価値観の違い~1980円のカバンは論外か?
――高校時代の同級生と再会し、一緒にランチへ行った時の話。
「おいしかったねー」
「うん。また行こうね」
「これからどうする? ちょっとブラブラしてく?」
「いいね、いいね。ちょうど服とか見たかったし」
「私、寄りたい所があるの」
友人は少し先に見える店を指差した。ズンズンと前を歩いて行く。
「え……ここ?」
「そう。お気に入りなんだー」
「なんか高級そうなお店だね」
「中見てってもいい?」
「うん」
外国人のイケメン店員が近づいてきた。
「このデザインは今すごく人気なんですよぉ」
訛りのない流ちょうな日本語で話しかけてくる。薄い唇からキラリとこぼれおちる白い歯がまぶしい。
「これ、超可愛い! 絶対欲しーい」
友人は真っ赤なバッグを指差して興奮している。
「う、うん」
私は平静を装って相槌を打った。
「見てみて、このバッグ! 180,000円だって」
「180,000?! 高くない?」
「いや、普通だよ。このクオリティーなら」
「お客様、こちらがお気に入りですか?」
さっきのイケメン店員がついてくる。とびっきりの営業スマイルを浮かべて。
「私、このバッグ絶対欲しい」
「(まだ言ってる……)そうだね、ゲットできたらいいね」
「でも給料じゃ払えないな」
「(そりゃバッグごときに180,000円なんておかしいでしょ)そうだね、高いもんね」
私はふいに自分が周りから浮いているような気がした。友人はパリっとしたコートに高級ブランドのカバンを手に持っている。しかし私が今身につけているのは1980円のカバン。明らかにこの店で一人だけが“不釣り合いな客”なのだ。この場合、招かれざる客とも言えるかもしれない。とにかく居心地が悪い。
「このバッグ、おねだりして買ってもらっちゃお♪」
「誰に?」
「パパ」
「お父さんが買ってくれるの?」
「うん。お酒飲んでる時にね、うまく聞くんだー」
「買ってくれるといいね(はぁ、いい加減疲れたな)」
「やっぱりちゃんとした大人のオシャレをしないとね。バッグだってクオリティーが大事でしょ。変なのは持ちたくない」
「(あれ? これって私のバッグのこと言ってる?)ははは……クオリティーねぇ……」
他人は自分と違って当たり前。それは頭でわかっているつもりだが、なかなか心が受け入れてくれない。「この人何言ってるんだろ」って、ムカっとくることがしょっちゅうある。
でも家に帰ってふっと息をつくと、苛立つ自分を冷静に客観視するもうひとりの自分がいた。昼間、嬉しそうにバッグを見て回っていた友人の顔が思い浮かぶ。
――世の中にはいろんな人がいるなぁ。だから世界はいろんな考えに溢れてるんだ。たとえ同じ言葉でも、違う人が発すれば違う意味になることだってある。
考え方の違いを理由にその人のすべてを決めつけちゃいけない。価値観はその人の大事な個性なんだし。
ノンアルコールカクテルをプシュっと開ける。
「今日もお疲れさま。自分の個性に乾杯」