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VRで狂った俺が、大切なものをなくして結果的に世界を救う話  作者: 山都
第二章 イカロス、そしてバベル
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14 イカロス

 二人から遅れて、もう一人のアバターがやってきた。女性型の、幼いアバター。恐らく、風水蓮華(ふうすいれんげ)だろう。


「大丈夫ですか……?」


 そう言うのと同時、蓮華は俺に向かって回復魔法を唱えた。数秒後、体が軽くなる。体力が回復したんだ。

「ありがとう」

「い、いえ……当然のことですから……」


 自信なさげに蓮華が言う。


「三人は、どうしてここに?」

「世良が言ってたろうが。最初(ハナ)っから俺らはここに乗りこむつもりだったんだよ」

「そーゆーこと! 兄ちゃんが先突っ走っちゃったのは予想外だったけどねー。でもお蔭で、ここまで来やすかったよ。エグイ戦い方するよねぇ、兄ちゃんも」

 あははっ、と風水露草(ふうすいつゆくさ)が笑う。どこか、残酷な笑い方だ。


「君ら、イカロスのアバターか」

「バベルに敵対する愚か者か」


 黒い蟹の上から、ナロとナエの声が聞こえてくる。

 自動防衛機械(オートマター)は今、体勢を立て直していた。装甲の一部が破損している。能力(アビリティ)の一撃を二発連続で喰らったからだ。


 ナロとナエの言葉に、荒上と露草は不快感をあらわにする。威勢よく前に出て、そして、叫んだ。


「愚か? ハッ! 何で俺が、テメェらに枠付けされなきゃならねねーんだよ」

「そうそう。そーゆーのは自分で判断するよ。反抗期なめんなってさ!」


 この二人は、こういうタイプか。わかりやすいと言えば、わかりやすい。

 そんな二人を、蓮華は不安げに眺めていた。やはりこの少女はあまり喋らない性格らしい。露草が喋りすぎるせいでそう感じるのかもしれないが。


「まあいいや。どうやら二人して兄ちゃんをいじめてたみたいだけど、形勢は逆転だ。とにかく、ぶった切っちゃうぜ? 蓮華、兄ちゃんを頼むよ」


 露草が両手に持った〈大剣(ブレード)〉を自動防衛機械(オートマター)へと構えた。

 蓮華はそれに、無言で頷く。そしてその手に、二丁の〈魔法銃〉をジェネレートした。

 本来、武装は一つしかジェネレートできない。露草もそうだか、この兄妹は二つの武装を同時にジェネレートしている。何故だ?


「あ……これは……私、〈二丁拳銃(ツインバレット)〉の能力を持ってて……」


 疑問に思う俺の眼差しに気が付いてか、蓮華は途切れ途切れにそう言った。

 ああ、そうか。聞いたことがある。

 銃系統の武器を同時に二つまでジェネレートできるようにする能力か。それと同種の〈二刀流(ダブルブレイド)〉も確か、あったはずだ。レアリティは相当高かったけど。


 露草と荒上が前に出る。

 瞬間、自動防衛機械(オートマター)がマシンガンを発射した。二人はその射線から逃れると、そのまま自動防衛機械(オートマター)との間合いを詰める。途中で襲いかかる弾丸を素早くかわして、そのまま懐に潜り込んだ。

 荒上が〈(ナックル)〉で自動防衛機械(オートマター)の腹にあたる部分を殴りつける。機体がぐらついた。動きが鈍る。


「さあ、いくよ! 〈牙刃乱舞(がはらんぶ)〉!」


 露草が叫んだ。同時、その両手の〈大剣〉が輝きだす。

 露草が踊るようにして自動防衛機械(オートマター)の足に〈大剣〉を数度叩きつけた。機体がよろける。同時、自動防衛機械(オートマター)がマシンガンを放った。


 その時にはもう、露草は自動防衛機械(オートマター)の射線上から離れている。ヒット&アウェイ。〈オメガ〉でのボス戦における、基本戦術だ。

 今度は自動防衛機械(オートマター)の銃口が荒上に向けられる。


 瞬間、荒上は銃口に向かって、〈拳〉を振りかぶっていた。


「〈波動雷迅拳(はどうらいじんけん)〉」

 同時、銃声が鳴る。

 雷を伴った衝撃波が荒上の〈拳〉から放たれた。それが弾丸を全て消し去って、そのまま自動防衛機械(オートマター)を吹き飛ばす。


「やるね、なら俺も!」


 嬉々とした表情で露草が駈け出した。地面に崩れ落ちた自動防衛機械(オートマター)に向け、二振りの〈大剣〉を振りかぶる。

 その、瞬間。

 露草の身体を、光の矢が貫いた。


「僕らも一応、いるんだよね」

「忘れないでもらえるかな」


 今、ナロが魔法(エクストラ・アビリティ)を放った。その手には〈魔法剣(エクストラ・ブレード)〉が握られている。

 光属性レベル2魔法、ライティアが荒上を襲った。鋭い閃光の直撃を受け、荒上は後退する。


「痛って!」


 再び露草が叫ぶ。新たな矢がその胸に突き刺さっていた。さらに銃弾の雨が襲いかかる。

 俺の隣で蓮華が心配そうな表情をしていた。そんなに加勢したいのなら、すればいいのに。俺は何も問題ない。

 荒上が〈疾走〉を使って自動防衛機械(オートマター)の懐へもぐりこむ。そして、その両の〈拳〉が赤く輝きだした。


「〈重拳撃(ゴウ・フィスト)〉」


 荒上が自動防衛機械(オートマター)の腹を強く殴った。機体が浮く。それが跳ね上がり、露草から弾丸が逸れていった。


「サンキュ、凌!」


 露草が自動防衛機械(オートマター)を追って跳んだ。〈跳躍(ジャンプ)〉を使って上を取る。そして銃弾の雨を片方の〈大剣〉で防ぎながら、もう一方の〈大剣〉を甲羅の上のナロとナエへと振った。


「能力、〈衝撃(ストライク)〉!」


 光の刃がナロとナエを襲う。二人はその場から飛びのき、地面に着地する。

 その間、露草と荒上は自動防衛機械(オートマター)能力(アビリティ)による攻撃を叩き込んでいた。

 数度のインパクトを喰らって黒い蟹は吹き飛んで、そして気味の悪いモーター音をうなりあげた。まるで、悲鳴を上げているかのようだ。


 ナロとナエはそれを見て、駈け出した。自動防衛機械(オートマター)に加勢するのではない。自動防衛機械(オートマター)のやってきたシャッターの向こう側へと、逃げて行ったんだ。


「あいつら……」


 逃がすわけにはいかない。あの二人は俺の顔をしたあいつのことを知っている。それを聞きださないわけには、いくものか。


 俺はその場から駈け出した。ここにはいなくてもいいだろう。どうせ、あの二人だけでも自動防衛機械(オートマター)は倒せる。


「あの、待ってください、八雲さん!」


 蓮華の縋るような声が聞こえてくる。だが、そんなのは知ったことじゃない。悪いとは思うが、それよりも優先すべきことがある。

 俺は薄暗い通路を駆けて、先を行く二人の後を追った。

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