49 突撃
俺達はどこかへ向かっていた。
都会の中を、俺達はアバターの姿で移動している。オートマターやバベルに脳をコントロールされた人間たちに、見つからないように。
今や、日本は完全にバベルの支配下だった。日本だけじゃない。世界中でそうなっている。
逆らう人間たちは少なからずいた。けれど、バベルが事を起こした時点で、世界各国の軍事力は大幅に削られていたんだ。今抵抗を続けているのは、義勇軍的な存在しかいない。
俺達はそういった存在を辿りながら抵抗を続けていた。そう、全てはバベルを潰すために。
今、目指しているのは……バベルに関する施設だったはずだ。そうだ、俺達はバベルに攻め込むんだ。
最近、記憶があやふやになってきている。闘うってことだけに全てが特化してきているんだ。そのほかを全て捨ててしまったような、何もかもを捨て去って島たかのような、そんな感じがする。
「見えてきたよ。あれが、バベルの本拠地だ」
セラの視線の先にあるのは、巨大な施設だ。都心のビル街のような印象を受ける。一件では、研究施設のようには見えない。規模の大きな施設だ。
「あそこは元々、紫電光鸞の所有する研究施設だったんだ。もっとも、その地下にバベルという強大な組織を抱えていたんだけれどね。あそこにはアルカディアのメインサーバーの一部がある。まあ、アルカディア自体、紫電光鸞の作品だからね」
そのビルの前には、大量のオートマターが配備されていた。人の姿もある。恐らく、アバター能力者だ。
「どうするつもりだ、世良。やっぱりまた、囮を使うのか?」
アラガミが問う。
「いや……もうここまで来たら、そんなの意味ないな。ここは今までのところと違って、本部だからね。紫電の秘密兵器も眠っている。そう簡単には突破させてくれないさ。ばらけたって、各個撃破されるだけ。今回は集団戦だね」
あれから、ずっと闘ってきた。それ以外にも、セラ達と交わした言葉の断片的な記憶があるけれど、きっかりワンシーンとしては思い出せない。細切れのビデオを再生しているような感じだ。それに、結合性がない。
これが、〈超人化〉の反動なのだろう。
俺と言う存在を曖昧にして、代わりに力を手に入れて。ただひたすらに、刃を振って、引き金を引いて。
セラの思惑に乗せられてじゃない。皆、自分たちがそうしなくちゃと、思っているんだ。俺の中の断片的な記憶が、そう言っている。
ここでやらなくちゃ、バベルが全てを飲み込んでしまう。だからやる。アラガミもレンゲも、そう思ってる。多分、セラだってそうだ。そして俺は──香凜に逢いたい。そして、オヤジとの約束を果たしたい。
オヤジを殺す。香凜を救う。でも、もしかしたら、香凜はもう……
何を考えているんだろう、俺は。漠然と曖昧にだけど、そんなことを考えてしまう。突発的で、すぐに消え去ってしまうような言葉達。俺の中で、すぐに溶けてなくなっていく。
考えたくないのか? そうかもしれない。
「さあ、行こうか。これが最後だ」
セラが呟いた。
これで終わりだ。それはきっと、誰もが分かっているだろう。バベルを潰せても、潰せなくても、多分、もう終わりだ。生きるか死ぬかの二択しかない。そして、どっちの方が確立が高いかってことも、わかってる。
でも、そうせずにはいられないんだ。
何故だっけ? ああ、もう思い出せない。けど今はそんな理由、どうでもいいか。
そして、俺達はその場から飛び出した。俺達にオートマターのセンサや、バベルに制御された人間の視線が集中する。銃口が構えられた。
アバター化は既に済んでいる。全員が即座に武装をジェネレート。レンゲが〈杖〉を握りしめ、そして魔法を唱えた。〈魔法剣〉を装備したセラも、それに続く。
地の魔神と炎の魔神、二つのレベル7魔法が、オートマターや人間たちを襲った。衝撃で大地がめくれあがり、爆発が起きる。その中で炎が人や機械を焼き尽くした。
躊躇いはない。殺さなければならない。
もう、あの人間たちは助からないんだ。ええと……マセの時と同じだ。マセを撃ったあの人間が、理性を完全に飛ばされていたのと一緒。
残った人間やオートマターたちが起き上がり、俺達に銃口を向けた。だが、それは無視だ。目の前には突破口がある。
魔法の衝撃で捲れた地面を、俺達は走った。時折巨大なオートマターが放つ特大のレーザーにだけ気を付けながら、俺達は先に進む。
「あそこだ」
ビル群を進む中で、セラがある一つの建物を指差した。そこが地下施設の入り口、ということなんだろう。その間にも、俺達は〈魔法銃〉や〈弓〉で周囲をけん制しつつ、進んでいく。
その建物の前にたどり着いた。だが、不意にその建物の入り口が分厚いシャッターで閉じられる。そして、俺達の前に、大量のオートマターとアバター能力者が立ちはだかった。
俺とアラガミがその集団に接近。〈大剣〉と〈拳〉を使ってそいつらをなぎ倒していく。
俺の振った刃が肉を切り裂き、鉄を断つ。アラガミの一撃が内臓を破壊し、装甲を貫通させる。後方でははセラとレンゲが〈魔法銃〉を放っていた。俺達に向かって放たれた魔法を、魔法で掻き消している。
その援護を受けながら、俺達は集団を襲う。能力を放って、敵を吹き飛ばした。血が舞う。苦痛による悲鳴というよりは、反射的で本能的な絶叫が辺りに響いた。
「俺があの壁を破壊する」
アラガミが壁へと間合いを詰めた。俺は武装を〈大剣〉から〈魔法銃〉へと換装、アラガミを狙うアバター能力者やオートマターを、魔法と弾丸で撃ち貫いていく。
「能力、〈雹冴蒼乱撃〉!」
アラガミがシャッターを殴りつけた。その一撃が壁を凍らせていく。さらに一撃。もう一撃。何度も何度も殴りつけ、その壁全体を氷結させた。そして──
「能力、〈猛虎大覇拳・木極〉!」
〈拳〉から放たれた木々を纏った虎が、シャッターに激突する。凍った扉に枝や根が突き刺さって、壁を破壊。氷の破片が辺りに飛び散って、そしてビルの中への道が開けた。
「よし、凌。よくやった!」
セラの声と共に、俺達はビルの中へと駆けていく。




