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第1乙

「せ、せ、セ――――フッ!!」


 野良でクエストに参加していた俺は……たまに一緒になるゲームプレイヤーの『愛車はバニラさんが力尽きました』の表示を見て安堵(あんど)した。

 俺が生まれた時には既に存在していたこのゲームは『3乙』、つまりはゲーム内で三回『HP』がゼロになったら強制的に受注したクエストが失敗となる。

 もちろん、シングルプレイも可能だが俺は率先してパーティープレイに参加した。

 狂敵なモンスターが討伐対象となるクエストほど、俺のような3乙プレイヤーはこぞって”PS(プレイヤースキル)”が高い人の邪魔にならないように立ち回るのが定石中の定石だが……。

 それでも運悪く……、モンスターからの即死攻撃を同じフィールド内の隅で素材採取中に食らってしまうのが俺だ。

 もちろん、そんなことを自覚している俺はプレイヤーネームを『寄生虫でおk?』とあらかじめ予告しているし、クエストが成功した際は誰よりも『皆様に感謝です!』とコメント欄を埋めて、彼らの承認欲求を満たすことに尽力する。


 要するに俺は……絶望的にこのゲームが下手なのである。


 だがなぜだろう――――。

 俺はこのゲームの世界が好きだ……。

 何度、モンスターへの攻撃が外れようが……。何度、ブロック通知が届こうが……。何度、通信が途中で遮断されようが……。

 残暑の日差しがゲーム画面に反射しようが。


 しかしなぜだろう……?

 電車を待つ駅のベンチの隅っこでゲームをしていただけなのに……。 

 背中をブスっと刺された鈍痛に……。咳き込んだ唾がゲーム機を赤く濡らす……。リアルでクエスト受注した覚えないけど……。

 日差しによる貧血か、出血による貧血か……最後に視界をよぎった空の青さに……


「1乙かよ」


 そう……ボヤくのであった。



「寄生虫さんは異世界で転生したら、ハンターになったら一番ダメな人だね!」

 この言葉に似たコメントを愛車はバニラさんに何度書かれたことだろう……。

 俺はその度に、


「バニラさんの荷台に隠れててもよろしいでしょうか?」


 そう返信した。いつもその後は既読スルーになるが、クエストが重なれば何事もなかったように会話が弾んだ。



 だが……宇宙空間のような場所で『異世界転生よろ~!』としか、言って来なかったギャル語の神様とは会話が弾む気がしなかった。

 だからこそ、コメント欄で幾多のプレイヤーたちの承認欲求を満たしてきた俺にはわかる――――ッ。

 目の前のこの女性には何を褒めた所で無駄――――ッ!


 つまり、この状況下におけるベストアンサーは……


「3乙するところを2乙で食い止め連帯責任に持ち込ませたらノーカンにしてくれ!」――――つまり、自分の望みを言う事である。


「ん?? オッケー、んじゃ頑張ってね――」


 こうして俺の……異世界奮闘記が始まった。

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