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53 死合い


「〈超人化(ウルティメイト)〉」

「〈狂人化(バーサーク)〉」


 思考が加速される。神経が研ぎ澄まされる。何もかもがぬめりを帯びたように遅くなっていき、相対的に俺の意識だけが速くなっていく──いや、俺だけじゃない。ヴィティスもそうだ。ただ、あいつの場合は意識が加速しているわけじゃない。単純に速いんだ。〈狂人化〉ってのはそういうもの。理性をすっ飛ばして、力だけを与えるもの。

 ヴィティスが俺に突っ込んでくる。俺は刃を振い、〈衝撃(ストライク)〉を発動した。〈大剣〉から放たれた刃が、ヴィティスを襲う。だが、ヴィティスはそれを跳躍して回避、そのまま俺に向かい、上空から〈大剣〉を振り下ろした。

 俺は咄嗟に後ろへと跳んでそれをかわす。鼻先を〈大剣〉が掠めた。さらに距離を置こうともう一度地面を蹴った時、再び俺を刃が襲った。ヴィティスがジェネレートした二つ目の〈大剣〉が、迫ってきたのだ。ツユクサから奪った、〈二刀流(ダブルブレイド)〉か。

 俺は〈大剣〉でその刃をガード、だが衝撃は殺し切れず、横へと飛ばされる。〈大剣〉から手を離し、俺は地面に滑るようにして勢いを殺した。そして新たに〈双剣(ダブルエッジ)〉をジェネレート、〈疾風(ストリーム)〉と併用してヴィティスへ接近、その懐に潜り込む。

 ヴィティスも武装を〈大剣〉から〈双剣〉へと換装していた。大回りな武装は不利だと考えたんだろう。俺は〈双剣〉を振りかぶった。ヴィティスもそれにこたえる。俺の刃とヴィティスの刃、それぞれ二つの切っ先が衝突した。何度も何度も俺とヴィティスの間で金属音が繰り返され、衝撃と振動が俺達に伝わってくる。


「楽しいなァ、楽しいよなァ、ニセモノォ! こんな激しく殺し合えるなんて、あぁ、俺は最高だ。なあ、テメェだってそう思うだろう!?」

「そうは思わない。ただ俺は闘うだけだ。お前を殺してシデンを殺して、約束を果たすって、それだけだ」

「気取ってるんじゃねぇよ。所詮はテメェも犬畜生だろうが。ちょっと頭のいいだけの猿だろうが。快楽に身を任せてみろよ。最高の舞台を楽しもうぜ。ああ、そうだ。俺と香凜のアルカディアの、そのお膳立てって言う素敵で名誉な舞台をよ!」

「知るか、そんなもの。そんなこと俺に関係ないだろう?」

「クハッ! そうかよ、つれねぇな。でもよ、テメェの殺気、ビンビンくるぜ。最後に逢った時とは比べ物にならねぇほどにな! いいぜ、いいじゃねぇか。この刃も、切っ先も、全てが俺を殺すためにある! これだよ。こういうのを望んでたんだ。殺し合いだ。殺し合いをよ!」


 ──こいつの叫びは、何かに縋ろうとしているみたいだ。ある意味、俺と似ている。何かに依存しようとしている。ああ、そうか……こいつは、自分の狂気に依存しているんだ。俺が、自らの存在を肯定してもらいたかったように、こいつは狂って自分を肯定している。狂わなきゃきっと、生きていられなかったんだ。もしかしたらこいつ自身、こいつが八雲周の改竄された存在ってことを、知っているのかもしれない。俺が八雲周のコピーであるように、こいつだって造られた存在なんだ。そして、それを認めたくないから……


「テメェを殺したらきっと、香凜は目を覚ます! あのカプセルから出てきてくれる! 俺が俺だけであることを証明できれば、ニセモノ、テメェを殺せば香凜は戻ってくるんだよ! なぁ、そうだろ!? だから死ね。テメェはここで、死んじまえ!」


 俺達は互いに弾けるようにして、距離を取った。そして同時に武装を換装、俺の前に〈魔法銃(エクストラ・ガン)〉が、ヴィティスの前には二振りの〈魔法剣(エクストラ・ブレード)〉が現れた。

 俺は能力(アビリティ)流星超連弾(ミーティア・ノヴァ)〉と金属製レベル4魔法(エクストラ・アビリティ)を発射。無数の弾丸と鉄の獣がヴィティスに襲い掛かる。ヴィティスは魔法(エクストラ・アビリティ)を二振りの〈魔法剣〉からそれぞれ放ち、俺の攻撃を相殺した。

 爆発が起きる。周囲に衝撃が走った。金属片が俺の頬を掠めていく。皮膚が切れた。血が僅かに流れ出す。そしてその血が首元へと到達した瞬間、ヴィティスが魔法を放った。レベル6の魔法、地属性の龍が俺に襲いかかってくる。俺はそれをレベル4魔法を数発放ち、掻き消した。土龍がバラバラに散っていく。土煙が舞い、視界が一瞬隠れる。その中を突っ切るようにして、ヴィティスが間合いを詰めてきた。

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