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4 黒い鎧、振るわれた〈大剣〉

 わけがわからい。なんだ? 何が起こっている? 今目の前にいる、こいつは一体誰だ? 何で俺の顔をしているんだ? いや、百歩譲ってただよく似ているだけの男だとして、なんでこの家に来たんだ?

 混乱している俺とは違い、俺の顔をしたその男は冷静だった。


「ああ、なんだ。テメェか」


 俺のことを見て、一言そう呟く。この状況になることを最初から知っていたかのようだ。


「誰なんだよ、お前……」

「誰? いや、なんつーか、テメェにそういうことを言われたかねぇっつうのがこっちの心情なんだけどよ。何、勝手に家に入り込んでたクソヤローの質問に答えなきゃいけないわけ?」

 俺の顔で、そいつはそう言った。多分、きっと、声も俺と一緒なんだ。自分の聞こえる自分の声は、他人から聞けば全く別だという。

「つうかさ、結局出てきたのかよ。やっかいだなぁ。めんどくせぇなぁ。手間どらせんじゃねぇっつうの。永久に引っこんどけばよかったのによ」


 そいつはわけのわからないことをぶつぶつと呟いていた。きっと、俺の知らない何かを知っている。だから、こいつは俺のことを知っているんだ。

 その男は手に持っていたビニール袋を下へ置くと、そのまま俺を冷ややかな視線で見つめ、口を開く。


「まあいいや。殺せばいいだけだし」

 俺の顔をしたそいつは、手のひらを天へとかざして、その言葉を口にする。

「エンゲージメント」


 途端、目の前のそいつの体が黒い光に包まれた。暗い粒子がそいつの身体を覆い尽くす。そして数秒、その黒い光が弾け飛ぶようにして消える。

 そこに現れたのは、黒い鎧に巨大な剣を担いだ男だった。そいつの身体も体格も、もう俺のものじゃなくなっている。


 俺は、それを知っていた。


 そうだ、あの黒の鎧は〈オメガ〉の中でも最上位ランクの鎧で、あの巨大な剣は〈大剣(ブレード)〉でも十本の指に入るほどのレアリティを持っている。そうだ、今、目の前にいる男は、〈オメガ〉の──VRゲームのアバターに、瓜二つなんだ。


 わけがわからなかった。

 もう、世界がどうにかなってしまったのかと思った。

 けど、それはきっと間違っていないだろう。

 この世界は何かがどこか狂い始めているんだ。


「さぁ、死ねよ。テメェ」


 そして、〈オメガ〉のアバターとなったそいつが、俺に〈大剣〉を振りかぶった。

 巨大な刃が迫ってくる。直撃すれば死だ。


 死ぬ? 嫌だ。


 気がつくと俺は、俺は背後へ飛び跳ねていた。妹の部屋に飛び込むようにして、〈大剣〉の刃をギリギリのところでかわす。〈大剣〉が廊下に激突した。フローリングを切り裂いて、周囲に破片が飛び散る。


「ああ? 避けんじゃねぇよ。即死にできねぇだろ?」


 そいつが〈大剣〉を床から引き抜いた。俺は暴れる心臓をどうにもできないまま、それを見ているだけだ。

 逃げようにも逃げ場がない。あいつは少しずつ歩み寄ってくる。後ろは行き止まりだ。

 どうすればいい。逃げ場はない。死ぬしかないのか? ここで終わりなのか? 嫌だ。嫌だ。そんなのは、嫌だ。


「即死じゃねぇと痛ぇんだぜ? どうせならテメェも早く楽に苦痛なく死ねた方がいいだろうが。せっかく俺が気ぃ使ってんだからよ、素直に受け入れろっての。なあ、そうだろ? 人の好意は受け取るもんじゃねーかよ。ああ、そうだ。そうに決まってる。だからさぁ……」

 俺がパニックに陥っている間にも、そいつはゆっくりと近づいてくる。そいつの手にした〈大剣〉は、漆黒に輝いていた。

「死ねってんだよォ!」


 黒くなった〈大剣〉が力強く振われた。足が地面に吸い付いたように固まっている。動けない。黒い刃が俺に向かって迫ってきて……


 そして、ガラスが割れる音が聞こえてくる。


 直後。


 暗く輝く〈大剣〉の刃を、紫色の何かが弾き飛ばした。


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