第67話 選出
「グリートリーフって何だ?」
エフィがログに尋ねる。
「えっと、見てもらった方が早いかな。葉の表面をこうすると…」
ログは鉢植えの土を葉に擦りつける。
すると、そこに「ゼイン」という文字が浮かび上がってきた。
「やっぱり…!ゼインが書いたんだ!」
「ほう、不思議なものだな。文字が浮かび上がるのか」
「うん、これがこの植物の特徴なんだ」
「まさか本当に男牢と連絡がとれる方法があるとはな」
これでゼインと連絡ができる。
ログは自分が読んだ証として、爪で葉に文字を刻む。歪だが、読めるだろう。
「これでゼインに伝わるはず」
ログは葉を元の場所に置いてから監房に戻った。
◆
ゼインとスタングは、食事もそこそこに目的の鉢植えを見に行く。
鉢植えの土に置かれた葉を拾う。
表面を見ると、俺がつけた文字以外に何か刻んでいるようだ。
「これがそれか?」
「ああ」
「普通の葉っぱに見えるけど」
「…いや」
俺達の行動を不審に思ったのか、守り人が近寄ってくる。
ここじゃマズいか。
「行こう」
葉を隠し持ち、檻まで戻る。
守り人が近くにいないことを確認すると、ゼインは指を噛んで葉に血を垂らす。
予想通り何か文字が書かれていた。
「ロ…グ…。ログって書いてある!」
「へえ、凄えな」
「何回も使えないが、これでログと脱獄の日程を合わせられる」
「何でだよ、これがあればこまめに連絡とれるだろ」
「グリートリーフが植えられているのは、あの鉢植えだけだった。それに今回は一枚だけだからバレなかったけど、何枚も葉が減れば何も知らない守り人達だって、さすがに何かされてるって気がつくだろ」
「それはそうか」
「何か書けそうな物あるか?」
「これでどうだ?」
スタングから鉄製の棒を受け取る。先端は鋭利に尖っていた。
「何でこんなの持ってんだよ」
「脱獄のときのために護身用に持ってたやつだよ」
「なるほどな」
ゼインは洗面所で葉に付いた血を洗い流す。
葉が破れないように慎重に「少し待て」と刻み残した。
「よし、後はこれをさっきの場所に戻すだけだ」
◆
エンキはズックの私室の扉をノックする。
「ズック様、失礼いたします」
「うむ」
広々とした部屋にはズックと側近を務めるタツマの姿があった。
チラッとタツマに視線を送る。相変わらず使用人のように使われているようだ。
ズックは豪華な料理に囲まれ、優雅に酒を飲んでいる。
頬が赤く染まっている。もう酒をかなり飲んでいるようだ。
空のグラスをタツマの前に差し出すと、タツマは手に持つ酒瓶をグラスに注ぐ。
ズックはグラスをゆっくりと回し、酒の揺れ動く様を眺めている。
「最近は新入りも滅多に追加されなくなったな」
「ここの噂が広がったせいか、ゲルダを遠ざける者が多くなっているようです。今はフェイ達に能力者狩りへ向かわせております。あと三日もすれば、新しい者も増えるかと」
「うむ、よろしい」
ゲルダは闘技場の賭けが大きな収入源だ。参加者のほとんどは貴族のため、金額は莫大な物らしい。
中にはガンドンの中枢を担う人物もいる。そのため、この人道から外れた行いも国から見逃してもらっていると聞いたことがある。
闘技場の運営が立ち行かなくなれば、俺達の死活問題にも繋がりかねない。
「ところで、最近暴動を起こした者がいるそうだな」
「…ズック様のお耳にまで。申し訳ありません」
「守り人も何人か死んだと聞いている。警備は貴様の担当だ。また囚人が暴動を起こさないように守り人を増やせ」
「しかし、警備向きのスキルを持つ者はあまりいません。それに守り人に人を回せば、闘技場運営に支障が出る可能性も…」
ズックは怒りに任せて机を勢いよく叩く。
「ワシに口答えをするか!フェイが能力者を連れてくるなら問題なかろう!」
「申し訳ありません…!」
「この前のガキは強かったろ。アイツは守り人にあげろ。モモを倒すほどの強さを持っていたしな」
「…はっ!仰せのままに」
「次回の闘技場は一週間後にしよう」
タツマはまた酒を注ぎながら会話に加わる。
「出席者の皆様方に連絡の手配を行います」
「うむ、よろしい。フッフッ、また儲かってしまうな〜」
ズックは酒を一気に飲み干すと、満足そうに笑みを浮かべた。
◆
翌日。
朝食を終えたゼインは鉢植えに葉を戻す。
その後、檻でスタングと話をしていると、足音が聞こえてきたため話を途中で切り上げる。
守り人は俺達の檻の前で足を止めた。
「七〇六二番、出ろ」
また闘技場に連れて行かれるのか。それとも…。
しかし、守り人に連れて行かれたのは闘技場までの道順ではなかった。
監房の奥にある廊下を進むと、その途中にある扉を開ける。
「入れ」
部屋には他に囚人が二人だけいた。
茶髪の男は見覚えがあったが、もう一人の黒髪を後ろで束ねた男は見たことがなかった。俺とは違う食事の時間だったのだろう。
そこにエンキが入ってくる。
会うのは捕まったとき以来か。
「七〇〇三番、フキ」
「はい!」
エンキの号令に茶髪の男が勢いよく返事をする。
「六八二四番、カノーゴ」
「はい」
黒髪の男が答える。
「七〇六二番、ゼイン」
「…はい」
ぶっきらぼうに答えるゼイン。
身元確認を終えると、エンキは淡々と言葉を続けた。
「端的に言う。守り人の補充のため、お前達三人を守り人に任命する。これからは指導員の指示に従い、仕事を覚えてもらう」
よし、狙い通りだ。
しかも、こんなに早く守り人に選ばれるなんて。
「指導員はどなたですか?」
黒髪の男が尋ねる。
「指導員は俺だ」
「は?」
マジかよ…。こいつが指導員…?




