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VRで狂った俺が、大切なものをなくして結果的に世界を救う話  作者: 山都
第二章 イカロス、そしてバベル
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10 バベルの守護者

 扉の向こうは、ドーム状の部屋だった。床はコンクリートで作られている。天井は十メートルくらいの高さがあった。

 壁にはいくつかのドアとシャッターが備え付けられている。なんとなく、俺はコロッセオを思い出した。〈オメガ〉の(スクエア)にあったそれと、どことなく似ている。


 俺は〈槌〉を消失(バニッシュ)させた。移動するには、こいつは重すぎる。


 部屋の中心に、二人の人間が立っていた。

 鎧を着て、武装を手に持っている。アバターだ。


「やあ、君が侵入者だね。僕はナロ」

「遠路遥々よく来たね。僕はナエ」


 その二人が、かわるがわる喋った。声も見た目も抽象的で、女性とも男性とも取れる。

 ナロと名乗った一方は〈双剣(ダブルエッジ)〉を手にぶら下げ、ナエと名乗ったもう一方は、〈(アロー)〉を担いでいた。遠距離と近距離の組み合わせだ。


 ナロの装備は軽装で、素早さを重視している。対するナエは重装甲で、機動性を度外視していた。

 イメージとしてはナロが特攻隊で、ナエが固定砲台のような感じだろうか。


 味方、ではないだろう。世良達が悪の組織を潰すアバター能力者なら、こいつらは悪の組織そのもののアバター能力者、ということだ。


「あんたらがここの親玉か?」

「僕らが親玉?」

「いいや、それは違う」


 そして、二人は声を揃え、言った。


「僕らは、守護者(ガーディアン)さ」


「それは、何の?」

 俺が問う。


「誰もが苦しまない理想郷」

「悲しみなどない桃源郷」

「腐った神が作り出したこの世界をぶち壊して」

「僕らバベルが本当の世界を作り出す」

「その守護者が、僕ら」

「それが、僕ら」


 なるほど、バベルとやらが世良の言っていた「悪の組織」の名前か。

 それは、かつて神に挑戦しようとして崩れ去った塔の名前だ。こいつらは、それと同じことをしようと言うのか。 

 それが、理想郷であり桃源郷。その為にアルカディアのユーザーを犠牲にして……


 しかしそれは、理想郷か?

 犠牲の上に成り立つ世界が、桃源郷か?

 そんな世界が、正しいのか?


「それで、君は何をしに来たの?」

「君は何の為にここに来たの?」


「妹を取り戻しに」


「妹?」

「誰?」


「八雲香凜」


「ああ……君が、八雲周か」

「いや……君も、八雲周と言った方が正しいか」


 引っ掛かる物言いだ。

 恐らく、こいつらが言っていることは俺のほかにもう一人、「八雲周」がいる、ということだろう。

 あいつだ。俺を襲ったあの男。黒い鎧を身に着けた男、ヴィティス。

 やはりそうだ、あいつも「八雲周」なんだ。


ヴィティス(あいつ)のことを知っているなら、全部吐いてもらう。どうせお前らは敵なんだろ?」


「君が、そう望むなら」

「僕らはただ、戦うだけ」


 瞬間、俺は地面を蹴る。同時、固定能力の〈疾走(ダッシュ)〉を発動した。そして〈小型剣(タガーエッジ)〉をジェネレートする。


「ナエ、援護よろしく」

「ナロ、前線よろしく」


 ナロとナエが、二手に分かれた。〈双剣〉を持ったナロが前に、〈弓〉を持ったナエが後ろに。前衛と後衛か。面倒だ。


 ナロの〈双剣〉と俺の〈小型剣〉の刃が衝突した。金属音がドーム状の部屋に響く。ナロの振ったもう一方の刃を盾で防ぎ、そして俺はナロを蹴り飛ばした。

 ナロの体が軽く吹っ飛ぶ。直後、それと入れ替わるようにして光の矢が──〈弓〉を持つナエの放った矢が、俺に向かって来た。


「──ッ!」


 俺は咄嗟に身を捩らせる。胸の先をその矢が掠めた。


 〈弓〉は〈(ガン)〉、〈魔法銃(エクストラ・ガン)〉、〈(スタッフ)〉と同じ遠距離武装だ。

 特徴としては、ある程度はプレイヤーの腕前に左右されるものの、〈銃〉系統に比べ、精密な射撃ができる。〈銃〉のようには連射できないというデメリットがあるが、連携には適した武装だ。ある程度は魔法攻撃力も備わっている。


 俺が大勢を立て直していると、さらにもう一発、矢が飛んできた。俺はそれを横に跳んで回避、しかし次の瞬間、〈双剣〉を持ったナロが切りかかってくる。

 なんとか片刃を〈小型剣〉の刃で受け止めた。即座にもう一方の刃が、俺の脇腹を襲う。俺はそれを盾で受け止めようとして──


「特殊能力(アビリティ)、〈重斬撃(ゴウ・スラッシュ)〉」


 ナロの言葉と同時、〈双剣〉の刃が強く輝いた。

 まずい。そう思った時には、すさまじい衝撃が俺に叩きつけられていた。身体が吹っ飛んで、壁に背が激突する。


 盾を持っていた方の手の手が痺れ、激痛が走った。痛い。銃で撃たれた時の数倍は、痛い。これが、アバターの力か。


 遠くから〈弓〉を引くナエの姿が見える。

 俺は壁を強く蹴った。そのまま跳躍し、〈弓〉の射線から逃れようとする。しかし──


「特殊能力、〈弓撃三重奏(トリオレ・フレッシュ)〉」


 ナエが、そう言った。同時、〈弓〉から矢が放たれる。

 最初は一つだったそれが、突然三つに分裂した。そう、これはそういう技だ。


 俺は咄嗟に〈大剣(ブレード)〉をジェネレート、空中でそれに身を隠した。

 大剣の腹に、三つの矢が連続で直撃。俺の手に強い衝撃が走った。身体が吹っ飛ぶ。俺は空中で体勢を立て直そうとし、そして──その時にはもう、ナロの〈双剣〉が目の前に迫って来ていた。

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