第60話 男牢 (2)
スタングに連れてこられたのは、部屋中に椅子が置かれた部屋だった。
守り人の監視の下、何人もの囚人が席に座っている。
「何だ、この部屋は?」
「献血室だな」
「献血室?」
「ここでは労働を強いられない代わりに、こうして献血をする。俺達の血が世の中の役に立つのは気持ちがいいってもんだ」
献血。
そういえば前にスオナさんから聞いたな。
大量に出血した人に輸血するため、他人の血を使うらしい。
それも同じ型の血である必要があり、他の型であれば拒絶反応が出るそうだ。
レイムさんもその方法で助かったって言っていた。
だが、輸血のための血液はあまり在庫がなく貴重らしい。
当然、血を提供してもらうには本人の同意がいる。
しかし、医療行為に使うと言っても実際に一般の人が自分事のように想像するのは難しいだろう。
血液が集まらないのも頷ける。
だから、ここの囚人から集めようってことか。
守り人によって再び枷を繋がれると、カプセルを入れられる。
そこに血が少しずつ溜まっていく。
俺達の力を削ぐと同時に医療行為に使う。
ということは、ガンドンで大量に輸血を使うような争いでも起きているのか?
献血が終わると、再び枷の繋ぎを外される。
だが、そのまま自由に部屋を出ていいわけではないようだ。
順番に守り人に呼ばれると、檻に戻れと指示される。
ようやく俺達の番になる。
俺達が檻に入ったと同時に守り人は扉に鍵を掛ける。
このために自由解散にしなかったのか。守り人達は囚人より人数が少ない。
それぞれ戻らせたら、檻に戻らず良からぬことを考える奴がいるのではと警戒してるのだろう。
食事は一日二回。夜ご飯まではずっとこの中か。
ログの奴、大丈夫かな。それにシリルも腹を空かせてそうだ。
全然脱出できそうな場所もなかった。
それにこの枷。
どうやってるのか知らないが、遠隔でも枷の装置を作動させることができるなら、脱出しようとバレることも許されない。
脱獄の難易度が更に上がった。
さあて、どうしたもんか…。
その前にやることはあるか。
脱獄を考えていれば、おっさんにもいずれバレる。
それに収容所についても詳しそうだし、性格も正直そうだ。それにアホっぽいから扱いやすい。
仲間に引き入れて損はない。探りをいれてみるか。
「そういえばおっさんはここを出たいとか思わないのか?」
「もちろん思ってたさ。でも、脱出できそうな場所もないし。とっくに諦めたよ。って、まさかお前、まだ脱出しようなんて思ってるんじゃないだろうな?」
意外に勘がいいな。
今隠したところでいずれバレるか。それなら先に明かしても問題ないだろう。
おっさんの出方次第では今後の受け答えに注意しないとだが。
「だったら何だよ」
「冗談じゃねえ!言っただろ!俺達は一蓮托生だって!お前が脱獄を企てれば俺まで同罪として殺されるんだって!」
「知らないって言えばいいだろ」
「悪いことは言わねえから諦めろ」
「逆に何でそんなに止めるんだよ」
「だから言ったろ。俺も一度考えたって。抜け穴みたいなものは無かったんだよ。九年前に守り人達をほとんど殺して、数人が脱獄したらしい。それ以降、ここの警備も厳しくなったんだと」
そのとき、守り人が檻の前に立つ。
マズい…聞かれたか!?
「七〇六二番、出ろ」
「ゼイン、お前の番号だよ」
守り人の様子からして、話を聞かれたわけではなさそうだ。
それより俺だけを外に出すって何のつもりだ?
「…思ったより早いな」
「ん?何だって?」
「何でもない。いや、そうだな…。お前みたいなガキが戻ってこられるなら、俺ももう一度夢見てやるよ」
どういうことだ?
スタングは俺が戻れない可能性が高いって思ってるってことか?
守り人に連行されたのは、監房地の更に地下にある闘技場だった。
全方位を囲む客席は大勢の観客で埋まっていた。観客は囚人じゃないようだ。格好からして外の人間だ。
俺が来た入口の反対側からは痩せ細った男が出てくる。
地下にこんな場所があるのか。
何だ?俺達を見せ物にでもしようとしてるのか?
闘技場を見渡せる位置に男が立つ。そして、大袈裟な身振り手振りで観客に宣言する。
「闘技場にお越しの皆様!本日の参加者は、ゲルダ収容所に来たばかりの少年ゼイン!対するは…特に言うことはない、名はプージャ。どちらも闘技場は初参戦であります!」
歓声と怒声が入り混じった声が四方から聞こえてくる。
「さあさあさあ!どちらに賭けるか決めましたかな?」
賭け?
まさか俺達を戦わせて、その勝ち負けで賭けをするつもりか?
おっさんが言っていたのはこういうことだったのか。
外部の人間に賭けをさせて一儲けしている。
それがこの場所の存続が許されている理由か。
「それでは、初参戦のお二人にはルールを説明します!と言っても、ルールは簡単。相手を殺せば勝ち。倒すだけではダメですよ?相手を殺すまで終わらない、命を賭けた戦い!それでは、始め!」
おいおい、マジかよ…。
相手を殺すまで終われないのかよ。




