第69話 守り人 (2)
そもそもあれだけの観客を集めてるんだ。
一試合だけってことはないはずだ。
つまり、スタングが戦う可能性もある。
闘技場の組み合わせはどうやって決めてるのだろう。
当日決めているってことはさすがにないはずだ。
となると、あの庶務室にそれらしい書類がある可能性が高い。
その追加の囚人が来る前にどうやって決まるか探ってみるか。
組み合わせが決まってしまえば変更するのは難しい。
仮にスタングが試合を組まれていたら、脱出の決行日をどうするか考えないと。
あとは、脱出までの順路も探る必要があるな。
食事を終えてから居住場所に向かうと、俺達が新入りだと気づいた他の守り人が、ここについて詳しく教えてくれた。
部屋はそれぞれの番号が振られているから、そこを使うようにとのことだった。
確かに部屋の前には番号が掲示してある。
トイレや洗面所は共用部を使うそうだ。さらに、同じく共用だが風呂にも入れるらしい。
自分達の番号を探してみると、一番最奥の場所に番号の書かれた部屋があった。
「凄え!個室なんだ!」
フキはベッドに飛び込んで嬉しそうだ。
しかし、個室といっても簡素な仕切りがあるだけの細長い部屋で、ベッドと小さな机が置いてあるだけだった。
壁も薄いから周りの音は聞こえてくる。
一人で落ち着けるとは言えないが、それでも一人の空間があるのはありがたい。
ちょうど試したいこともあったから、ちょうど良かった。
ゼインは早速風呂に向かった。
そこは大人数でも入れるような大浴場だった。
風呂に入るのは久しぶりだ。身体に沁み入る。
すると、他の守り人達の会話が耳に入ってくる。
「明日から大変だなー」
「なー。何人くらい増えるんだろうな」
「さあ?毎回増えるときは数人って聞いたことあるけど」
明日から囚人が増えるのか…!
思ったより早いな。
ゼインは部屋に戻っている道中、フキの部屋からは鼻歌が聞こえてきた。楽しそうだな。
カノーゴの部屋からは何も聞こえない。寝ているか、俺と同じく風呂にでも行ったのだろう。
そういえばエンキから外の仕事の話はなかったな。
業務として外に出られればシリルと話せると思ったけど、こればかりは仕方ないか。
疲れていたのか、気づいたらゼインは眠りに落ちていた。
◆
満月が雲間から僅かに顔を出し、月明かりを地上へと優しく降り注ぐ。
その地に連なる影がいくつも落ちる。
守り人達は久しぶりに収容所へと足を踏み入れる。その服には汚れがかなり目立つ。
そして、その一団に連れられ、手首を縛られた男女が運び込まれていった。
「フェイ!久しぶりー!」
出迎えに来たアイミーは先頭を歩くフェイに抱きつこうとするが、華麗に躱されてしまう。
「アイミーか。エンキはどこだ?」
「そっけな!私とフェイの仲じゃん。もっと熱い抱擁してよ〜」
アイミーが人肌を求めるときはいつも決まっている。
フェイは眼鏡をくいっと上げる。
「なんだ、またフラレたのか」
「うぅ〜、そうなの〜!話聞いてよー!」
アイミーは目に涙を浮かべると、再び抱きつこうと寄ってくる。
フェイはアイミーが近づけないように、その頭を抑える。
「まずアイミーは笑うときに口角をあと五度上げろ。それで印象が変わる。それと襟が十四度曲がっている。だらしないと思われるぞ」
「フェイに聞いたのが間違いだったー」
「なんだと!」
「あ、エンキ来た」
アイミーは遅れて現れたエンキに話を投げ掛ける。
「ねえ、聞いてよ〜」
「まず自分本位の行動を止めろ。相手を気遣え。話を最後までちゃんと聞け」
「ひどい〜!まだ何も言ってないじゃん!」
「聞かなくてもお前の行動は分かる」
その言葉にアイミーは、キラキラとした眼差しでエンキを見つめる。
「やだっ、そんなに私のこと考えててくれたの?エンキ好き!」
「俺はお前が嫌いだ」
「ひどい〜!」
エンキはフェイに声を掛ける。
「フェイ、ご苦労だった。どうだった?」
「十二人だ」
「よくやった。今日はゆっくり休んでくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「アイミーは女二人を連れて行け」
「はーい」
「男は俺についてこい」
囚人達を監房へ連行し終えると、別の守り人に業務を引き継いだ。
エンキは仕事を終え私室に向かう。すると、前から見知った顔が歩いてきた。
「タツマ」
「エンキ、仕事終わり?」
「ああ、新入りの世話に追加の囚人達の収容があったからな」
「お疲れ様。何人くらい来たの?」
「十二人だ」
「それは凄いな。フェイ、頑張ったんだね」
「ああ。遠征組には少し長めの休暇を与えてある」
「じゃあ明日にでもフェイに会いに行こうかな」
隠してはいるが、タツマの腕や首に痣が見えていた。
恐らくまたズックがタツマにあたっているのだろう。
「どうしたの?」
「…お前、また痣が増えてないか?」
「え、ああ。ズック様は気分屋だからね」
ズックのお気に入りになってから、タツマはいいように使われすぎている。
ズックは俺達を拾ってくれた恩人でもある。
しかし、それよりも前にタツマは家族の一人だ。痛めつけられるようなことをされて黙ってはいられない。
「タツマ、ズック様の傍にいるのは大変じゃないか?」
「大丈夫だよ!ズック様が僕にあたるのはたまにだし!それよりエンキは早く休んで!じゃあ!」
タツマは足早に去って行く。
エンキは僕のことをよく気にかけてくれている。それは素直に嬉しかった。
それでも…。
「ダメなんだよ。皆にこんな事させたくないから」
タツマが小さく呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。
歩みを進めた先の扉を開けると、ズックが待ち構えていた。
「タツマ、準備はいいな?」
「はい、問題ありません」




