63 怨憎会苦
銃声。それと共に、ヴィティスが斜め方向に動いた。弾丸をかわし、左右に動きながら俺へと接近してくる。
ヴィティスが俺を射程に捉える直前、武装を〈小型剣〉へと換装した。ヴィティスの振った〈大剣〉を〈小型剣〉の盾でいなし、そして懐に入り込んで刃を振う。
「ぎゃはっ! やるじゃねぇか! だがよォ!」
俺は懐を蹴りつけられ、吹き飛ばされてしまう。宙を舞う間に、俺の身体を何度か弾丸が貫いた。ヴィティスが武装を〈銃〉へと換装したんだろう。激痛が身体を駆け抜けた。
俺は痛みに耐えつつ、空中で体勢を立て直す。だが、その時にはもう目の前にヴィティスが迫っていた。武装は再び〈大剣〉へ変わっている。今度は二振り。〈二刀流〉を発動したんだろう。
ヴィティスが跳躍した。俺の上を取り、そして〈大剣〉を振りかぶる。避けれるか? いや、無理だ。間に合わない。何とか耐えるしか──
「っらよォ!」
すさまじい衝撃が俺を襲った。身体が地面に叩きつけられ、激痛が駆け抜ける。
「消え散れ、クソが!!」
衝撃がさらに増えた。意識が揺さぶられる。感覚が曖昧になる。何かが崩れる音が聞こえた。俺の身体が落下していく。一体何が……そうか、ヴィティスの放った剣激が、床を貫いたんだ。
曖昧な意識の中、俺は空中で体勢を立て直す。直後、地面に着地。足裏に若干の痛みが走る。かなりの高い場所から落ちたみたいだ。俺はその場から飛びのいて、周囲を確認した。
大量のサーバーが見える。ここはコンピュータルームか? 今まで見てきたコンピュータ施設とはけた違いの規模だ。俺の背丈の何倍もあるコンピュータが、そして脳を保管しているカプセル──生態サーバが数えきれないほどに敷き詰められている。
ここはもしや、バベルのメインサーバなのか?
「余所見かよォ!」
不意に、黒の<大剣>が俺を襲った。俺と同じく上から落下していたヴィティスが、目の前に迫って来ていたのだ。咄嗟に<小型剣>をジェネレート、その刃を受けきって──その手が弾かれた。それからワンテンポおいて、ヴィティスが手にしたもう一方の刃が俺を襲う。
俺はそれをもろに喰らった。体が引き裂かれる。けど、血は出ない。痛みだけだ。
だから。
手に持った<小型剣>の刃を、ヴィティスの胸に突き刺した。
「が……ッ、ぎ……ッ」
呻き声が聞こえる。 ヴィティスの身体が一瞬、痙攣。俺はその隙に、刃をねじ込んだ。深く、深く、深く。どこまでも強く、抉るように。
これで終わらせてやる──そう思いながら刃をさらに押し込んだ瞬間、俺は頭を掴まれた。そのまま振り下ろすようにして、俺は地面に叩きつけられる。
そして、俺の頭が何かに貫かれた。頭部が切り裂かれたかのような感覚。激痛を通り越した、感覚すら麻痺しそうな熱さ。それが何度も。頭の骨が全部拉げて、それが脳に全て突き刺さったかのような、そんなどうにもならない痛みの感覚。
「アヒャヒャヒャヒャ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
ヴィティスの笑い声だけが不気味に聞こえていた。俺の身体が小刻みに痙攣している。
ダメだ。
死ぬ。
それは、
ダメだ。
俺の目には地面しか映っていない。それでも、ヴィティスの狂った笑い声が聞こえ続けていた。
俺は<銃>をジェネレート。ヴィティスがいるであろう場所に銃口を向けた。俺の背中に、その位置に、ヴィティスはいる。そう感じながら引き金を引いた。
銃声。
呻き声。
ヴィティスに命中したんだ。
俺は飛び起き、ヴィティスへと視線を向ける。ヴィティスはもうすでに、体勢を整えていた。
俺に向かって跳躍。一瞬で間合いを詰める。そして俺の腹部に、銃口を押し当てた。
弾丸が腹にねじ込まれる。俺はブラックアウトしかけた意識を保ち、そして、ヴィティスの頭上に〈槍〉をジェネレートした。そしてそれをそのまま、ヴィティスの首元に突き刺す。
ヴィティスは、なおも引き金を引いた。
俺は、さらに〈槍〉をねじ込んだ。
お互いがお互いを削り。
お互いがお互いに削り取られる。
自分の消耗などどうでもいい。
ここで終わらせるために。
ケリをつけるために──




