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VRで狂った俺が、大切なものをなくして結果的に世界を救う話  作者: 山都
第二章 イカロス、そしてバベル
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7 アバター化能力

 それから、さっきの少年と少女が数人を引き連れてやってきた。

 学ランを着た体格のいい少年が一人、太り気味の少年が一人。この二人は高校生だろう。身長も顔だちもそのくらいだった。

 もう一人は女性だ。歳はいくつかわからないが、ともかく俺より年上なことはたしかだ。笑顔をキープしている。

 先ほどの体格のいい少年は鋭い目つきで俺を睨み、もう一人の太った少年はどこか挙動不審だった。


 全員がやってきたところで、世良が口を開く。


「それじゃあ紹介しよう。この少年は八雲周くんだ」


「八雲? こいつが……」


 体格のよい少年が虚を突かれたような顔をして、言った。目が見開かれている。

 きっと、八雲という名が予想外だったのだろう。俺が小さいころから、よく見ていた反応だ。


 その名は、アルカディア創立の立役者である、八雲博士──俺の親父のもの。今の日本で、その名を知らない者はいない。


「そう、八雲。八雲周くんはバベルに襲われていてね。丁度居合わせた僕が助けたんだ。この度、僕らの仲間になることになった」

「ちょっと待ってください。俺はまだ、あなた達の仲間になるって決めたわけじゃない」

「じゃあ、仮仲間ってことで。それじゃあ早速、仲間の紹介をしよう。それじゃ、まず、さっきの元気なちびっこが」

 そこまで世良が言った瞬間、先ほどの少年が「俺、自分でやる!」と素早く手を上げて声を張り上げた。


「兄ちゃん、俺、風水露草(ふうすいつゆくさ)! よろしく!」


 露草と名乗った少年が俺の前にやってきた。そして満面の笑みで俺に手を差し出す。俺はそれを、軽く握り返した。

 露草はまた笑顔を浮かべ、ぶんぶんと音が聞こえそうなほどに手を振る。それで満足したのか、自分が元いたところに戻っていった。


「で、そっちのおとなしい子が、妹の蓮華(れんげ)ちゃん。二人とも今、小六かな」


 蓮華と呼ばれた少女と目が合った。恥ずかしいのかすぐさま視線を地面へと逸らし、軽く会釈する。

 やはりあの露草という少年と兄妹とは思えない。性格が違いすぎる。顔は若干、似てるんだけれど。


「そしてあそこの学ランの彼が、荒上凌(あらがみりょう)。年は君の、一つ下だね。ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、今って学校はほとんど休校だろ? だからここにいるって感じ。学校サボってるわけじゃないよ。風水兄妹もそんな感じさ」


 荒上凌、とは俺を睨んでいる短髪のヤツだろう。口を開く様子はない。学ランの上からでも、体格の良さがうかがえる。かと言って脂肪が付きすぎているわけでもなさそうだ。引き締まった身体、と言うべきか。

 俺の一つ下……ってことは、香凜と同い年だ。


「で、彼女が芳坂優佳(よしざかゆうか)。本来は専業主婦をやってるんだけど、快く僕らに協力してくれてる」


 芳坂と呼ばれた女性が、柔らかい笑顔を俺に向ける。反射的に会釈をした。大人の女性、といった印象だ。けれど、そう歳もいってないだろう。


「最後に彼が、真瀬健司(ませけんじ)。君と同じ学年だよ。確か中学はこの辺だったから、もしかしたら君と同じ学校だったかもね」


 真瀬、というのは奥の方にいる太り気味の奴だろう。知らない顔だ。真瀬は俺と目を合わせようとはしない。ただ、地面を向いている。


 仲間の紹介は終わりのようだ。世良を含め、全部で六人。少ない。こんな大層な施設を持っているくらいだから、二桁はいるものだと思っていた。


「とまあ、こんなところかな。何か質問は?」

「今、世界で何が起こってるんですか?」


 今一番重要なのは、現状の把握だ。

 香凜の居場所。俺の顔をしたあいつの正体。それを知る前に、まずは俺が眠っていた間に何が起きたのかを知りたい。いや、知らなくちゃならない。


「アルカディアに深刻なシステムエラーが起こったんだ。アルカディアからデータが逆流し、コネクトシステムに流れ込んでユーザーの脳に多大な損傷を与えた──まあ、端的に言えばそんなところだね。つまり、その脳の損傷のせいで九割以上のユーザーがまだ眠ったまま、ってわけ。まあ、これが世間に公表されていることだ」

 けれど、と世良が言葉を続ける。

「アルカディアの集団昏睡事件は、故意的なものだ。大量の意識を失った人間を手に入れるための、ね」

「何の為に?」

「もちろん、国家に反逆するためさ。悪の組織、ってやつだね。あいつら、だいぶ前からこの騒動を計画してたんだよ。僕らはそいつらをぶっ潰すために集まったんだよ。まあ、ほとんど僕が集めたんだけどね。いずれこうなることは、わかっていたし。まあ、色々と事情があって、悪の組織の野望は止められなかったんだけど」

「……その悪の組織とやらをどうやって潰す気なんですか?」

「君も一度、目にしているだろう。〈オメガ〉をプレイしていた僕らはアバター化能力を手に入れた。アレを使えば、人間を超えた存在にシフトすることができる。ここにいるのは全員そうだ。凌、試しにやってくれるかい?」

「あ? 何で俺が」

 名前を呼ばれた荒上凌が不服を露わにする。命令されるのが気に入らない、といった感じだ。


「いや、なんとなく」

 世良は当然のように言う。荒上は舌打ちしてテーブルから降りた。何だかんだで言うとおりにすみたいだ。実は素直な奴なのかもしれない。

 そして、荒上が言う。


「エンゲージメント」


 荒上の身体が光に包まれた。それからすぐにその光は弾け〈オメガ〉のアバターが表れる。

 荒上は、世良や俺の顔をしたあいつ──ヴィティスとは違い、軽装の鎧を身に着けていた。近接武器を主体とするプレイヤーが好む装備だ。

 荒上の両手にはやや大きめの小手が装備されている。近接武器の中でも最も小回りの利く、〈(ナックル)〉だ。

 実際の素手とほぼ同じように動けるのが特徴で、破壊力はそれほど高くない代わりに機動性が高い。


「この姿になれば、僕らはこの世界でもアバターと同じだけの身体能力を持つことができる。武装のジェネレートもできるし、能力(アビリティ)も使用できるのさ。別の言い方をするなら具現化能力(イマジネート)。前からよくあっただろう? エスパーとか、そういう類と同じさ。あれは、元々人が持っていた可能性。想像による創造。思考が空間に干渉するという、力さ。それがアバター化という一点に極められたのが、アバター化能力ってわけ。〈オメガ〉内のアバターデータが先日の事件の際に脳内に逆流し、脳に書き込まれたんだ。それを具現化能力(イマジネート)によって引き出している。ただし、全ての〈オメガ〉のプレイヤーがアバター化能力を手に入れたわけじゃない。その中でもより『自らが変化していく』という想像(イマジネート)を実現できた人だけが、アバター化を行うことが可能なのさ」

「意味が、よく……」

「わからなくてもいいよ。要するに、一部の人間の中の隠された力が、〈オメガ〉をプレイしていたことによって覚醒した。そう思っとけばいいんじゃないかな? だから、僕らは現実でもアバターになることができる。そういうこと」


 ……どうにもバカらしいが、信じるしかない。実際に俺はこの目で見たんだ。疑う余地はなかった。


「凌、もういいよ」

「……ディストラクト」

 荒上の姿が元に戻った。「エンゲージメント」と「ディストラクト」がアバター化のキーワードか。


「俺も、この力を持ってるってことですか?」

「ああ。その通り。察しがいいね。理解が早くて助かるよ」

 早いも何も、俺のことを仲間にしようとしているということは、そいういことなのだろう。


「アバター化の力を使えば、そこら辺の軍隊なんて目じゃない。まあ、人間を超越した身体能力が得られるからね。この力を使って、これから僕らは奴らの施設を叩く。君には、それに協力してもらいたい」

「俺が? 何でですか。俺はまだ、仲間になったわけでもなんでもない」


 そうだ。俺にはそこまでする理由がない。

 確かに世良には助けてもらった。こんなことが起こる前にも、〈オメガ〉内でそれなりに親しくもあった。しかし、それはそれだ。義理はあるかもしれないが、理由には足りえない。


 だが、俺のその考えは世良の次の一言で吹き飛んだ。


「もしかしたら、そこに君の妹さんがいるかもしれない」


 なんだって?

 香凜が、いる?

 それはどういうことだ。


「そしてここにその施設の地図がある。さて、これを──」


 俺は世良が取り出した一枚の紙を、ひったくるように奪い取った。そしてすぐさま外へと駈け出す。こんなところに、もう用はない。


 来るときに通ったドアは、ロックが開いていた。内部から外に出るときはパスワードがいらないみたいだ。

 俺は段ボールの間をかき分けて、エレベーターへと向かう。すぐに一階に着いた。

 見知った土地だ。地図に書いてある場所までどう行けばいいか、大体はわかる。 

 俺は走った。一分一秒でも惜しい。

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