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春の音。-ハルノート(最後通告)-

どうでもいいけれど、やれやれ系主人公の走りは、ミラクルヤンだと思うんだ。

好みの異性、フェティシズム、性癖。


そういった、個人の趣味嗜好は、今日把握しきれない程に多様化している。


ミニスカの下の絶対領域なんかは理解できる。いや、個人的にはその領域にはえもいわれぬ魅力が詰まっているという意見に、諸手を挙げて賛同したい。


しかし、理解が及ばない物もやはりある訳で。

例えば、ドアノブと女性の組合せ。俺には理解出来ない浪漫があるのだろうが、それに賛同出来ない人間を責めないでやって欲しい。


だって………


「私は、酒匂鈴音さかわすずね


「僕は、酒匂静音さかわしずね


「「宜しくね、お兄様|(兄様)」」


理解出来ない物は、理解出来ないのだから。



元気よく名乗った二人は、どうやら双子らしい。


人懐っこい笑みを浮かべている二人。黒を貴重としたゴスロリと相まって、さながら人形の様だ。街に出れば、間違いなく周囲の視線を独占するのだろう。一つ年上らしいのだが、どう見ても中学生にしか見えない。彼女たちが纏うその空気は、朱く誘う彼岸花。


だが、俺はそんな花のような彼女たちを愛でようとは思わない。

今日彼女らから受けた仕打ちと、一瞬だけ見えた部屋の内装。


第一印象だけで人を判断し、接し方を決めてしまうような狭量な人間になりたいとは思わないが、脳内では彼女たちに対する警告音が鳴り止まない。


「どうしたの、お兄様。どうしてじりじり遠ざかるの?」


どうして君はにじりよるの?


「僕達と仲良くして欲しいな♪」


そう言いながら、何故君は太股に指を這わせるの?


「うぇ!!あ、いや、その………」


絶妙な力加減で、俺の鎖骨に指を這わせる鈴音さん。


するり。ぬるり。静音さんの白魚の様な指は、膝から上へ………


妖しく誘う、双子。俺はさながら、蜘蛛の巣に捉えられた羽虫の様で。逃れようと身をよじれば、更に絡まる二人の指。


ねぶる様な快感。脳が痺れて、考えが纏まらない。


ぬらりと赤い唇をなめる鈴音。その口が、ゆっくりと俺の首筋に………









近付いた所で、救いの手が意外な所からやって来た。ゴリラだ。


「フガッ!!」


「………」


ゴリラこと赤木が、酒匂鈴音に鼻フック。


「俺の目の前で、これ以上、許さない。」


がっちり決まった鼻フック。


ま………


「間抜け………」


あまりにも間抜け。1万年と二千年前から愛してたとしても、一気に覚めそうな。鼻フック。


先ほど迄の妖しい雰囲気は、一瞬で霧散する。


ベシッ。


何事も無かった様な無表情で(鼻フックのままだが)、赤木の手を叩く鈴音。手を離さない赤木。


………あ。格闘戦が始まった。


ゴングの幻聴が聞こえ、弾かれたように無言で殴りあう赤木と酒匂姉。


何やらいたたまれなくなって、視線を反らすと………


「あらあら。」


困った様な顔で、がんもどきを構えた大家さんが居た。




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