5 介入、魔法、〈跳躍〉
〈大剣〉が弾け飛んだ。それは目の前の男の手から離れると、そのまま部屋の壁に激突する。
「あ? んだよ、これは」
男は苛立ち交じりに〈大剣〉を弾き飛ばした何かを──地面に転がる、紫色の弾丸を踏みつけた。そして、その弾丸がやってきた方向を、その弾丸によって貫かれた窓ガラスの向こうに視線をやる。
次の瞬間、その窓ガラスを突き破って一人のオレンジ色の鎧を着た男が部屋の中に飛び込んできた。
破片が部屋の中へ飛び散る。鋭い音が俺の耳を打つ。そして部屋の中に飛び込んできたその男が突然、痛いなぁ、と呟いた。
「ガラスの破片でチクチクする。全く、映画だとほぼ無傷でなんとかなってるけど、あれって嘘だったんだね」
そいつも、〈オメガ〉のアバターと同じ格好をしていた。というか、俺はそのアバターを知っている。一週間前、昏睡状態に陥る前に会ったばかりだ。そう、そいつは……
「セラ……? どうして……」
「やぁ、ソーマくん。いや、今は八雲周くんって呼んだ方がいいかな? 助けに来たよ」
セラの姿をしたそいつが、俺に向かって笑いかけた。
何が一体どうなっている。もう、頭が追いついてこなかった。ただ、セラが俺を助けてくれた、ということだけはわかる。でも、何で現実でアバターの姿でいるんだ? それに、どうして俺を助けてくれた?
「ああ? なんだよ、テメェは。俺の邪魔をするんじゃねぇ!」
黒い鎧を着た男が、叫んだ。
「ジェネレート、〈双剣〉!」
途端、男の目の前に〈双剣〉──〈オメガ〉の全十二種のうちの一つ、近距離武装のそれが現れる。
男がそれを握るのと同時、セラが手に持った拳銃、〈銃〉の引き金を引いた。
紫色の弾丸が放たれる。男は〈双剣〉でそれを切り裂くと、セラに切りかかった。
「ったく、血気盛んだなぁ。出てこい、〈魔法剣〉」
セラは〈銃〉を消滅させると、〈魔法剣〉をその場に生成する。〈双剣〉の刃をその〈魔法剣〉で受け止め、そして手のひらを男へとかざした。
そして一言、呟く。
「ライゾルガ」
セラの手から雷が放たれた。ライゾルガ──光属性のレベル3魔法だ。鋭い閃光が男の腹部に直撃した。男が廊下へと弾き飛ばされる。
まるで、〈オメガ〉の中のよう。二人の戦闘は正にVRゲームのそれだ。
武装の生成、消滅、そして魔法の発動。
リアルではありえない。ありえるはずがない。
しかし、俺の目の前でそれが起きている。
「悪いね、ヴィティス。この少年は僕らのジョーカーなんだよ。悪いが、ここで君らに殺されるわけにはいかない」
セラはそれだけ言うと、俺へと向き直り、そして柔らかい笑顔を見せた。
「それじゃ、逃げよっか」
セラが俺のことを抱きかかえる。俺はされるがままにじっとしていた。
セラはガラスの無くなった窓へと足を引っ掛けて跳躍、家を飛び出す。俺たちの身体が宙を舞った。
「待ちやがれ、テメェら!」
あの男の叫び声が聞こえてきた。家の中から俺たちに向かって〈銃〉を構えている。そして今、引き金を引いた。
「まったく、嫌になっちゃうね」
セラが一言そういうと、俺たちの身体が急に上昇した。俺はこの感覚を知っている。そうだ、これは固定能力の、一定レベルに達すると全てのプレイヤーが手に入れることのできる、〈跳躍〉だ。
それからもう、男の追撃はなかった。諦めたのか、それともそうせざるを得ない理由があったのか。そのどちらかはわからないが、ともかく俺達は、無事に逃げることができた。
「僕らの隠れ家に案内するよ。もう少しの間、辛抱しててくれ」
民家の屋根を飛び跳ねながら、セラが言った。俺は無言で頷く。どっちにしろ、俺に選択することはできない。