28 決行
「ここまま現状維持でもジリ貧だし、攻め込むことにしたよ」
翌日、起きた皆をメインルームに集め、世良がそう言った。
「いきなりですね。まあ、昨日一応情報は一通り集めましたけど……」
「うん、まあ、なんとかなるでしょ。このアジトもいつばれるか分かったもんじゃないし、そもそも時間だって無限じゃないしね。バベルが事を起こす前に叩かないといけない。と言うわけで行こう。今からね」
不安げな芳坂に対し、世良はあっけらかんと言う。ただまあ、言ってることは間違いじゃない。時間が経過すればするほど、バベルは準備を整えていく。不利になる前に、叩いた方がいい。
「今から? ハァ? だったらもっと早く行っとけよ。アホか」
「アホって心外だなあ。なるだけ君らに緊張させないように、って気を使ったのに」
その理屈はおかしい。荒上が抗議するのも当たり前だろう。個人的には何の問題もないし、むしろ嬉しいのだが。
「心の準備ってのがあるだろ。これだから中年は嫌になっちゃうんだよ。なあ、マっちゃん」
隣にいる真瀬に、露草が声をかけた。しかし真瀬はうつむいたまま、何も言わない。
「マっちゃん?」
「あ、うん。ごめん、聞いてなかった」
露草に肘で突かれて、真瀬は初めてそれに気が付いたようだ。
あの後、ヴィティスの襲撃からずっと、真瀬はこんな調子でいる。前から口数は少なかった。けれど、昨日からはそれがさらに悪化している。
「露草、世良さんに失礼なこと言っちゃダメだよ……」
「えー、だってさー」
露草が文句を言っている間に、世良は作戦の概要を説明しだした。
世良の作戦を簡単にまとめると、こういうことだ。
まず、世良がバベルに乗り込む。ここでの役割は陽動。人目を惹きつけるために単身でバベルをかき乱す。
そしてその後、二人一組に分かれた俺達がなるべく発見されないようにバベルに侵入、そしてバベル中枢のコンピューターを破壊する。そういう段取りらしい。
「適当すぎやしないか?」
荒上の言うことはもっともだ。あまりにも急造感が溢れていて、まともにプランを練ったのかどうか不安になる。
「だーいじょーぶだって。僕もここ数日間ずっとバベルについての調査をやってたんだから。あてになるかどうかはイマイチだけど、助っ人も一応用意しといたし。このメンバーならなんとかなるでしょ」
この男は本当に適当だ。ある程度の根拠に基づいているのだろう。だが、そう思わずにはいられない。
それでも、結局俺は、この作戦に乗るしかないんだ。
他の奴らは知らない。けど、香凜ともう一度会うためにはそれしかない。
けど……俺は、ホンモノの八雲周じゃない。
なら、ニセモノの俺は、香凜に拒絶されるんじゃないか?
……そうかもしれないと思っていても、俺は、もう一度香凜に逢いたい。
なんだかんだ言いつつも、全員、世良の作戦を飲んだ。まあ、当然か。詳しくは知らないが、ここにいる全員はバベルに敵対するに足りる理由を持っている。世良が前に、そう言っていた。
だから、乗るしかない。
そういうことだ。




