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50 犠牲



 地下に進むにつれ、敵の数が多くなっていく。爆発音と、銃声と。金属音と、魔法(エクストラ・アビリティ)の衝撃と。能力(アビリティ)がいたるところから放たれて、そして俺達はそれを避けて、応戦する。

 通路の奥から、オートマターやアバター能力者が何人もやってくる。まるで肉の壁だ。倒しても倒してもキリがない。

 後ろからも敵が迫ってきていた。挟み撃ちにされているんだ。背後の敵に気を遣いつつ前進するというのは、容易ではない。火力は単純に分散するし、その分だけ進む速度が落ちてしまう。

 オートマターを破壊し、アバター能力者を殺す。血が舞う。悲鳴に銃声が被さって、その中を俺達は進んでいった。


「おい、周」

「なんだ?」


 突然、アラガミが声をかけてきた。爆音の鳴り響く中、俺はその声を確かに聴きとる。


「お前はここから先、どう進むつもりだ?」

「どうって?」

「これが終わった後だよ。何がしたい?」

「そうだな……何も考えてない」


 今までずっと、そうだった。香凜に逢いたいとか、オヤジとの約束を果たしたいとか。その程度でしかない。この先バベルを倒したとして、俺に何が残るだろう? 何も残らないかもしれないのに、何故俺は闘っているんだろう?

 気持ちの問題? 多分そうだ。感情の理屈が、俺をそうさせている。


「どうして今、こんな話を」

「こんな時だから、ってやつだ」

 俺はオートマターに向かって、〈(ガン)〉の引き金を引いた。弾丸が鋼鉄を貫いていく。

「聞いときたかったんだよ。お前って奴が、どんなふうに考えてるのかをさ」

「なら、お前はどうなんだよ、リョウ」

「意外と人間って、考えることは似通ってんだな、って思ったよ」

「そういうものだろう? 明確に答えを持っている奴なんて、一握りだ」

「ああ、そうだな。その通りだ」


 不意に、荒上が背後を振り向いた。〈(ナックル)〉を翳し、能力(アビリティ)を発動する。〈猛虎大覇拳(もうこだいはけん)木極(もくぎょく)〉。木々を纏った拳が放たれ、オートマターを貫いた。そして枝と根が通路を遮り、後ろから追ってくる敵を断った。

「ナイスだ。なら僕も」

 セラが前方に〈魔法剣(エクストラ・ブレード)〉を振った。金属を身に着けた魔神がオートマター達を蹴散らし、道を切り開く。

 そして、先に進む。俺とセラ、そしてレンゲが地面を蹴った。だがただ一人、アラガミだが一歩もその場を動かない。


「どうしたんですか、荒上さん」

 レンゲがアラガミに問いかける。アラガミは振り向こうとせず、俺達に背を向けてたまま、言った。


「先に行け。ここは俺がどうにかする」

「待て、リョウ。この数を相手にそれは無理だ」


 今はまだ、枝や根によって後続が阻まれている。だが、それも時間の問題だ。オートマターからの銃撃は今も続いているし、時間が経てば樹木は千切られて敵が押し寄せてくる。

 その中で一人残るというのは──


「無理だろうが何だろうが、このままじゃ埒が明かねぇだろ。こうするしかねぇんだよ」

「凌、それは」

「うるせぇな。なあ、世良。今更戸惑ってんじゃねぇよ。散々俺のことを利用してきたんだろうが。だったら最後の最後まで利用し続けてみろよ。それでいいじゃねぇか。何も問題ねぇだろう?」


 アラガミが両の〈拳〉を掲げた。その手に炎が滾り、そして揺らめいて膨れ上がっていく。

 アラガミはほんの少しだけ俺達を振り向いて、言った。

「頼むぜ、お前ら。ここが片付いたら、俺も追うからよ」

 そして〈拳〉を振りかぶる。炎の波動が放たれて、絡み付いた樹木ごとオートマター達を焼き尽くした。

 

 アラガミの決意が揺らぐことは、きっとないだろう。

 俺達は誰が言い出すわけでもなく、その場から駈け出した。別れの言葉は必要ない。アラガミが望んでいるのは、多分、そういうことじゃないから。

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