第59話 男牢 (1)
村中の家が燃えている。
燃え盛る炎のなか、一目散に自宅へ向かう。
ゼインは家の傍に倒れているセイラを抱き上げる。
「セイラ!大丈夫だ、今助けてやる!」
「…助けてくれないくせに」
憎しみの籠もった目で俺を睨むセイラ。
必ず助けるって言わなきゃ。
でも、何故か声が出ない。
倒れていたノルシがよろめきながら立ち上がり、虚ろな目でこちらを見ている。
「何であんただけが生きてるんだ。あんたのせいで皆が死んだのに」
違うんだ。
俺は…。俺は…。
◆
ハッと目を覚ますゼイン。生温い汗が頬をつたう。
また同じ夢か…。
あの日からこの夢を見るようになった。
セイラもノルシおばさんもあんなこと言わない。
そうは分かっていても、夢の中の二人は俺を何度も責める。
研究に没頭して寝落ちするときは見ないのに。
こうなると寝るのが怖くなる。またあの夢を見るんじゃないかって。
何度寝返りをうっても眠れない。
いくらかの時間が経った頃、ゼインはようやく眠りについた。
「おい、ゼイン。起きろ!飯の時間だぞ!」
「ログ、もう少し寝かせてくれ」
「残念だが、俺はスタングだ」
スタングの顔が視界いっぱいに広がる。
「うわぁ!」
ゼインは慌てて身体を起こした拍子にベッドから落ちそうになる。
「ほら、早く準備しろ」
「分かってるよ」
今は朝なのか?
窓がないから今何時なのかも分からない。
身体に気怠さが残ってる。
あまり寝れなかったからか。それか、宿屋の男が盛った薬の効果がまだ残ってるのかもしれない。
「機嫌が悪そうだな」
「そりゃあ寝起きで髭面のおっさん見せられたからな」
「もう大きいんだから、一人で起きられるようになれよ」
「うっせえ、おっさん」
「おっさんおっさん言うんじゃねえ!俺はまだお兄さんだ!」
「おっさんはおっさんだろ」
「生意気なクソガキめ」
いがみ合いながらも準備もそこそこに終える。
すると、スタングは何事もなく檻の扉を開ける。
「開いてるのか」
「ああ、お前が寝てる間にな。扉は食事の時間に解放される。もちろん全部解放されるわけじゃない。順番ずつな。じゃなきゃ暴動が起きちまうよ」
能力者の中には強力な力を持つ者もいるはずだ。
そいつらを抑え込むための策なのだろう。
守り人達が一定距離を置いて配置されている。奴らも能力者なのかもしれない。
よく見ると、壁時計があちこちに掛けられていた。あれで時間を管理してるのか。
今は朝の九時か。
通り過ぎる檻の中には、寝転んでる人もいれば、隅で蹲っている人もいた。
監房地を抜け、通路を進むと良い匂いがしてくる。
食堂は質素な構造だが、収容人数は大きい。三十人は入るだろう。
大方、席は埋まっているが、人数の多さに相反して会話をする者はほとんどいなかった。
当然ここにも見張りがいる。気軽に談笑はできないのだから仕方がない。
どうやらお盆を持って、そこに食事を配給される方式のようだ。
「ここが食堂だな。ここは囚人全員が食事をとる場所だ。時間が決まってるから、指定時間以外は出入り禁止だ」
ようやく食事にありつけると思ったら、配給されたのはパンとスープだけだった。スープには僅かな野菜と肉が入っているのみだ。
「何だこれ…」
「何ってこれが食事だ」
「マジかよ…。一応、俺育ち盛りなんだけど…」
「我慢しろ」
文句を言っても仕方ないので、黙々と食べ進める。
「家族が心配か?」
スタングの言葉にゼインは動きを止める。
「家族?」
「寝てる間、魘されてたぞ。セイラってな。ログってのはお前の母ちゃんか?」
「ログは母親じゃない。旅仲間だ。セイラは…」
思い出したくない夢が再び脳裏に蘇る。
ゼインは悲しそうな表情を浮かべたまま言葉を止めた。
「無理に聞くつもりはないが、お前はまだ子どもなんだ。頼るときは大人に頼れ。人に頼る選択肢を捨てるなよ」
スタングはニッと笑う。
「つっても、俺じゃ話聞いてやるしかできんけどな」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ゼインの思いもよらない言葉にスタングはギョッとする。
「え!?」
「この収容所を案内して欲しい」
食事時間は一時間、その時間は自由に行動できる。
まずログと合流できるような抜け穴を探しつつ、脱出に向け、この施設自体を把握する必要がある。
スタングの案内で食堂を出て右に進むと、医務室と書かれたプレートが見えてきた。
「ほら、ここが医務室。簡単な怪我なら治療してもらえる。重傷を負えば放置されて死ぬから気をつけろよ」
さらに進み、左に曲がる。
それにしても所々に鉢植えが置いてある。俺と同じくらいの背丈の植物が植えてあった。
収容所には不釣り合いな気もする。
そういえば緑があると人の気持ちは落ち着くって本で読んだことがある。
気休め程度にでも反乱者が現れないように置いてるってところか。
広々とした板張りの部屋が現れる。
「ここは武道場だな。身体を動かすことができる。運動不足解消には持ってこいだ。俺はほとんど使わないけど。施設はこれくらいか」
「少ないな」
「俺達は自由に動き回ることも許されない。許されたいなら…」
武道場には荒くれ達が集っていた。
さっき食堂にいた奴らだ。
「てめえら!こんな場所に閉じ込められて納得いかねえよなあ!」
「おぉ!」
「行くぞ!」
中心にいる男の掛け声に呼応するように男達は守り人に襲いかかる。
「ムウゴに続けえ!」
ムウゴの腕が勢いよく伸び始める。
近くにいた守り人は不意を突かれ、その首を絞められる。
異変に気づいた他の守り人達がムウゴを止めに入る。
応戦する守り人もスキルを持っているようだ。
それでも反逆者達の方が連携が取れ、優勢にみえた。
守り人の一人が応援を呼びにその場を離れる。
間もなく、五人の守り人が駆けつけた。その頃には最初に戦っていた守り人達は全滅していた。
これはこの勢いに乗った方がいいか?
守り人を倒せれば、ここから出るのは簡単だ。
ゼインはどうするか決めかねていると、突然反逆者達の枷から血が大量に流れ始める。
守り人は奴らに何もしていない。
まさかあの枷は遠隔からも操作されるのか。
バタバタとムウゴの取り巻き達が倒れていく。
「ふざけるなあ!!」
ムウゴの最後の足掻きも虚しく、守り人に跳ね除けられた。
静寂が訪れると、守り人達は淡々と死体の後始末を始める。
その時、死んだ守り人の手首に付いている物に疑問を抱く。
守り人の手首にも枷をつけられていた。
どういうことだ?何でここを統制する側まで枷をつけているんだ?
スタングは壁の傍に立つゼインに呼び掛ける。
「ほら、何してる。行くぞ。奴らの仲間だと思われたら俺達まで処罰されかねん」
足早にその場を立ち去ると、スタングは壁時計に目を向ける。
「さて、そろそろお勤めの時間だな」
「お勤め?」
ゼインはお腹を壊していません。
人は意外と丈夫です。




