24 助けと囁き
今の炎はレギス・ヴィ・エンゾルファ。炎属性のレベル7、最上位の魔法だ。
「や、八雲さん!」
廊下から声が聞こえてくる。真瀬だ。助けてくれたのか。
「邪魔するんじゃねぇよ、ブタがよォ!」
ヴィティスが炎をその身から振り払う。そして強く、地面を蹴った。
真瀬を狙っている。させるか。俺はその場で〈跳躍〉を発動、ヴィティスの前に躍り出ようとした。
だが、俺の前に大量の自動防衛機械が現れる。そして発砲。
邪魔だ。
俺は弾丸をそのまま受けつつ、〈大剣〉をジェネレート。そして〈衝撃〉を発動した。
自動防衛機械が吹き飛ぶ。だが、すぐに次の自動防衛機械が俺の前に立ちふさがった。
「真瀬!」
俺が叫んだその時にはもう、ヴィティスは真瀬との間合いを完璧に詰めていた。
ヴィティスが真瀬の首筋を掴んだ。そのまま真瀬を壁に押し付ける。
暴れる真瀬の身体に、ヴィティスは〈双剣〉を突き刺した。悲鳴。それを掻き消すかのように、再びヴィティスが〈双剣〉を振う。
「あがっ……ひぃっ……」
銃声に交じって、擦れた真瀬の声が聞こえてくる。
クソ、自動防衛機械が邪魔だ。これじゃ、あいつらのところに行けない。
「よぉ、ブタ。気分はどうだよ。そうだな、そんな怯えきったテメェに、とてもオイシイ話をくれてやるぜ──」
ヴィティスが真瀬の耳に口を近づけていた。何かを囁いている。だが、ここからではまともに聞き取ることはできない。
俺は〈魔法銃〉をジェネレート、弾丸と魔法を自動防衛機械の大群へ放った。
自動防衛機械が爆発し、破片が吹き飛ぶ。ところどころ、ピンク色の肉片と赤い液体が飛び散っていた。人間の脳だ。
俺はヴィティスに向け、引き金を引いた。だがその直前に、銃身を弾丸が弾く。俺の放った弾丸はヴィティスを逸れ、近くの壁に激突した。
ちくしょう、まだいるのか。
俺が舌打ちした、その瞬間。
俺に弾丸を放った自動防衛機械が、無数の弾丸に貫かれた。爆発。わずかな血がまき散らされて、その場に飛沫模様をつくる。
ヴィティスに光の矢が襲いかかった。奴はそれに瞬時に反応し、その場から飛びのく。真瀬の身体が自由になった。
「真瀬君、大丈夫!?」
今、真瀬の元に一人の女性が──アバターの姿をした、芳坂優佳が駆けよった。戻ってきたのか。さっきの弾丸は、廊下の前に立っている風水蓮華が放ったものだろう。
そして、俺の前には一人の男が立っていた。
「やあ。久しぶり、八雲周くん。どうやら僕がいない間に相当レベル上げてたみたいだね。関心、関心。ただ、〈狂人化〉を使ってるのはいただけないな。あれは負担が半端じゃないから、そうそう使うなって言ったろ?」
会っていきなりお説教か。助けれくれたという恩義も、若干薄れる。
でも、よく考えたら、実際に助けてくれたのは蓮華だし、ヴィティスを狙ったのは芳坂だ。こいつは何もしてないか。
「まあ帰ってきてそうそうこんなこと言うのもなんだけど、ここはもうダメそうだ。さっさと撤退しよう。それじゃあ……」
世良はそこまで言って、その手に〈魔法剣〉をジェネレート。そして背後から切りかかってきたヴィティスの〈大剣〉を、それで防ぐ。
「会いたかったぜ、観測者ァ!」
「こちとら一生会いたかなかったけどね」
「つれねぇこと言うなよ。見下しやがって。ああ、ムカつく……ニセモノ、テメェとの勝負はこいつを殺した後だ。そこから逃げるんじゃねぇぞ!」
「周君、こんなバカの言うことは無視してさっさと逃げろ」
世良が言うのと同時、二人はその場から跳躍、ドーム内を駆け抜けながら互いに斬り合った。
「毎度毎度俺達の邪魔をしてくれる。鬱陶しいんだよ。目障りなんだよ。だから死ね。俺達の理想郷を邪魔する奴は、神だろうが何だろうが誰もが等しく平等に死ね!」
「嫌だよ。勘弁しろって。僕はそういう気、ないから」
「どうせ、テメェなんて死んでも大して変わらないだろうが!」
「死んだら痛いだろ。特にお前がやる場合さ」
刃の衝突する金属音が、ドームの中で反響している。世良が今、魔法を放った。ヴィティスはそれを受けつつ世良の喉元を掴み、その胸に〈大剣〉を突き刺す。
世良がヴィティスに魔法を放った。直撃。ヴィティスは吹き飛び──しかし次の瞬間にはもう、勢いを殺して地面を蹴っていた。世良との間合いを詰める。
ヴィティスは強い。世良もそれなりだろうが、しかしそれだけじゃ無理だ。加勢をした方がいいだろう。
それに……俺自身の身体が燻っている。
本能が行けと叫んでいる。
だから俺は、足を前へと踏み出して──
俺の手が、風水蓮華に掴まれた。




