第71話 密告 (2)
「正直に話せばお前だけは助けてやる」
「ちょ、ちょっと…!急に何なんですか!」
「ゼインの不審な行動を確認している。そして、お前がゼインと接触しているのは分かっている。正直に答えろ」
エンキの壁に押し当てる力がさらに強くなる。
コイツからは逃れられない。
しかし、仮に全てを話したところで助かる保証はない。
脱獄を企んだとして、殺される可能性だってある。
「俺を、絶対に助けてくれる保証はあるんですか…?」
「その言葉、『はい』と捉えていいな?」
「待ってください!その前に保証してくれないなら、俺は何も話せません」
「…いいだろう。素直に吐けば、お前をここから出してやる」
スタングは思わず目を見開く。
命の保証を約束させようと思っていたが、さらに上の望みを提供しようというのか。
でも、こいつの言うことを素直に鵜呑みにはできない。
「お前一人くらい出したところで問題ない。俺の名に於いて誓おう。お前をここから出してやる」
俺の心を見透かしたかのようにエンキは言葉を付け加えた。
ここまで言うってことは信じていいのだろうか。
全部話せば、ここから出れる…。
ゼインの作戦に乗っても、ここから出られる可能性は高くないだろう。
今、俺の目の前にその細い糸が俺の前に垂れている。
この糸を手繰った先に確かな自由がある。
「さあ、本当のことを話してもらおうか」
エンキの問いかけにスタングはゆっくりと口を開いた。
◆
鉢植えにまた葉が置かれていた。
ログは葉を持って、監房へと戻る。
「エフィ!ゼインから連絡来た!」
「ゼインは何て言ってきたんだ?」
くすねていた土を葉にまぶすと、ゼインからの伝言が書かれていた。
「『三日後に脱獄する。闘技場に来い』だって。闘技場ってどこにあるんだろう」
初めて聞く場所だ。
収容所なのに闘技場なんてあるのかな。
本を読みながら、エフィは小さく呟いた。
「そこなら知ってるぞ」
「え、そうなの?」
「ああ。金持ち達の道楽が行われてる場所だ」
その言葉は少し冷たく感じた。
闘技場。
その名前だけで多少は予想がつく。
どういう理由かは知らないが、囚人同士を戦わせているんじゃないだろうか。
エフィはさっきから顔を上げようとしない。
まだ迷ってるのかな。
僕は気になって彼女に問いかける。
「…エフィも来るよね?」
「そうだな。面白そうだから私も行こう」
「やった!」
ログが喜んでいる一方で、エフィの顔色は何一つ変わらなかった。
◆
収容所の入口が見える位置を陣取ってから、数日が既に経過していた。
リクは寝転びながら大きな欠伸をする。
「リク、全然動かないニャ」
「まだその時じゃないからね」
空が夕闇に覆われた頃、再度入口に目を向ける。
守り人達の配置が変わり、人数も増えたことに気付く。
そろそろ頃合いか。
「行くよ」
リクはシリルを連れて、収容所入口付近まで近づく。
警備の守り人達の声が聞こえてくる。
「三日後に賭け試合が行われるらしいぞ」
「マジかよ。じゃあ、暫くはぶっ続けで警備になりそうだな」
「本当になあ。勘弁してほしいぜ」
リクがシリルに離れるぞと指で合図をする。
シリルはこくりと頷く。そして、彼の後を足音を立てないようについていく。
また元の位置まで戻ってくると、リクは話し始める。
「三日後に忍び込もう」
「何でニャ?警備が厳しくなるんじゃニャいの?」
「あそこは賭け試合を定期的に開催してるんだよ。そのとき、たくさんの貴族が参加する。そこに紛れた方が入りやすい」
「リク、凄い物知りニャ」
「まあね」
リクは座り込んで、懐から地図を取り出す。
いくつか目星をつけた場所の様子を見に行く。
出口として使えそうなのは二つくらいか。
今日はこんなところだな。
「さあ、もう寝るか」
廃屋の敷地を跨ぐ。
リクと合流してからは、ずっとこの場所を使っている。埃をかぶってはいるが、それさえ取り除けば充分に使えた。
それに収容所から程近く、守り人達からも目をつけられていない。ここは拠点とするには都合の良い場所だった。
リクは椅子に腰掛けると、パンを齧る。
シリルもその半分をもらった。
「あ、そういえばゼインってどんな奴なの?聞いてなかったなと思って」
「ゼインは研究ばっかりしてるニャ」
「研究ってどんな?」
「シリルもよく分かんニャいけど、木の実とか魔物の素材使ってなんかやってるニャ」
「ふーん、なるほどね。他に仲間はいるの?」
「ログがいるニャ。ログはゼインの面倒を見てあげてるニャ」
「その子も何かスキル持ってるんだろ?どんなのか知ってる?」
「ログは記憶力が良いニャ」
「なるほどね。それは珍しい能力だね」
シリルはパンを食べるのを止め、不安そうに話す。
「ゼインとログ、助けられるかニャ…」
「大丈夫さ。俺がついてるんだから」
「自信満々ニャ」
「初めてじゃないからね」
リクが小さく零した言葉を聞き逃した。
「なんか言ったニャ?」
「いや、何でもないよ」
リクは寝転ぶと、今度はシリルに聞こえるように声を出した。
「さあ、明日は潜入までの経路を決めないとな」




