表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/69

36 貫いた手、伸ばされた手

 ヴィティスは露草の胸ぐらをつかんで、その身体を宙に浮かせた。

 蓮華がヴィティスに向けて、引き金を引こうとする。だが、それはヴィティスはそれを見てか、射線に被せるように露草を向けた。蓮華の動きが、止まる。どうせなら、そのまま撃ってしまえばいいのに。

 露草は大きく肩を上下させていた。その眼はヴィティスを捉えている。そして、荒くなった呼吸で叫んだ。


「くそ……お前はぶっ殺す。絶対に絶対に、お前だけはぶっ殺してやる!」

「よく喋るガキだな。威勢がいい。嫌いじゃぁない……まあいいや。戴くぜ、お前の力」


 ヴィティスが右手を掲げた。その手が暗く、輝きだす。黒いオーラがその手に捻じれて絡み、そして纏わりついていった。

 なんだあれは。

 不気味だ。どこまでも、深く深い黒。見ていると吸い込まれそうな、黒。そう、何もかもを飲み込んで、全てを塗りつぶしてしまうかのような──


能力(アビリティ)、〈全知全能(オール・オール)〉」


 そして、ヴィティスのその黒い腕が、露草の身体を貫いた。

 絶叫。

 荒上と俺はその場から駈け出した。

 ヴィティスがその手を露草から引き抜く。その黒い手には、光の球体が握られている。ほどなくしてそれは、ヴィティスの体の中に取り込まれていった。

 狂気を滲ませた笑い声を上げながら、ヴィティスがその場から飛びのく。露草の身体が宙を舞った。蓮華がその身体を受け止める。

 俺は武装を〈双剣〉に換装、荒上と共にヴィティスを追った。


「いいぜ。来いよ。まずはテメェらから実験台にしてやる」


 ヴィティスは笑いながら、武装を消失(バニッシュ)させた。両手を掲げ、そして、叫んだ。 


能力(アビリティ)、〈二刀流(ダブルブレイド)〉!」

「何!?」

 荒上が驚きの声を上げると同時、ヴィティスの両の手に〈大剣(ブレード)〉が現れた。

 どういうことだ? 〈二刀流(ダブルブレイド)〉は、露草の能力のはずだ。それなのに、何でこいつが……

「〈双龍閃鋼斬(そうりゅうせんこうざん)〉」

 二振りの〈大剣〉が輝きだした。俺達はその斬撃をまともに喰らい、強烈な衝撃によって壁へと叩きつけられる。

 意識が一瞬、飛んだ。身体の自由が利かなくなる。


 目をもう一度開けた時にはもう、ヴィティスが露草との間合いを詰めていた。蓮華の放つ弾丸を〈大剣〉で弾きながら、呆然としている露草へと刃を振う。


「俺の、能力……?」

「そういうことだよ!」


 一閃。二閃。さらに連続での斬撃。


「このっ! 〈テオ・ブラスト〉!」


 蓮華が攻撃能力を放った。赤いビームがヴィティスに向かって照射される。

 だがそれは、あっさりとかわされた。そして次の瞬間には蓮華の身体が蹴り飛ばされて、地面に叩きつけられる。


「くそっ、ふざけんな!」


 荒上が叫んで前に出る。俺もそれに続いた。しかし、ヴィティスの振った〈大剣〉から放たれた衝撃波──〈衝撃(ストライク)〉が、それを阻む。これじゃあ、近寄れない。


「つーわけで。死んでくれよ、ガキ」


 ヴィティスが、刃を露草の胸に突き刺した。何度も。何度も。何度も。

 悲鳴と、絶叫と。刃が突き刺さるごとに、露草の身体が痙攣していく。


「あっ……がっ……はっ……」

「露草、露草、露草ぁ!」

 縋るように、蓮華が叫んだ。

「ダメ、ダメだよ。死んじゃだめだよ。起きてよ。ねえ、露草。露草ってば!」


 蓮華が二丁拳銃の引き金を引く。だがそれは全て、〈対物理障壁(メタ・シールド)〉に阻まれてしまう。蓮華もそれをわかっているはずなのに、引き金を引くことをやめない。パニックになってしまっている。


「れん……げ……」


 露草が蓮華へと手を伸ばした。弱々しく、か細い声で。今にも消え入りそうな、今すぐにでもなくなってしまいそうな声で。

 そして。

「あばよ」

 ヴィティスの持つ〈大剣〉の刃が、露草の胸を、深く、抉った。


 大きく、痙攣。

 露草の身体が光に包まれる。

 光は球体となり。

 球体は真っ赤に染まり。

 そして。

 破裂した。


「いや……いやああああああああああああああああああああああ!!」


 蓮華の絶叫が響く。露草の四肢が飛び散って、肉片となって、真っ赤な血が地面を濡らした。

 死んだ。

 露草が死んだ。

 ヴィティスが、殺したんだ。


「ヒャハッ! ヒャハハハハハハハハハハハハ!! ああ、最高だ! 最高の気分だ! 一方的な暴力ってのは、なんでこんなにも気持ちがいいんだろうなァ!」


 これで、三人目。ヴィティスはその死体を前にして、高らかに笑い続ける。狂った笑みを浮かべ、イカれた声を上げながら。


「テメェ! テメェ! テメェ!!」

「いいぜ、こいよ。楽しませろよ。その殺意と敵意をもってして、俺を追い込んでみろよ。なァ!」


 荒上がヴィティスに殴り掛かった。蓮華は露草の躯を前に、呆然としている。ヴィティスは二振りの〈大剣〉を構え、荒上を迎え撃った。そして俺は──ただ立ち尽くしている。


 そう、死んだ。

 それだけのことだ。

 俺が今まで殺してきた奴らのように。露草がそうしてきた人間のように。そこにあった命が、消えただけ。どこでもない虚無に、消えただけ。

 そう、ただそれだけのことだ。それだけのことのはずなのに。芳坂が死んだときと、真瀬が死んだときと、一緒のはずなのに。あの時はなんともなかったのに……

 俺は何故、動けない?


 不意に、何かの駆動音が聞こえてくる。これは……モータの音だ。自動防衛機械(オートマター)の、歩いてくる音。

 そしてこの部屋にあった二つのドアが一気に開き、そしてそこから大量の自動防衛機械(オートマター)が這いよってくる。

 あっという間に、俺達はそれに囲まれた。


 ヴィティスが荒上から距離を取る。自動防衛機械(オートマター)の大群を見て、つまらなさそうに肩をすくめた。

「あー、なんだよ。これでお遊びは終わりってことか? そこまで遊んでるんじゃねぇって? あー、はいはい。わかったわかった。じゃあ、さっさと終わらせるからよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいな、と思ったら「小説家になろう 勝手にランキング 」のクリックお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ