表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/69

55 破壊



 斬撃がヴィティスを捉えた。わずかな呻き声が聞こえる。瞬間、ヴィティスが動いた。その身体を捻り、再び〈大剣〉を振った。一つ目の刃をかわす。しかし、二つ目の刃は避けきれない。俺は〈小型剣〉の盾でそれをガード。すさまじい衝撃が盾に走り、俺は吹き飛ばされた。

 俺はそのままヴィティスから距離を取る。武装を〈(ガン)〉に変えて、引き金を引いた。ヴィティスは高速で円を描くように走り、射線を外してくる。


「わけわかんねえことほざきやがって! 知った風な口して語りやがって! 何だ、説教か? 上から目線ってのが腹立たしいね。クソが、うぜえ、ムカつく、ぶっ殺す! テメェてぇな奴がいるから、テメェみてぇな奴がいるから香凜はよォ!!」


 俺は引き金を引く。鉛玉がヴィティスの身体を捉えた。一瞬その動きが止まり、しかし──再び動き出す。二振りの〈大剣〉を振りかぶり、そしてヴィティスは叫んだ。


能力(アビリティ)、〈轟爆双神斬刃(ごうばくそうじんざんぱ)〉!」


 二つの刃が〈大剣〉から放たれた。俺は三日月型のそれを回避する。だが、刃は俺が回避したその瞬間に、すさまじい爆発を引き起こした。熱さをともなった衝撃が俺を襲う。爆風に吹き飛ばされ、俺は地面を転がった。熱い。苦しい。視界が回転し、それがゆっくり感じ取れる。

 数度転がったところで、俺は身体を起こす。すぐさま体勢を立て直すが、その時には既に、ヴィティスが目の前に迫っていた。

 ヴィティスが二振りの〈大剣〉を俺の肩に突き刺した。刀を突き刺したまま、力任せに走り切ろうとする。俺は〈銃〉の引き金を引いた。銃声が鳴る。弾丸がヴィティスの身体を貫いた。だが、ヴィティスは止まらない。痛覚がマヒしているのか。クソ、これが〈狂人化〉の力──いや、それだけじゃない。こいつはそれ以外にも、強化系の能力を使っているんだろう。

 俺の身体をドームの壁に叩きつける。背中に激痛が走った。体が一度、大きくバウンドする。息が吐き出されたその瞬間に、再びヴィティスが口を開いた。


「死んじまえ、〈雷魔鳴双(らいまめいそう)〉!!」


 俺の両肩に突き刺さった〈大剣〉から、鋭い雷流が流れ出る。俺の全身を雷が暴れまわった。視界が明転と暗転を繰り返す。激痛が走り、俺は声にならない絶叫を上げた。

 そして、雷流が止む。

 心臓が破裂しそうなほどに暴れまわっていた。呼吸が荒い。俺の前には、狂った笑みを見せるヴィティスの姿があった。俺の両肩には〈大剣〉が突き刺さったままだ。身体を自由に動かすことができない。


「何もかも奪い尽くしてやらァ! 〈全知全能(オール・オール)〉!」


 ヴィティスの黒い手が、俺の身体に吸い込まれるように入っていき──

 俺は意識を集中させる。全身の全てを把握し、アバター化した肉体を、己の細胞一つ一つを把握していく。俺が全てで、全てが俺だ。俺は今、俺だけだ。そう、自分の身体の完全な把握は、そのまま異物に対する最大の防衛になる。

 今、俺の身体に何かが入り込んできた。不快で気味の悪い力。ヴィティスだ。それが俺から俺を奪い取ろうとしている。させるか。

 俺の中のヴィティスを感覚。不気味なそれを、俺は俺の中から拒絶した。

 瞬間、閃光が走る。

 ヴィティスの右手が、俺の体の中から弾かれる。その身体が強く仰け反った。


「クソ、プロテクト!?」


 困惑の声。チャンスだ。今、ヴィティスは完全に無防備。この好機を逃すわけにはいかない。俺はすぐさま〈銃〉を構えた。それをヴィティスの身体へ向け、引き金を引いて──

 それと同時、ヴィティスがその左手を素早く俺へ伸ばした。弾き飛ばされたのと逆の手だ。〈銃〉から放たれた弾丸が、その手を貫く。ヴィティスの表情が歪んだ。苦痛にではない。不気味な笑みにだ。そして、銃身を掴まれる。俺は構わず引き金を引いた。銃声の後、弾丸がヴィティスへとめり込む。獣のような叫び。直後、とてつもない力が〈銃〉にかかった。ヴィティスがその腕力をもってして、俺の手から〈銃〉を奪い取ろうとしているんだ。

 俺はその力に抗いながら、もう一度引き金を引く。だが、それより一瞬早く、俺の手から〈銃〉が奪われた。小型の拳銃が宙を舞う。そしてヴィティスは俺の右肩から〈大剣〉を引き抜いた。痛みが走る。同時、ヴィティスがその〈大剣〉を高々と振り上げた。


「これで終いだ!!」


 勝ち誇った叫びを、ヴィティスが上げる。

 だから俺は。

 左手に握っていた(・・・・・・・・)もう一方の(・・・・・)〈銃〉を、ヴィティスに向けた。


「な……ッ!?」

「〈流星超連弾(ミーティア・ノヴァ)〉」


 〈銃〉から強烈な光が放たれる。それは瞬時にヴィティスの身体を貫いて、そしてその身体を強く振わせた。

 ヴィティスの身体が吹き飛び、その表情が困惑に染まる。何が起きているのかわからない、ってところか。なんてことはない、俺はただ、二つ目の〈銃〉をジェネレートしていたという、それだけだ。

 宙を舞うヴィティスに、俺はもう一度銃口を定めた。


「〈テオ・ブラスト〉」


 螺旋を描く赤のビームが、ヴィティスの身体を貫いた。絶叫が上がる。俺はそれを耳にしながら、左肩から〈大剣〉を引き抜いた。身体が地面に着地する。身体に痛みが走った。俺は〈回復・極〉を発動し、ダメージを回復させる。


「二つ目の〈(ガン)〉だと……!? 何故……!?」

 ドームの中心、祭壇の近くまで吹き飛ばされたヴィティスが、喚くように言った。

「そういう能力(アビリティ)が、あるんだよ」

 そう、〈二丁拳銃(ツインバレット)〉。銃系統の武装を、二つ同時にジェネレートできる能力(アビリティ)。これはレンゲのものだ。あいつが、別れ際に俺にくれたんだ。こいつを無くしたレンゲは、きっと……いや、今はこのことを考える時じゃないか。

 俺は〈銃〉をバニッシュ、二丁の〈魔法銃〉を同時にジェネレートした。その二つをヴィティスに構え、魔法を唱える。


「レギス・ヴィ・ダクゾルファ、レギス・ヴィ・ライゾルファ」


 闇の魔神と光の魔神、二つのレベル7魔法が入り混じる。白と黒の螺旋を描きながら、それはヴィティスに直撃した。

 衝撃、閃光、爆風と振動。ヴィティスだけではなく、周囲のものも巻き込んでいく。ドームの壁付近にいる俺のところまで、その爆風が届いた。

 閃光が止む。遠くでヴィティスが倒れている。そして、部屋の中心にあった祭壇がなくなっていた。コンクリートや金属が、ばらばらになって辺りに飛び散っている。祭壇の上にあったカプセルは、かろうじて原型をとどめたまま、ヴィティスの近くに転がっていた。

 カプセルは先ほどの衝撃で数か所が欠けて、その蓋にあたる部分が開いている。その蓋のガラス部分には無数のひびが入っていた。

 ヴィティスが、呻き声を漏らしながら身体を起こす。そして、カプセルに気が付いた。


「あ……香凜……?」


 ヴィティスが間の抜けた声を上げた。今までの叫びからは考えられないような声を。そして、這いつくばるようにしてカプセルに向かって行く。その姿はまるで、足を捥がれたかのようだった。


「香凜……香凜……!」


 そしてヴィティスはカプセルに縋りつく。蓋の開いたそれに身体を寄せた。香凜の無事を確かめようとしているんだろう。でも、あいつだって、本当はわかっているはずだ。そんなこと、無駄だって。

 俺は〈魔法銃〉をヴィティスへと構えたまま、前に進む。ヴィティスがカプセルの中を覗いた。俺もつられて、視線を動かす。

 そこには、身体の捻じれた香凜の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいな、と思ったら「小説家になろう 勝手にランキング 」のクリックお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ