64 求不得苦
目の前に、俺が立っていた。
俺は、俺を見ていた。
この場所には無数のコンピュータと。
無数の脳と。
配線と光と。
静寂があって。
そして、俺と俺がいる。
もう、俺達は限界だった。
立っているのがやっとだ。
絶え間なく苦痛が襲い掛かっていて。意識が何度も何度も薄れかかって。生きているのも奇跡的ってくらいで。
それでも、ああ、それでもだ。
ここで全て、終わらせなくちゃならない。
「何でだ、何でなんだよ……」
俺が言った。
「俺は、俺は香凜と一緒にいたかっただけなんだ。それだけで十分だったんだ。あの日見た星を、もう一度香凜と見たかっただけなんだ。なあ、何でだ? どうしてこうなった? どうしてこうなっちまった? なんでだ、答えろよ」
「さあ、知るかよ」
俺は、俺を見て、言った。
「なるべくしてこうなったって、そういうことだろ。シデンとオヤジと、観測者なんて馬鹿げた存在がいて、俺達は巻き込まれた。俺達に決定権なんて、なかった。そうなるように仕組まれていた。もしかしたら、この世界の神に……」
「なら俺は、誰を憎めばいい」
「俺に答えを求めているのか?」
「そうだ。悪いか?」
「いいや……でも、俺は答えなんてわからない。誰だってそうだろう? 誰も明確な答えなんてわからない。この世界に答えなんてない。自分自身が存在しているかどうかだって、本当は、自分で納得できるような理由をつけていくしかないんだから。誰も、本当の事なんてわからないんだから」
「それでも俺は、答えが欲しい。俺は、どうすればよかったのか。俺はどうしたら、香凜を救えたのか……それは、お前だってそうだろう?」
「当たり前じゃないか」
「……ああ、馬鹿らしいな」
「何が?」
「結局、俺もお前も、一緒だったってことだよ。求めてるものは一緒だった。それなのに、こうなっちまった」
「そういうものだろう、世界は」
「だから、香凜は、俺の前から消えたのか?」
「そういうことなんじゃないか」
「曖昧な答えだ」
「曖昧なことしか、俺には言えない」
「イカれてやがる」
「俺のことを言ってるのか?」
「いいや、世界の事さ」
俺が笑った。俺に向かって、笑った。
ああ、そうだ。その通りだ。
この世界がイカれてなかったら、きっとこうは、ならなかった。




