18 五日後
「今の君に必要なのは、レベル上げだ」
「レベル上げ?」
五日前──あの気絶から目覚めた後、俺は世良にそう言われた。
「そう。君の戦闘センスはなかなかのものだ。最初であれだけアバターを使いこなせたのはさすがだよ。でもね、まだ足りない。というか、君、回復魔法を全然使えないだろ? それじゃこの先、大変だよ」
黒いスーツを着た優男は、胡散臭い笑顔を見せている。だがしかし、世良の言うとおりだ。
俺は今まで、回復魔法に頼らずにアイテムで回復を行っていた。けど、このリアルじゃアイテムが使えないんだ。どうしかしなくちゃいけない。
「そこでレベル上げさ。固定能力の〈回復・極〉って君も知っているだろ? あれがあれば少なくとも回復魔法の真似事はできる。なんてったって、全回復コマンドだし。回数制限はあるけどね。まあ、手っ取り早いのは君が〈全武装〉をセットから解除することだけど、でもそれ、君は嫌だろ?」
「ああ。今更戦闘方法を変えるのも厳しいし、できるならこのままでいたい」
「うん。じゃあやっぱり〈回復・極〉を手に入れなくちゃ。一応持ってるなら、小とか中もストックしといたほうがいいよ。回復系統はいくらあっても困らないから」
〈全武装〉は俺が〈オメガ〉を始めた時からずっと使っていた能力だ。愛着もあるし、なんというか、戦い方がしみ込んでいる。使える武装がたったの三つだけになるなんて、耐えられそうにない。
その解決策が、回復系能力の習得、というわけだ。
EPの消費をしない体力の回復。ただし、回数制限有り。普通の回復魔法には劣るものの、今の俺には必要な力だ。
そして、その能力は一定のレベルになることで必ず入手できる。
その為に俺は、荒上や露草、真瀬達と模擬戦を行っていた。
〈オメガ〉内での経験値の概念は、一般的なゲームとは若干異なる。普通は敵を倒したら決められた数値が経験値として入るものだが、しかし〈オメガ〉では違った。〈オメガ〉ではアクションの一つ一つが経験値として加算されるのだ。
例えば、フィールド内での素振りと言うただそれだけでもレベルが加算される。モンスターと戦えば行ったアクションによって経験値が入るし、それは対人戦でも可能だ。
それと同じことを、リアルでもやっていただけ。武装のランクを最低にして、あとは相手のHPが0にならない程度に戦闘を行う。それを五日間ぶっ続け。蓮華や芳坂とも組み手を行った。
お蔭で俺のレベルは相当上がった。目的の〈回復・極〉も手に入ったし、準備は整った。けれど──
「まあまあ。焦る気持ちはわかるけど、待ってくれよ。何も考えずに向かって行ってもやられるだけだろ? それは避けなきゃならないんだ。バベルに敵対できるのは、僕たちだけ。十中八九、今の国家じゃバベルには勝てない。だからなんというか、慎重にならざるを得ないんだよ」
だったら、アバター化能力者を増やせばいいじゃないか。
だが、世良が言うにはそう簡単なことではないらしい。大半の人間は危険を冒してイカロス──世良の作り上げた組織──に入るよりも、バベルに入ってしまうそうだ。
勝ち馬に乗る。当たり前の思考と言われればそれまでだろう。大体、戦力差が開きすぎている。相手にはまだナロとナエのようなアバター化能力者がいるだろう。
でも、けど、だからこそ、俺は一刻も早くバベルの本拠地に乗り込みたかった。
結局、今乗り込もうが後で乗り込もうが、どっちでも一緒だ。遅いか早いかの違いなだけ。だったら早い方がいい。時間が経てば経つほど、香凜の無事は保障されなくなってくる。
俺がそう言っても、世良は揺るがなかった。
「大丈夫だよ。アルトリスちゃんは、丁重に扱われているはずだから」
その根拠は何だ。俺がそう聞いても、世良は適当に笑ってはぐらかすだけだった。




