第72話 決行 (1)
今日は脱獄の決行日だ。
必ずここから抜け出してみせる。
今日の業務は管制室の監視だ。
この日のためにフキに頼んで、勤務日を交代してもらった。
管制室では試合の様子を確認できるのは都合が良い。
闘技場に囚人達が入ってきた。
そろそろだな。作戦開始だ。
まず俺が画面に繋がる配電に電気を流す。画面が壊れれば、どの囚人が何をしているか分からなくなる。
もちろん、これで枷の装置を起動することもできなくなる。
そして、もう一つ。
他の守り人が画面の復旧に手を焼いている間、装置を調べるふりをしてある装置を起動させる。
よし、これでここの部屋でやれることは終わった。
「機械に詳しい人、探してきます!」
「あ、ああ、頼むぞ」
俺は助けを呼んでくる振りをして部屋を出ると、走りながら大声で叫ぶ。
「大変だ!枷を管理していた装置が壊れた!誰かいないかー!」
監房にいた囚人の一人がゼインの言葉を聞き、周囲を煽るように声を掛ける。
「おい!枷が壊れたらしいぞ!俺達は自由だ!」
それを示すように腕を壁にぶつけ、枷を打ち壊す。
しかし、当然枷は作動しない。
本当に枷が動かないと分かると、他の囚人も同じように枷を壊し始めた。そして、スキルを使って檻を壊し、今までの憂さを晴らすように暴れまわる。
彼らを止める守り人もいたが、中には同じように枷を壊す者もいた。
収容所内はスキルが入り乱れ、混沌と化していた。
そんな中、囚人の一人が監房の奥を指差した。
「おい!出口は向こうにあるみたいだぞ!」
更なる自由を求めて囚人達は示された方向へと走り出す。
しかし、出入り口にはエンキを筆頭に数人の守り人達が待ち構えていた。
普段いるはずのない彼らがここにいたのは、スタングから今日ゼインと二人で脱獄すると聞いていたからだ。
「来たぞ!」
「何で守り人がこんな所にいるんだ!」
「数はこっちのが多いんだ!やっちまえー!!!」
一人、二人…六人。いや、まだ来るぞ。何だこの囚人の数は。
ゼイン達に同調した奴らがここに来ることは想定していたが、想像以上の囚人の人数に目を見張る。
それに囚人達は全員枷を外している。
どうやったかは知らないが、これもあの二人の仕業か。
しかも、肝心のゼインとスタングの姿が見当たらない。
目的は俺の足止めか。舐めやがって。
だが、このままこいつらを見過ごすわけにはいかない。
さっさと終わらせてやる。
「全員殺せ!」
◆
スタングは鍵を使って監房から出て、俺を待っていた。
「ゼイン、上手くいったな」
「ああ、今のところはな」
その足で囚人達が向かった方向とは真逆の闘技場に向かう。
囚人達を囮にして、貴族が出入りに使っている来客用入口から抜け出す、というのが俺達の作戦だ。
闘技場に行くと、合成獣が貴族達を襲っていた。
貴族達は悲鳴を上げながら合成獣から逃げまわっている。観客席には何人かの死体が転がっていた。
よし、こっちも上手くいっているな。
俺はその作戦だけではなく、並行して別の作戦も走らせていた。
それはあの合成獣を闘技場内で暴走させることだ。
合成獣と戦ったとき、アイツは闘技場にいた俺とプージャにしか攻撃を仕掛けてこなかった。
周囲には餌となる観客が山のようにいたにもかかわらずだ。
合成獣を観察していたとき、首元に首輪がついているのが見えた。
枷と同じ仕組みで合成獣を管理していたとしたら、管制室で操作しているだろうと踏んでいた。
もちろん、このために事前に他の守り人から合成獣の動かし方を聞いておいた。
観客席からその様子を見ていたズックは慌ててタツマに指示を出す。
「何で、モモが暴れているんだ!?タツマ、早く止めろ!」
「かしこまりました」
タツマは闘技場に降りると、合成獣の動きを止めに入る。
あの強そうな守り人が合成獣の対応に追われるのも予想通りだ。
アイツが絡むと、厄介そうだからな。
この隙に、一気に外に出る!
闘技場を横目に観客席通路を走ると、約束通りログが待っていた。
「ログ!」
「ゼイン!良かった!」
ログの横には銀髪の少女が立っていた。
服装からして囚人側の人間のようだ。
「あんたは?」
「私はエフィ。ログと同室だった者だ」
「お前がゼインか?」
「あ、ああ」
「エフィは良い人だよ。エフィも外に出たいんだって」
見た目より大人びた話し方だな。
今は少しでも時間が惜しい。
俺達の邪魔をしないなら、いてもいなくても問題はない。
「分かった。とりあえず今のうちに外に出よう」
そのとき、ログの視線がスタングに向いていることに気がつく。
「あ、そうそう。このおっさんはスタング。この脱獄の協力者だ」
「おっさん言うな!とりあえずよろしくな。お嬢ちゃん達」
「よし、行くぞ!」
簡単に挨拶を済ませ、貴族達が逃げ込む通路を進む。
そのとき、行く手を阻むように立つ守り人がいた。
「ゼイン。そいつらとどこへ行くつもりだ?」
そこには見知った同期の姿があった。
「カノーゴ。何でここに…」




