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VRで狂った俺が、大切なものをなくして結果的に世界を救う話  作者: 山都
第二章 イカロス、そしてバベル
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8 エンゲージメント

 つまり、悪の組織とやらは目の前のこのデパートを隠れ蓑にしていたのだろう。

 青いシートに囲まれたそのデパートの工事現場の前には、三人のガードマンがいた。


「ここから先は立ち入り禁止です」


 ──邪魔だな……


 恐らく、この先に見られたら困るものがあるのだろう。大当たり、ということだ。

 この先には香凜がいるかもしれない。だったらやることは一つだ。

 俺は荒くなった呼吸を整えて、あの言葉を呟いた。


「エンゲージメント」


 途端、俺の身体が蒼い光に包まれる。その蒼の光は肉体となり鎧となり、俺の姿をアバターへ、ソーマの姿へと変貌させた。


「なっ、こいつッ!」

 ガードマンたちの目が見開かれる。俺はそれに視線を向けながら、手のひらを前に突き出した。


 そう、これが完全に〈オメガ〉のアバターを再現しているのなら。

 俺は、ソーマとして闘えるはずだ。


「ジェネレート、〈魔法銃(エクストラ・ガン)〉」


 目の前に〈魔法銃〉が現れる。武装の生成(ジェネレート)だ。武装は全て生成(ジェネレート)で引出し、消滅(バニッシュ)で消す。〈オメガ〉ではごく当たり前の機能の一つだ。

 よし、うまくいった。これなら。


「モクゾア」


 俺は手のひらをかざし、レベル1の木属性の魔法(エクストラ・アビリティ)を唱える。

 ガードマン達の真下から木々が急速に生え、そしてその身体に絡み付いた。ガードマン達はそこから逃げ出そうと身を捩らせる。

 これじゃ、まだ甘いか。仲間を呼ばれるかもしれない。


 俺は〈魔法銃〉の引き金を連続して引いた。


 弾丸がガードマンたちの胸に撃ちこまれる。

 血が吹き出だして。

 呻き声を上がり。

 三人は動かなくなった。

 地面に血が飛び散るが、まあ仕方がない。


 別になんてことはない。〈オメガ〉でモンスターを狩るのと、一緒だ。引き金を引くか、引かないか。殺すか、殺さないか。こいつらを殺した方がいい。最良だ。だからやった。それだけのこと。

 香凜は俺の妹だ。たった一人の、妹だ。助けるためだったらなんだってする。どいつもこいつも蹴散らして、救い出して見せる。


 俺はブルーシートをくぐり、その中へと入った。

 目の前に真っ白なデパートが表れる。メジャーなデパートのロゴが記されていた。しかし、どこかがおかしい……ああ、そうか。正面に大きなシャッターがあるせいだ。

 まるで、そう、船着き場の倉庫のようなシャッターが目の前にある。そこから何かがでてくるのか。まあいい。そんなのはどうだって。


 ふと、足音が聞こえてきた。何人もの人間がやってくる。皆、その手に銃器を持っていた。あれはサブマシンガンだろう。

 感づかれたのか……銃声を聞かれたんだ。監視カメラもあったかもしれない。どうせなら、魔法で殺せばよかった。


 そうこうしている間に、俺の前には二、三十人ほどのガードマンが集まっている。全員防護服を着て、銃器を持っていた。

 気が付くと、俺の背後には高い壁が現れていた。セキュリティが働いたのだろうか。俺が逃げないように、閉じ込めるつもりか。


 まあいいさ。どっちにしろ、逃げるつもりはない。


 俺はガードマンの集団にへと、〈魔法銃〉の銃口を向ける。

 途端、ガードマン達が一斉にサブマシンガンの引き金を引いた。予想通り。


 同時、俺の目の前に大地の壁がせりあがる。その壁が弾丸を全て受け止めた。

 地属性のレベル2の魔法、ジティアだ。こうやって防御にも使えるから、なかなか優秀だと思う。


「回り込め!」


 ガードマン達の中から、指令の声が上がる。その時にはもう、俺はその場から駈け出していた。大きく弧を描くように、ガードマンの集団の背後へ回り込む。


「速いッ!」


 ガードマンの一人が叫んだ。

 速くて当たり前だ。今、俺は〈(ブーツ)〉を装備している。

 これは主に、足技による攻撃を得意とする武装だ。というか、それしかない。リーチが短く隙が大きな装備だが、その分、速さが1.5倍になるという恩恵がある。

 それに加え、アバターの脚力、そして能力(アビリティ)の〈疾走(ダッシュ)〉が加算されれば、人間の手におえるものじゃない。


 俺は集団の中に突っ込んでいった。同時、その先頭の男へ回し蹴り。男が豪快に吹き飛んだ。それに数人のガードマンが巻き込まれる。

 直後、銃声。俺の背中に衝撃が走る。ガードマンの一人が、発砲したんだ。

 鋭い痛みが身体を突き抜けて──それだけだった。HPゲージが、少し減っただけだ。


 へぇ……なるほど。この身体なら、拳銃に撃たれても死なないのか。

 痛いことには痛いが、我慢できないほどじゃない。なるほど、便利な身体(アバター)だ。


 俺は発砲したガードマンの足に蹴りを叩き込んだ。骨が折れる音がする。悲鳴が上がった。しかしそれはすぐに、大量の発砲音に掻き消される。

 俺はその場から上へと飛びのいた。俺のかわした弾丸がガードマン達の身体に打ち込まれる。


 残ったガードマン達が俺に向かって銃口を構えてきた。俺は〈(ランス)〉をジェネレート、大槍と同時に現れた盾に身をかくす。

 弾丸を全て盾で受け止め、ガードマン達から離れた場所に着地。そして大槍を集団へと構え能力(アビリティ)の〈衝撃(ストライク)〉を発動した。

 大槍から蒼い衝撃波が放たれる。それが男たちを吹き飛ばした。


 〈衝撃〉による攻撃は遠距離武装ほどのリーチはないものの、これで近~中距離武装でも遠くの敵を薙ぎ払える。便利な力だ。


 しかし、どうにもキリがない。ガードマン達は苦しみながらも起き上がってくる。そんなのをいちいち相手にするのも面倒だし……


「ジェネレート、〈(スタッフ)〉」


 身の丈ほどある〈杖〉──全部十二種の武装の中で魔法攻撃力の最も高いそれを、生成した。俺は構え、そして唱える。


「ラル・エンズルド」


 炎属性のレベル4魔法だ。〈杖〉の先から炎の龍が暴れ出る。渦巻く(ほむら)のドラゴンがガードマン達を焼いていった。絶叫とうめきが響く。

 これでしばらくは追って来れないはず。俺は〈杖〉を消滅(バニッシュ)させ、デパートの中へと向かった。


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