プロローグ -神との邂逅-
完全な自己満足作品なので更新は遅いです。
「あれ、生きてる……?」
声がした。 やけに間の抜けた声だった。
「あ、生きてる! よかった!」
見知らぬ少女がこちらを覗き込んでいた。
――――――――――――――――――――――――
「今日は何しようか……。」
いつものように、何をするか考えながら帰路に就く。平凡な日常。
俺は中学卒業後、そこそこ名のある大学付属高校に入学した。
そこそこであるからして、そう簡単に入学できる高校ではない。
だが、俺は勉強ができた。
そうは言っても、できるだけ。
「できる」のと「やる」のとでは大きな違いがある。
後者はあまり好みではない。
というより、どうやら俺は興味のない知識を詰め込む作業が好きではないらしい。
だが、遺伝のせいか勝手に知識としてとどめておいてしまう。
これも、先祖がくれた宝のせいだ。
それに加え、名家の次男として育ったからか、あまり自分自身が苦労をしたことがない。
これは自論であるが、幼少期から余裕な日々を経験すると、その人は人生というものに飽きを感じてしまうらしい。
そのため、いかに時間を潰すかを考える葦が生まれる。
「この前買った漫画の続きでも読むか……。」
ぽつりと声に出る。
最近ではアニメ・漫画・ゲームの3択になっている。
以前は使用人と一緒に料理やスポーツをしていたのだが、結局コレに落ち着いた。
俺は他人と時間を潰すより、独りで考えていたい人間のようだ。
無論、学校でもこのスタンスだ。
教室の隅で陰ながらクラスを見守っている警備員というわけだ。
(…………何かつまみたいな。)
この時間は小腹が減る、帰ったら何か食べるものを探そう。
「ただいまっと。」
そんなことを考えている間に家についてしまった。
言えば、お付きの者が送迎してくれるのだが、それを見られることでより疎外感を感じたくなかった。
あと普通に運動不足解消もあるけど。
「おかえりなさいませ、一水様。お荷物はこちらに。」
「ん、ただいま。」
この人は俗にいうメイドだ。俺専用の。
メイドは入れ替わりが激しい。この方も初めて見る顔だ。
「そういえば、先ほど市川様より、山の幸をいただきましたので夕食用に調理いたしますがいかかがなさいましょうか。」
(ん、市川さん……? )
確か、市川さんって父様の従兄だな。
「えーっと、市川さんって、父様の…………」
「はいそうでございます。旦那様の従兄にございます。」
(いやー、ほんと出来るメイドだな。)
相手の意図をすぐに理解する。
俺自身あまりコミュニケーション力に自信はない。
それも相まってか一層メイドの優秀さが際立つ。
「ではご準備いたしますので出来次第お声がけさせていただきます。」
「あ、えっと。先に何かつまみ――」
「――はい、でしたら、中にきのこがございましたので軽く塩焼きにしてお持ちいたします。」
(え、早っ。)
このメイド、俺への先読みが早過ぎるな。
人を見るのだけは昔から得意だったからわかる。
このメイド、優秀だ。
「いやそれくらいは自分でするよ。」
「承知いたしました。ではご準備のほう手伝わせていただきます。」
「うん。」
そんなこんなで今日も一日の後半戦を迎えている。時刻は16時。結局メイドと一緒に作ったおやつを片手に自室へと向かう。
この家は一般的に見たら豪邸でも、俺からしたら幼少期からの”あたりまえ”として景色に溶け込んでいる。
二階への階段を上る途中、むやみやたらに美味しそうな匂いを振りまくキノコに俺は我慢できなかった。
(まあ行儀が悪いけど、一口くらいいいよな。)
そう思い、小ぶりサイズのきのこをぱくりと頬張った。
噛んだ瞬間キノコの旨味を凝縮したエキスがあふれだす。
「うまっ!」
思わず声が出てしまった。
塩加減も絶妙だ。キノコの旨味を邪魔せずに、かつ甘みも引き出している。
これを味わった俺は間髪入れずにもう一つも口へと運んだ。
(やっぱ塩焼きだよな。)
気づけば部屋の前に来るまででほとんど平らげてしまった。
多少の後悔を感じながら、高揚感にも包まれる。
そして喉から腹部にかけての熱感。
(え、熱い?)
それは次第に痛みへと変わり、冷や汗がにじみ出る。
「ううっ、いてぇ。」
食道を引き裂かれているかのような痛み、そして吐き気。
手足に力が入らなくなり、皿と一緒に床に落ちてしまう。
「一水様!――――――――」
大きな音で気づいた使用人の声と、駆けつく振動が耳を伝う。
その後のことはハッキリとは覚えていない。
朦朧とする意識のなか、医療関係者に何度も名前を聞かれた。
その間、過去の記憶が呼び起される。
(これは走馬灯ってやつか…………、死にかけなのか、俺…………。)
次々切り替わる記憶の中でお世話になった人の顔が出てくる。
家族、使用人、そしていつもニヤニヤしていたどこか間抜けな市川さんの顔。
(あの人…………。)
そういえばあの人は昔から、どこか抜けたてた人だった。
金と言って買ったネックレスが変色していたり、ゴムボートに穴を開けたまま川渡りしようとしていたり。
(ってなるとあのキノコも毒きのこだったりして。)
まじか、なかなか悔しいな。
(もうちょっと楽しい人生を――――)
何か暖かいものに包まれる感覚を最後に俺は気が付いたら暗い空間にいた。
いや、どこよここ……。
いや、暗いんだけど、でもはっきり人の顔が見えるみたいな。
え、顔があるじゃん。
あれ、夢って感じなのか、というか夢の中で夢と認識できるのか。それって明晰夢ってやつか。
あー、多分意識をさまよってて不思議な体験とかいう。
「コホンッ。」
俺の思考をかき消すような咳払いが響く。
そして目が合う。
「あなたは神を信じますか?」
「は、神?」
いきなりすぎて変な声が出てしまった。
そして胡散臭さが滲みでてくる。
「神を、信じますか?」
どうしても話が入ってこない。
この、宗教勧誘を装い高い壺を進めてきそうな女。
だが、服装は見たことがない。昔のエジプト人が着てそうな白い布に貴金属の装飾。
そう考えている間にこの女は、俺のことはお構いなしに話を進めている。
「――――もしこの世界に神がいるとしたら、あなたは畏れるのか、はたまた恐れるのか――」
変な夢かキノコによる幻覚か。
「ふっ…………。」
意味が解らな過ぎて、思わず笑ってしまう。
すると女は台本を読み終えたかのように話題を変え、俺に言った。
「ここはあなたが居た元の世界ではありません。」
「は、はあ……。」
(元の世界じゃ……ない?)
え、じゃあどこだ。
(あっ!!!)
もしかすると父様のことだから日本の病院じゃなくて海外のに送った可能性も。
「まあ、動揺するのは無理ありません。皆さん最初は戸惑いますから。普通のことですよ。」
と、とりあえず、間違いなくこれは現実ではないことは確か、か?
いやわからないな。最後に走馬灯を見たのは覚えているけど。
(……ここは素直に聞いてるか。)
「えっと、じゃあここは…………夢、でしょうか?」
「フフッ……。」
(え、笑われたんだけど…………。)
確に笑った。しかもあまりよくない方の。
「えっと、あの…………。」
「ごめんなさい、ついつい。それにしても面白い方ですね。」
「は、はあ。」
なんだろうか、この失礼な女は。
依然としてニヤケ顔を晒している。
「まあ、大抵の人は夢だと勘違いするでしょう。でも残念ですが、これは現実であって決して夢ではありません。」
「……ええ?」
どうやら、現実らしい。
いや、信じれないよ?
でもこの女はそう言う。
「まあ信じれないのも無理ありません。しかし、現実を受け止めねばなりません。いいですか、あなた白鷺一水は、毒キノコの経口摂取により死亡いたしました。っぷはっ、ぷはははははっ。」
「………………。」
「やばい、ダメだこれ。こんな人、久々過ぎてさ。っはは。しかも、毒性が、低くいきのこって。これ初の死亡例なんじゃない?」
「え、死んだ……?」
いやいやなんかわからないけど、俺毒性低いキノコで死んだの?
というか笑いすぎだろ。
(失礼だろ。……マジで。)
てかこの女、俺の名前知ってるし直前にキノコを食べたことまで知ってる。
本当に夢じゃない、のか?
「まあ、そうだわ。わたくしったら忘れていました。ふうう、それでは、改めまして。わたくしたちはこの世界の創造神であり、あなたを救いに来ました。」
(え、神様? この女が?)
人を馬鹿にしてくるこいつが神だと信じたくもない。
「信じないでしょうけど、あなたはもう死んでいますよ。それに私忙しすぎて、あなたにそこまで時間が割けないんですよ。分かってもらえます?」
「いや、え?」
展開が早すぎてわからない。
まじでなんだよこれ。
というか、いちいちムカつく女だな。
「ええと、端的に言いますと。今から異世界転生してもらいます。その世界で隠れている神を探して、それを倒してください。それがあなたの使命です。」
(うえ、 転生!?)
その一言で心が躍る。
正直異世界転生してみたかった。
それに、任務みたいなのもセットだ。
これからのことを考えると、気持ちが揺らぎ始める。
「え、じゃあ、あれですか、あの、勇者パーティで魔王を倒すみたいな?」
分らないが、こういった展開は知ってる。
転生、からのチート能力で魔王を討伐。
そんな感じ。
「ええ、そうです。まあその魔王は神ですけど、それを見つけ出し討伐してほしいのです。」
「おお、マジか!……まあ、でも神なんですね。」
執拗に訂正される。
魔王とかではなく神らしい。
「まあ、話すと長くなるので詳しいことは部下に聞いてください。」
「あ、あの、じゃあ、あれですか、なんか、転生者の特権とか、そういった能力とかスキルくださるとかはあるんですかね。」
「ええとですね、そんなのはないです。……とにかく伝えることは伝えたので、私はこれで失礼いたします。後のことは部下に。では、ご機嫌用~。」
そういうと、自称創造神はそそくさと離れていき、「あなたは神を信じますか?」と別の人へあのマルチ勧誘を始めたのだった。
(え、ないの。何も?)
なんて無責任なんだろうな。
てか、俺の死について笑ってたよな。やっぱ腹立つな。
またもや気持ちが揺らぐ。
「腹いせに異世界での使命とかやんなくてもいいかな。」
「え、えっと、それは困ります……。」
「うわっ!」
急に俺の背後から声がした。
(…いやびっくりした、死ぬかと思ったわ。)
あ、死んでるんでしたっけ。
「あ、あの僕は、先ほど話にあった、ぶ、部下でして…………。え、えっと、と、とりあえず、今は話せる時間が少ないので、また今度必ず事情を説明いたします。」
「部下の方、ですか…………。」
(え、ちょっとかわいいな。)
見た目と一人称から男性か、というよりも男の子だろうか。
なんだろう、和むな。
最初からこの子を出せばよかったのにな。
つい、失礼な目線で見てしまっていた。
男の子は赤面しだして、顔を手で覆い始めた。
明らかに恥ずかしがっている。
(あの、ごめんね、セクハラじゃないからね。ほんと。)
「あ、あの、もうそろそろ、転生しますので…………。」
「えっ、もう?」
直後、強烈な眠気が襲ってきた。
目前が引いていくのか、自分が後退しているのかわからないが視界が小さくなっていく。
そして、意識が遠のいていく。
「……あ、あと、僕は女の子ですっ!!」
(僕っ子最高かよ…………。)
それを最後に俺は何か暖かいものに包まれる感覚の中、意識を途絶えた。
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気が付くとまたもや見慣れない場所だった。
どこまでも白い空間。
(あれ、なんだっけ、ウユニ塩湖とかってこんな感じだよな。)
いや、ちがう。そもそも光源も影もない。ただ白いだけの、何もない場所。
「あれ、生きてる……?」
声がした。 やけに間の抜けた声だった。
「あ、生きてる! よかった!」
見知らぬ少女がこちらを覗き込んでいた。 露出の多い衣装に、横に伸びる尖った耳。頭には二本の角。
「えっと……。」
「ふふん! 我輩の名はセレナ・エクリプスだっ! この世界では魔の神、魔神セレナだ!!」
少女は腰に手を当て、どこか誇らしげに言い放った。
(あ、神いた。)
どうやら、僕の使命は早く終わりそうです。




