表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/69

32 撃つか、撃たないか

 正直言って、弱い。〈狂人化(バーサーク)〉なんて全く必要かった。

 単純に、レベルが低いんだ。それに何か、ためらっているような節もある。なら、闘わなきゃいいのに。


 荒上の方へと視線を向ける。あいつの方も、決着がついたみたいだ。〈大剣(ブレード)〉を持った女アバターと、〈(スタッフ)〉を装備した男のアバターがあいつの前で倒れている。


 壁の前で倒れる男に向かって、俺は歩き出した。戦意を喪失しているようだ。近づく俺に怯えている。その身体は小刻みに震え、目には涙が浮かんでいた。


「やめて……殺さないで……脅されてたんだ。仕方がなかったんだ。だから……」


 男がアバター化を解除した。その身体が光に包まれる。完全に降参するから助けてくれ、ってことだろう。

 脅されてた、ってことは、バベルはこういったアバター能力者を何人も抱えているのか。

 こいつらはきっと、ヴィティスやナロ、ナエみたいに自らの意思で戦っているわけではない。ああ、なるほど。思い切りがない理由も頷ける。


 要するに、覚悟がないんだ。

 別に、こいつを否定しているわけじゃない。当たり前の事だ。自分の意志で決めていないことを最後までやりきるなんて、簡単なことじゃない。


 どうしようか。


 俺は何となく、さっきの荒上との会話を思い出していた。

 殺す必要って、あるだろうか。別に殺さなくてもいいかもしれない。こいつらが俺達にもう手を出してこないなら、それでいいじゃないか。

 確かに、死ぬってのは怖い。こいつが怯えるのもわかる。そうだな、だったら別に殺さなくても──


 瞬間、銃声。俺の頭に激痛が走る。


「痛って……」


 俺は頭を手で押さえる。連続して銃声。頭付近に弾丸が直撃して、俺はよろめいた。

 銃声のした方を振り向く。そこには〈銃〉を構える男がいた。さっき吹っ飛ばした男が、俺に向かって〈銃〉を撃ったんだ。

 あいつ……


 俺は舌打ちをしながら、〈(ガン)〉をジェネレートした。その男に銃口を向け、引き金を引く。


「〈流星連射(ミーティア・ストリーム)〉」


 〈銃〉から一度に大量の弾丸が放たれる。光輝く弾丸だ。その全てが、俺を撃った男にめり込んだ。絶叫。そしてそいつの身体が光って──破裂し、辺りに血をまき散らした。HPが0になってアバター化が解除された、ってこと。つまり、死んだんだ。

 

 ああ、やっぱりこんなものか。

 情けなんて、いらないじゃないか。そんなものかけたって、こうやって裏切られるんだ。

 別に、それが悪いって言ってるわけじゃない。本能に従うのは、生物として当たり前だ。死の恐怖から逃れるのにどんな手段を使おうと、間違っちゃいない。自分が死んだらそこで終わりだ。


 だから。

 俺は壁の前の男へと振り向いて、銃口を向けた。


「助けて……」


 今にも泣きだしそうな表情だ。死ぬのが怖いんだろう。その気持ちは、わからなくもない。


 けど、無理だ。


「悪いな」


 俺はそう言って、引き金を引いた。弾丸が男の脳天にめり込んで、頭を破裂させる。血飛沫が辺りにまき散らされて、そして男は死んだ。


「無事か?」


 気が付くと、俺の隣に荒上がやって来ていた。その視線が、男の死体に向けられる。その表情はいつもと変わらない、無愛想なものだった。


「不満か?」

「別に。俺も()った」


 荒上の背後を見る。確かに二つの死体が倒れていた。   


「後味が悪いんじゃなかったのか?」

「殺すかどうかは、時と場合による。アバター能力者を生かしてたら、この先どこで足元をすくわれるかわからないだろ。後味が悪いのは変わらないが」

「そういうものか?」

「優先順位ってのがある。今の俺には敵の命よりも、バベルをぶっ潰す方が重いってだけだ。できるだけ殺したくないが、そのせいでこっちが終わるのはごめんだ」


 まあ、確かにそれはそうだ。あのアバター能力者に同情しないわけじゃないが、だから命を助けるってわけにもいかない。

 それに結局、他人に強制されていたのだとしても、自分で選択した闘いだ。その中で死んでしまうことに、俺達がいちいち干渉する必要は無いだろう。

 殺さなくてすむなら、それでもいいと思うけど。けど、そのせいで俺達が死ぬようなことになったら、困るし。


 俺達は通路を先に進む。途中で何度かバベルのメンバーに遭遇しつつも、それを退ける。荒上は普通の人間を殺しはしなかった。重傷を負わせて、動けなくしていた程度だ。


 甘い、と思う。

 ただ、別に俺がとやかく言うことじゃない。

 俺がやる時は殺す。荒上がやる時はそうじゃない。それだけの話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいな、と思ったら「小説家になろう 勝手にランキング 」のクリックお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ