42 ステージへの入り口
朝になった。朝食は簡易的なエネルギー食品を口にしただけだ。
俺達は樹海の中を歩いている。世良が言う、「次のステージ」へと進むために。
先導しているのは世良だ。どこへ向かっているのか、もう誰も問いただそうとはしなかった。俺も蓮華も荒上も、もう誰も世良のことを信用していない。信頼もしていない。ただ、世良の言うとおりにするしか、道がない。ただそれだけだ。
重苦しい雰囲気が流れている。樹海の湿った空気がそれをより一層、引き立てていた。
地面はぬかるんでいて歩きづらい。草で足が滑りそうになる。枝も邪魔だった。ともかくここは、まともに歩くようなところじゃない。
こんなところに、何があるって言うんだ?
俺達は無言で歩き続けた。ただ黙って、足を進める。
どれくらい歩いただろうか。世良が立ち止まった。そして俺達に背を向けたまま、言う。
「さあ、ここだ」
世良の前には、洞穴があった。鍾乳洞だろうか。中を覗いてみたが、奥まで深く続いている。先は暗闇に包まれていて、目視では確認できない。
「この奥に君らに力を与えてくれる存在がいる。先に進めばわかるよ」
「力を与える存在だと? 誰だ、そいつは」
荒上が世良に尋ねた。
「行けばわかる。本当はね、バベルに攻め込む前にここに来たかったんだ。けど、ここに入るためのキーがあいつらに奪われてからね……正規のルートで入らないと、システムにロックがかかってしまうし」
世良がいつもの調子で告げて──その表情が険しいものに変わった。
「伏せろ!」
世良が叫ぶ。その身体が光に包まれ、世良の姿をアバターのそれへと変貌させた。
そして瞬間、銃声。俺達は地面に這いつくばるように伏せた。俺達のいた場所を、銃弾が通り抜ける。
「〈対物理障壁〉!」
世良が手のひらを全貌に構え、能力を発動した。光の壁が弾丸を受け止める。
そして、世良は俺に向かって小さい何かを放り投げた。メモリースティックのようだ。
「それが鍵だ。この洞窟の先に進め。ロックはそれで解除できる。そうすればきっと、やるべきことがわかるはずだ」
「世良、あんたはどうするつもりだ?」
「ここであいつらを食い止める。力が必要なのは、君たちなんだ。僕にはいらない」
弾丸は止むことなく〈対物理障壁〉に叩きつけられている。世良はそれを、当たり前のように受け止めていた。
遠くで青の光が輝き出す。木々を押しつぶしながら、水の龍が俺達に向かって突っ込んでくる。水属性の魔法だ。
世良は〈魔法剣〉をジェネレート。木属性のレベル4魔法唱え、木龍を放った。水龍がそれに呑み込まれ、掻き消された。
「さあ、早く行け!」
その声に促され、俺達は洞窟の中へと走り出す。
中は暗い。何も見えなかった。
「エンゲージメント」
俺は自身の身体をアバター化させ、木属性と火属性のレベル1魔法、モクゾアとエンゾアを唱える。
木の枝が生えて、それに炎が灯った。俺はそれを千切って手に取る。前方がうっすらと明かりに照らされた。よし、これで先に進める。
洞窟の中はひんやりとしていて、俺達の足音が不気味に響いていた。外の音──闘いの音も、その中でかすかに聞こえてくる。
荒い岩肌の上を走り続け、数分間。目の前に鋼鉄の扉が現れた。どう考えても自然にできたものじゃない。人工物だ。
扉の中心には、メモリを差し込むプラグがあった。俺はそこに、世良から受け取ったUSBメモリを接続する。
機械の軌道音が扉の向こう側から聞こえてきた。扉に埋め込まれたライトが、規則的な点滅を繰り返す。それから少しして、扉が開いた。
まず、一つ。その次のもう一つ。さらにその後の一つ。何重にも閉じられた分厚い扉が、次々と開いていった。そうして七つ目の扉が開いた後、光が目に飛び込んでくる。
「うっ……」
俺は思わず目を細めた。
前には細い通路が伸びている。先には大きな部屋があったが、ここからではよくわからない。まだ、目はくらんでいた。天井に備え付けられた、ライトのせいだ。
暫くして、目が慣れてきた。
金属製の壁、そして床。明らかに建造されたものだ。一体何故、こんな場所にこんなものを作ったのだろう。
俺達は先に進む。金属のタイルが足音を反響させた。
広い部屋に出た。
そこは、広い円筒状の部屋だった。普通の部屋じゃない。床から天井付近まで、壁のいたるところに機械が埋め込まれている。コンピュータの類だろう。そこから伸びたコードが複雑に絡み合って、まるで、植物のようだ。
駆動音がいくつも重なり合って、どこか幻想的な雰囲気となっていた。でも、一番大事なのはそんなことじゃない。
「これは……コネクトシステムか?」
荒上が呟く。
俺達の前には、部屋の中心に円を描くようにして並べられたコネクトシステムがあった。全部で八台。埃をかぶっているようだが、使えないわけではなさそうだ。
なるほど、そういうことか。世良の言っていた言葉の意味が分かった。
俺達は誰が言うこともなく、コネクトシステムに身体を埋めた。
また、世良の罠かもしれない。ふと俺は、そんなことを思った。
でも、だとしたら何なのだろう。他に選択肢はなかった。こうするしかない。だからする。それだけのこと。
俺は神経接続用のメットを被り、自らの意識をコネクトシステムに同化させる。荒上や蓮華もそうしていた。
そして、意識がどこか深いところに落ちていって──
俺の目の前に、〈NOW LODING〉の文字が浮かび上がった。




