか? いつも通り、いや、あれはいつも以上にキレてたと思うけどな」


 子供を虐待する親とか子供を殺す親とかニュースでしょっちゅう流れるけど、あの親父はそれと同じだと思う。

 道場壊したと言った時、親父は刀に手を掛けた。あの時はマジ殺されると思ったからな。


「そんな事ない。だから、少し羨ましいよ。僕は…」

「そう言や、ミツの親は?」

「死んだよ。あ、勿論この世界の親のことだよ。前の親は今も元気そうだからね」


 ああ、確かにそんな話をしたな。今朝のことなのに道場の一件で忘れてた。

 ミツの前世での親は、元気溌剌とテレビに出まくりだった。息子の自殺があったというのにコメンテーターとして活躍している。

 自分の子供が自殺したのに、他に自殺した子がいればああだこうだ。虐待があればああだこうだ。一体何しているんだよ。悲壮感がまるでない。

 確かに、あれに比べれば俺の今の親である信秀は良い親なのかもしれない。


「ゴメンな。俺、ホントに無神経でさ」

「いや、でもそのお陰でノブに出会えたんだから気にする必要ないよ」

「いや、気にするぞ。ミツには助けられたんだ。俺だってミツのこと助けてやりてぇーじゃん。じゃなきゃ、不公平だろ?」

「僕の家のことは、もう済んだことだから大丈夫だよ。それにノブのお目付役になったから、給金もアップで生活に困ることもない。だから、ノブは何も気にしなくて良いんだよ」


 す、すげーな。俺の命が懸かったやりとりで、ちゃんと自分の報酬を取っている。本当の天才とはコイツのことか!?


「あれ?でも、俺にはセバスチャンがもう居たはずだ。大丈夫なのか?」

「誰だよ。セバスチャンって。平出政秀殿だろ」

「ああ。あいつそんな名前だったのか」


 子供の頃から、ずっと側にいたが名前は知らなかった。いや、聞いてはいたんだけど、何せ子供の時分だ。覚えられるはずがない。時が経てば尚更訊きづらい。だから、知らなかったのだ。


「はぁ…。ノブが、そんなんだから平出殿が苦労していたんだよ。でも、今回のお目付役の交代で平出殿も少しは楽になるだろ」

「そこまで考えていたのかよ、ミツは」


 ホント、スゲェー奴だな。確かに、セバスチャン平出も歳だし、隠居する頃だろ。なら、今回のお目付役交代は丁度良い。

 ゆっくり休めよ、セバスチャン。


「ミツもセバス…じゃねぇ、平出も?得したのは良いけどさ。俺が何かしたわけじゃないだろ? それだと俺の気が治まらないよな。クソッ、俺がもっと早く前世を思い出していれば。もっと早くミツと出会っていたら、歴史だって変えて楽しく生きられたのになぁ…。こうなったら、魔法を使って───」

「自惚れるなよ、ノブ。確かに、僕達は転生者だ。だけど、神様じゃない。確かに、僕達には魔法の奇跡が使えるけれど、本物の神様にはなれないんだ。過ぎたことよりこれからのことを考えた方が良い。それが、僕が前世を思い出してからたどり着いた答えだよ」


 やっぱ、ミツはホントのホントにスゲェーな。俺、そこまでの境地にたどり着けないぞ。

 ミツはミツで、俺の想像も出来ない苦労をしてきたんだろうな。前世の記憶が戻ったのも俺より早いって言うし当然か。

 ミツはああ言ったけど、やっぱり俺もミツに何かしてやりてぇーよな。ま、ありがた迷惑なんだろうけどな。


「お部屋に居たんですか、お兄様!!置いて行かないで下さい。探しましたよ、もぉっ!!」

「す、済まん。置いて行ったつもりはないんだ」


 と言うのは、勿論ウソだ。きっちり忘れてた。だが、わざとではないのは本当だ。仕方なかったのだ。

 市のことだから、分かってくれているはず。俺の妹はそういう妹だ。と、ゴロゴロして言っても様にならないか。


「いっ、お市の方様!?ご、ご無礼を!!申し訳ございません!!」

「明智殿、頭を上げて下さい。明智殿はお兄様を助けてくれた方。こちらこそ、ありがとうございます」

「そ、んな。滅相も……」


 ミツの奴。カチコチだな。まあ、分からないでもないけど。

 見ての通り、市は美少女だ。その上、気立ても良いし、城内恋人にしたいランキング不動の1位だ。

 兄である俺でもドキドキするのだ。市を見て平常心でいられる男は居ない。例え、堅物のミツでも例外じゃない。

 兄として鼻が高いな。

 だが、ミツをこのままにしておくのは申しわけないな。何より、俺との比較がヤバい。


「ミツ。楽にしていいぞ。市も構わないよな?」

「お兄様がおっしゃるなら…」

「いや、だが、ノブ…」

「無理するな、ミツ。もう言葉遣いがおかしいから」


 ハッとするミツ。もう今更だ。流石に親父の前ではアレだが、せめて市の前くらいならこのままでも大丈夫なようにはしておきたい。

 と言うか、いちいち使い分けをするのが面倒くさい。市のことだから、これからもちょこちょこ俺のところに来るだろうし、俺もミツとは一緒に遊びたい。


「あの…。そう言うことで、お市の方様は宜しいですか?」

「お兄様の望みですから勿論構いませんよ。明智殿、どうぞ楽にして下さい」

「は、はい。それでは……」

「うーん。まだまだ堅いな。もっと楽にして良いんだぞ」


 この空気、せっかくのダラダラ空間がこれでは台無しだ。


「無茶を言うな、ノブ」


 と、ミツは小声で話しかけてきた。

 まあ、俺にも経験はある。友達の家に遊びに行ったら、友達の妹が乱入して来てちょっと気まずい雰囲気になるというのを…。更に、着替えをしているところに鉢合わせという経験も……。

 あの時は、流石に空気が凍ったな。例えミツでもそれは絶対に見せないけどな。どんな状況であってもな。…俺ってシスコン?


「それにしても、お兄様。一体いつの間に明智殿と仲良くなられたのですか? 今朝方まではお会いしたこともなかったように思いましたのに」

「だから、その今朝の内にな。色々あったんだ」


 まさか、境遇の似た前世の記憶を持ってたから親友になった。とは言えない。言ってもいいが、今ではないだろ。


「お市様、改めまして。僕は明智光秀というものです」

「はい。存じています。此度の件は、お兄様を助けて頂いて誠にありがとうございます。これからもお兄様のこと頼みますね?」

「はい。ノブは僕にとっても大切な友達ですから」


 まだ、ちょっと堅いが、その内に慣れてくるだろ。仲良くなって欲しいとは思うが、付き合う恋人同士になることにはなって欲しくないと考えるのは、俺のわがままだ。

 それでもいずれは市も結婚するだろうから妹離れをするには良い機会なんだろう…。

 妹が出来て2日で妹離れってどういうことだ!?

 ────。

 ダメだ。まだ、記憶が混乱しててダメだな。

 とにかく、妹が居て親友が出来て、不安は解消されたよな。戦乱溢れる戦国時代だが、魔法もあるし、これなら何とかやっていけそうだ。

 畏れるものは何もない。そう思うのだった。





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