第65話 闘技場 (2)
「モモちゃんから逃げ切れた一人をこの試合の勝者とします!さらに、モモちゃんは三日間断食中です!普段より獰猛なモモちゃんはどちらから先に食べるんでしょうか!その瞬間を是非目に焼き付けましょう!」
実況の声に周囲から歓声が湧く。
ゼインは思わず舌打ちをする。
ふざけたことを考えやがる。
魔物は見上げる程の大きさに加え、中央には竜の首、左には銀狼の首、右には角牛の首が一つの身体についていた。
あまりに歪な身体だ。
こんな魔物見たことがない。
まさか人為的に作られた合成獣なのか…?
いや、そんなことはもうどうでもいい。
めちゃくちゃ研究に使いたい!
血だけでもいいから採取したい!!
キラキラとした眼差しを向けるゼインとは対照的に、プージャは恐怖に身体を支配されていた。
自然と後退りした足が躓き、尻もちをついてしまう。
その動きを見逃さず、合成獣は前足でプージャの身体を押さえつける。
竜の頭がプージャを食べようと顔を近づける。
「あ…待って…ちょ…」
ゼインは合成獣に走り寄ると、前足を思いっきり斬りつける。
硬えな。
身体の見た目は銀狼に近いくせに、竜の鱗みたいに硬い。
「早く逃げろ!」
合成獣の力が緩んだ隙に、プージャはスキルを使って距離を取る。
「おーっと!ゼインが何故かプージャを助けたぞ!?どういうつもりだあ!?」
ゼインも合成獣と距離を取り、プージャと並び立つ。
「何で助けてくれたんだ?」
「は?こんな所で死ねないんじゃなかったのか?」
「それはそうだけど…いつっ」
プージャは脇腹を押さえる。
さっきので肋骨が折れたのか?
好都合だな。
「あんたはあいつから逃げることだけ考えてろ。あいつは俺が仕留める」
それで倒した隙に何でもいいから素材を手に入れてみせる!
ゼインは合成獣に向かって走り出すと、竜の首が火炎放射をしてくる。
危ねえ。
正面から攻めるのは危険か。
左側から攻め込もうとするが、今度は銀狼が水流を放ってくる。
さらに右側の角牛は雷電を放射してくる。
全部の頭が遠距離攻撃してくるのか。厄介だな。
このままじゃ近づけない。
背後をとろうとしても、顔が三つあるせいで死角に入れない。
それにあの硬さだ。単純な攻撃をしても通用しない。
柔らかい部分は目くらいか。
目に剣を刺したいところだけど、そこまで登るのは難しそうだ。
しかもプージャと戦ったせいで、体力も結構削られてる。
長期戦にするのは不利だ。一気に片を付けないと。
ゼインが様子を窺っているとき、合成獣がプージャを視界に捉える。
そして、そのままプージャに向かって走り出す。
しまった。
その巨体もあってか地面が揺れ動く。
「おい!お前の相手は俺だぞ!」
落ちている弓矢を拾って合成獣に放つが、全く気にする素振りがない。
こんな矢じゃ見向きもされないか。
プージャがスキルを使いながら竜の攻撃を避けていたとき、ゼインはあることに気がつく。
あれ、何で合成獣は同時に技を出さないんだ?
そうした方が俺達を簡単に倒せるのに。
もしかして一つの首が攻撃するとき、他の首は攻撃できないのか?
その仮説が正しいなら勝機はあるかもしれない。
プージャの動きが鈍くなってる。もう時間がない。
ゼインは合成獣の元へ走りながら、プージャに呼び掛ける。
「おい!俺の方に来い!」
プージャはスキルを使って移動し始める。
しかし、その動きを予測した合成獣が前足を払い、プージャを壁に突き飛ばす。
合成獣は気絶したプージャに近づくと竜の首がすぐさま食らい尽くす。その後にはプージャの血の跡以外、何も残っていなかった。
その瞬間、客席からは歓声が上がる。
は?
何考えてんだよ、こいつら。
人が食われたんだぞ。
ふざけんな!
ゼインは再び合成獣に向かって走る。
「さあ、これで決着が着きました!勝者は…ん?何故かゼインがモモちゃんにまだ攻撃をしようとしているぞ!?」
その様子を見た守り人がズックに問いかける。
「ズック様、いかがしますか?」
「面白い、続けさせろ」
守り人が実況に続行を伝えるように頷く。
「どうやらこのまま続行のようです!皆様は一日に二回もモモちゃんの食事を見られますよ!」
合成獣の右側から攻め込む。
今までの傾向からして、こいつは敵の近くにいる首が攻撃を仕掛けてくる。
予想通り角牛が電撃を放つ。ゼインはその攻撃を避けずに正面から食らう。
今までどれだけ稲妻を身体に纏ってきたと思ってる。
電撃は俺に効かねえぞ!
ぐっ…!重てえ、でも耐えられる…!
ゼインはその力を利用して高速で移動する。そして、全ての稲妻を手刀に集め、合成獣の前足に突き刺す。
「知ってるか?身体で一番重いのは頭だ。そんなのを三つもつけてれば、身体の比重は当然悪くなる」
合成獣はゼインの攻撃によって、前足が浮いたせいで頭を支えきれず倒れ込む。
「そうなったら、お前は立ち上がれない」
合成獣は立ち上がろうとしているが、予想通り頭が重くて立ち上がれないようだ。
後はトドメを刺すだけだ。
ゼインは合成獣の心臓部に向かって、手を振り上げる。
「待った」
背後に立っていた守り人がゼインの腕を掴む。
こいつ、いつの間に。
エンキと同じ服装をしている。
それに、かなり雰囲気がある。相当強いな。
「君の勝ちだ。これ以上はズック様が悲しまれる」
ゼインは捕まれた腕を無理矢理振りほどく。
「何という幕切れでしょう!少年ゼインが、あのモモちゃんを打ち倒しました!」
闘技場を後にするゼインは、手についた血を服で拭った。
「せっかくの血を汚しやがって。何してんだよ」




