46 変わりゆくもの、それ即ち世界
ところで、サイドストーリーを投稿しました。
今のところ、風水兄妹と荒上凌のだけですが。
前の方にぶっこんどいたので、興味のある方は目を通してくれると嬉しいです。
意識が揺れる。身体の感覚がズレたような気がした。そう、アバターの器と自分の身体、その感覚の違いのせいだろう。
元いた現実に戻ってきたんだ。
外から爆発音が聞こえてくる。戦闘は過激化しているようだ。相手は相当な数がいるのだろう。
俺はメットを取り、起き上がった。
「エンゲージメント」
そして俺は一言、呟く。
光に包まれた。俺の身体がソーマのそれへと変わり、防具が纏われる。俺の知らない防具だ。けど、俺の今までの装備よりも、格段に性能が上がっている。トップレアと言われても、まったく疑わないくらいに。
身体も軽い。基礎ステータスが底上げされていた。レベルもマックスになっている。これじゃまるで、チートだ。
けど、悪くはない。俺には必要な力だ。
「ジェネレート、〈靴〉」
俺の足に武装が生成される。そして俺は、地面を蹴った。コンピュータまみれの施設を飛び出して、洞窟の中を走り抜ける。
「能力、〈疾風〉」
俺は〈疾走〉の上位種である〈疾風〉を発動した。さらに加速。俺の頬を風が撫でていく。
速い。まるで生まれ変わったみたいだ。
あっという間に、洞窟の外へ出た。
目の前では、世良が魔法を放って敵のアバターに応戦している。武装は〈魔法剣〉。
「やあ、周くん。お帰り。久しぶりの対面はどうだった?」
世良は若干後ろを振り向きつつ俺を確認、余裕綽々、と言った様子で語りかけてくる。
「別に。何もなかったさ。ただ」
「ただ?」
「この力は、気分がいい」
俺は、その場から駈け出した。
武装を〈靴〉から〈魔法銃〉に変更する。世良を追い越し、敵のアバターに接近した。
「ラル・カイズルド!」
俺の〈魔法銃〉から水龍──水属性のレベル4魔法が放たれる。敵のアバターはそれに応戦して、レベル6の木属性の魔法、巨大な木龍を放った。
属性的に考えれば、水属性は木属性に弱い。さらにレベルも二つは違う。通常なら負けるだろうが──
俺の放った水龍は、巨大な木龍を貫いた。木龍がその場で四散する。そして水龍はそのままアバターを飲み込んだ。
悲鳴が響く。その間に俺は武装を〈大剣〉にジェネレート。アバターへと接近した。
〈疾風〉で一気に間合いまで飛び込む。そして〈大剣〉を振い、能力を発動した。
「〈金剛次元魔剣〉」
苦痛に顔を歪めるアバターに向かって、俺は〈大剣〉を振りぬいた。黄金の刃がその身体を切り裂く。恐らく何が起きたかを理解するまもなく、そのアバターは光に包まれて──球体となり、赤い血をまき散らした。
まずは、一人。
途端、四方から銃声が聞こえてきた。自動防衛機械だ。それに混じって、魔法も俺に襲いかかってくる。
俺は〈対魔法障壁〉を発動、魔法からそれで身を守り、〈小型剣〉をジェネレート。致命傷となる弾丸を盾で防ぎながら、その弾幕を突破した。
〈対魔法障壁〉を発動中は、物理防御力が下がる。だから本来は、弾丸を大量に受けたら〈小型剣〉の盾は壊れるはずなんだけど──今回は、もった。俺自体の防御力と、武装の耐久力が格段に向上しているんだ。
包囲網を突破した俺は、〈槍〉をジェネレート。やや離れたところから〈衝撃〉を放って、目の前の敵を蹴散らしていく。
だが、キリがない。
遠くでも闘いの音がした。荒上と蓮華が戦っているんだろう。世良も、新しい敵と戦っていた。樹海の中で銃声と轟音が響き渡っている。
俺の存在に気が付いたのか、敵は皆、俺の方に集まって来ていた。ターゲットは俺、ということなんだろうか。
多勢に無勢、やってやれないことはないだろうが、それでも厳しい。
──結局、やるしかないわけだ。
新しい力、〈超人化〉。脳に負担をかけるから、多用はするなと言われた。だが、ここは使うべき場面だ。やられて死んだら元も子もないだろう。
自分が誰かすらもわからなくなる、か。
流石だ、クソ親父。どうせなら負担を少なくするものを作っておけ、と思う。まあ、そういうところが俺と親父の、血のつながっている証拠なのかもしれないが……
自動防衛機械とアバター能力者に囲まれた。いよいよ絶対絶命、というわけだ。
まあいいさ。やるか、やらないかだ。俺は俺だ。それだけは変わらない。例え、俺が俺を忘れてしまったとしても。
だから──俺は、それを口にした。
「能力、〈超人化〉」
瞬間。
意識が加速されていった。相対的に、周囲がスロゥに見える。〈狂人化〉の時は、俺の身体能力が上がるだけだった。けど、〈超人化〉は意識まで高速化していくんだ。なるほど、これはいい。相手の動きがわかりやすい。
四肢の感覚が鋭敏化される。腕。手。足。胴。指。その先。細胞。血管すらも。全てを感覚できる。何もかもが俺だ。全てが俺で、俺が全てだ。
そうか、この感覚が〈超人化〉ってことか。自己の完全把握。理性による肉体の私有化。ああ、これは確かに今までにない感覚だ。血管が開いているのがわかる。心臓の鼓動が、その筋肉の動きまでが感覚できる。その中の細胞が。身体を巡る血液が。何もかもが。
確かに、親父が「狂う」と言っていた理由がわかる。これは今までの俺じゃない。俺の感覚したことのない俺だ。気味が悪いと言えば、気味が悪い。でも俺は──心地いいとも、思っていた。
ああ、最高だ。最高に、最高だ。
俺は足の裏に力を込めた。指で地面を蹴りだす。筋肉が躍動した。俺の身体が前へ。前へ。前へ。
自動防衛機械が銃を撃ってくる。アバター能力者達が魔法を唱えた。
俺は〈跳躍〉を発動、それらをかわす。
皆の視線が、照準が、空中の俺へと向けられる。俺は新たに〈杖〉をジェネレート、そして身体を捻り、横に回転させる。
闇属性のレベル7魔法、レギス・ヴィ・ダクゾルファを唱えた。闇の魔神が俺の〈杖〉から放たれ、螺旋を描くように、周囲の存在を蹴散らしていく。
その中で、俺は地面に着地。武装を〈双剣〉にジェネレート。〈疾風〉と併用して超高速で移動しながら、自動防衛機械を、そしてアバター能力者達を切り裂いていった。
遅い。何もかもがゆっくりだ。動きが見える。次の一手がわかる。定められた照準を、ただかわせばいいだけ。
俺は敵を斬る。全てを蹴散らしていく。何もかもを斬って、何もかもを破壊して、何もかもを殺して、そして血をまき散らして……




