58 アルカディア・システム
俺が引き金を引き、セラが光属性レベル3の魔法を放つ。弾丸と雷球が、シデンへと突き進んでいった。しかしそれは、突如現れた黒い炎のような盾に阻まれてしまう。それは闇属性のレベル2魔法と似ていた。
そして、シデンが俺達に向かい指を向ける。目標を定めるかのように。瞬間、俺達の周囲に大量の氷の矢が現れた。そして高速で向かってくる。
「そう簡単に捉えられてたまるかよ」
セラが〈対魔法障壁〉を発動し、それを防いだ。氷の矢の動きが止まる。その間に俺達は〈疾風〉を発動、瞬時に移動し、氷の矢の射線上から逃れた。
シデンの視線は俺達を向いていなかった。俺達の動きに反応しきれていないんだ。今なら、攻撃が当たるかもしれない、俺は引き金を引き、弾丸を放った。しかし、再びそれは黒の盾に阻まれてしまう。シデンその盾が現れたことで、俺達の居場所に気が付いたみたいだ。まさかあの盾は、シデンの意識に関係なくオートで現れるのか?
瞬間、俺の背後から強い発光。俺が後ろへと視線を向けると、そこには無数の光の雷球が現れていた。そして、俺に一直線に向かってくる。
「グラファ・リウ・ダクズルド」
セラが闇属性の魔法を唱えた。闇の力を纏った巨大なグリフォンが、一瞬で雷球を掻き消した。そのままグリフォンはシデンを捉え──
「甘いな」
その声の直後、グリフォンが大量の光の矢に貫かれた。そして消滅。すると今度は、天井に大量の光の矢が現れた。そしてその矢が俺達に向かって降り注いでくる。
俺達は同時に、〈対物理障壁〉を発動した。上から降り注ぐ光の矢を、その盾で防いでいく。一瞬でも気を抜けば、突破されてしまいそうなほどの圧力だ。俺は〈対物理障壁〉の維持に神経を集中させる。そして。
真横から、俺の腹部が金属の槍によって貫かれた。
「な……ッ」
激痛が走る。〈対物理障壁〉の維持が弱まった。盾が崩壊し、俺の身体が光の矢によって貫かれてしまう。激痛が全身を駆け抜けた。
「周くん!」
セラが魔法を放つ。光の矢がかき消されて俺の身体が自由になった。俺は自分の身体から槍を引き抜いて、〈回復・極〉を発動する。そしてその場から駈け出して、距離を取った。
「何でもありか、あれは……」
「そういうわけじゃなさそうだ。付け入る隙はあるさ」
呼吸を整える俺に、セラが答えた。そしてセラはシデンを見つめ、叫ぶ。
「なあ、紫電。それ、まだ不完全なんだろ?」
「ほう、何故そう思う?」
シデンが動きを止めた。セラの話を聞こうってのか。
「アルカディア・システム──それは今のところ、〈オメガ〉のデータを元にしたものしか具現化できない。違うか? さっきから魔法とか能力ばかりを具現化しているからね。なるほど……お前はまだ思考の一体化を進められていないんだな?」
「さあ、それはどうだろうな」
「図星なんだろ? 素直になれよ」
「どういうことだ? 〈オメガ〉のデータだと?」
「あのアルカディア・システムは人間の脳を、その具現化能力を媒介にして機能している。香凜ちゃんの具現化能力をメインに、そしてその他大勢をサポートとして動いているんだ。つまり、大勢の具現化能力を一つにして動いているわけ。そして、具現化能力とは意識の集中でもある。アルカディア・システムに使用されている脳全てが、具現化するものを一つに絞らなくちゃならない。そこにブレがあってはダメなんだ。例えば『本』と言うものを具現化するとしても、どんな本を思い浮かべるかはわからない。具体的な対象を思わなければならないんだ」
ああ、そういうことか。
「……つまり、それをやりやすくするために〈オメガ〉魔法を具体的な対象として指定しているということか?」
「そうだね。元々アルカディアやVRゲーム〈オメガ〉の存在意義は、具現化能力者の選別と共通意識の固定化にあった。それはまあ、紫電にとって、という意味だけど……まー、ようするに、今の紫電は魔法や能力をぶっ放すことしかできないってことさ。大したことないよ」
「言ってくれるな、観測者」
シデンがこちらへと手のひらを向けた。そして、セラが笑う。
「まあ見せてやろうぜ。俺達はひたすらここまで戦い続けてきたんだ。後ろの方で偉そうに指示出してただけのおっさんに、負けてたまるかよ。だろ?」




