表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/69

23 矛盾する狂気

 これだ。

 この感覚だ。


 全身が(たぎ)る。何もかもが身体の奥底から湧き出てくる。

 痛みが薄れて感情に変わっていく。

 怒り、憎しみ。そう、それは衝動だ。全てを破壊したいという衝動。


 目の前のこいつを、ぶちのめしたい。

 ぐちゃぐちゃにして殺してしまいたい。

 そしたら、俺の存在に悩む必要なんてなくなるだろ?


 ああ、そうだ。殺そう。

 今、この場で、殺そう。


 俺は〈双剣(ダブルエッジ)〉をジェネレート。

 そして、ヴィティスとの間合いを詰めた。


 二つの刃を同時に振う。ヴィティスがそれを同じく〈双剣〉でガードして──その身体がそのまま吹き飛んでいった。

 俺はさらに追撃。跳躍して上昇、ヴィティスの腹に上から蹴りを叩き込んだ。呻き声が聞こえる。ヴィティスの身体が地面に叩きつけられた。

 俺はその上に馬乗りになる。そして、ヴィティスの首元に〈双剣〉を突き刺した。それを横に引き抜き、もう一度突き刺そうとして。


 目の前で、ヴィティスが〈双剣〉を振りかぶっていた。


「……〈クリスタルブレイド〉!」


 ヴィティスの声の直後、俺の身体を二つの水の刃が襲う。俺はそのまま天井まで吹き飛ばされた。

 それから追い打ちをかけるように、数発の水の刃。俺は下方向に向けて〈跳躍〉を発動、寸前のところでそれをかわした。

 痛みは感じない。代わりに熱があった。その熱が感情を刺激し、さらなる熱を呼び込んでくる。


 俺が地面に着地するのと同時、ヴィティスが地面から起き上がった。口元を歪ませ、笑い声を上げている。


「なるほど、これがジョーカーたる理由(ワケ)ってのか。いいねぇ、面白いねぇ。そういうのは最初から出してろよ。期待外れかと思っちまったじゃねぇかよ!」


 ヴィティスが〈双剣〉を俺へと構え、そして叫んだ。


「なら俺もさらにギアを上げてやる。能力(アビリティ)、〈攻撃強化(アタック・レインフォース)〉〈速度強化(ソニック・レインフォース)〉!」


 同時、俺はヴィティスに切りかかった。

 俺の〈双剣〉とヴィティスの〈双剣〉が激突する。俺とヴィティスの間を〈双剣〉の刃が何度も何度も往復した。

 金属音だけがドーム状の部屋に響き渡る。


「ヒャハハ! いいぜ、最高だ! ゾクゾクくるぜ、その殺気!」

「黙れ!」

「つれねぇなぁ、もっと楽しもうぜ!」

「そんな必要ないだろ? ただ俺は、お前が死んでくれさえすればいい!」

「クハッ! そうかよ。そうだ、それでいい。俺とお前は、互いに否定しあってりゃいい!」


 互いの刃が弾けた。一瞬の静寂。そして再び、俺達は斬り合った。


「互いに互いを否定して、互いに互いを殺し合って! そして最後に勝つのは俺だ! うざってぇニセモノを、この犬畜生どもの世界をぶっ壊して、そして俺は理想郷(アルカディア)にたどり着く! そうだ、俺の妹と、香凜と共に!」


「理想郷なんて、この世に存在しない」

「存在しねぇから、作り出すんだろうが! 誰も彼もが泣かない世界を!」

「誰かを犠牲にして、踏み台にして?」

「ああ、そうだ。何時の時代だって人間はそうじゃねぇか。他人を虐げ踏み台にして。ちょっとばかしの富と名誉と快楽に酔いしれて。ああ、汚い。くだらない。なあ、お前もそう思うだろ? そんな奴ら、蹴散らされて当然だね。その世界を許容した奴らも同罪だ!」


「けどそれは、お前らだけの理屈だろ?」

「なら他の犬畜生どもがどれだけの理屈を持ってるって言うんだよ!」


 俺とヴィティスは互いに距離を取った。武装を〈双剣〉から〈銃〉に換装。互いに引き金を引き、そしてその場から飛びのいて弾丸をかわした。


「あいつらがどれほどのことを考えている? 人の苦しみをわかろうとしてるか? 悲しみをわかろうとしてるか? 目の前で誰かが泣いていたとして、それに手を差し伸べるか? そんなことよりもまず、テメェのことだろう! 腐ってる。腐敗してる。もう手遅れってレベルにな!」

「ならお前はどうなんだ? 他人を殺して自分の理想を押し付けようとしているお前は、一体なんだ」

「これは復讐なんだよ! 香凜を受け入れなかった世界。無条件に排斥した世界。間違ったことを間違っているとも思わない世界! だから俺は殺す。すべて殺す。何もかもを破壊してやる!」


 その理屈はおかしい。こいつは破綻している。狂っているんだ。

 自ら世界の腐敗を嘆くなら、自分自身はそうであってはいけないと、そう思うものじゃないか?

 こいつがやっていることは、こいつの嘆きそのままだ。自分の思想と世界が相容れないから、排斥しようというだけのこと。その結果、世界を作り替えようというだけのこと。


 けど……そんなことはどうでもいいんだ。

 熱い衝動がこみ上げる。ああ、これは殺意。暴力の快楽。胸の高鳴りを抑えられない。

 

 結局、俺もこいつと一緒か。快楽に身を任せる、犬畜生か。

 ……そんなことすら、どうだっていい。


「楽しもうぜ。どうせぶっ壊す世界なんだ。テメェと俺の衝動を、ああ、この黒くて熱くて最高な感情を、ぶつけ合おうぜ!」


 ヴィティスがそう叫んだ、直後。

 〈銃〉を放つヴィティスに、炎の魔神が激突。そしてその身体が炎に包まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいな、と思ったら「小説家になろう 勝手にランキング 」のクリックお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ