第58話 独裁都市ゲルダ (2)
「よう、新入り」
無精髭を生やしたおっさんは、にやつきながらこちらを見る。こいつと同室か。
「どうも」
「この街のことを知らずに寄った冒険者か?随分と若いが」
「まあね。おっさんは何で捕まってるわけ?」
「おっ…!俺はおっさんと言われるほどの歳じゃない。まだ二十七だ」
「老け顔だな」
「ぐはっ!年下の新入りのくせに俺の心を的確にエグッてきやがる…!」
おっさんは大袈裟に悲しがる。
そんなに悪いこと言ったか…?
「年相応に見られたいなら髭剃れば?」
「バカ野郎!この髭と出会うまで紆余曲折…。ようやく俺に似合う形に辿り着いたんだぞ!」
「あっそ」
「俺に興味なさすぎ!」
「俺が興味があるのはここからどうやって脱出…」
「バカッ!」
おっさんは俺の口を慌てて塞ぐ。
巡回中の守り人がジロリとこちらを見る。
「何を騒いでいる」
「い、いえ!こいつが来たばかりだから落ち着かないようで…」
「フン。きちんと教育しておけ。さもなくば…」
「はい!もちろん、ビシッと躾けておきます!」
守り人はそのまま通り過ぎる。
ようやくおっさん臭い手から解放される。
「な、何すんだよ!しかも、なんか手が臭えし!」
「お前の方が何してくれてんだよ!脱走を謀ろうとしただけでも死罪だ。しかも同室の人間がいれば、そいつも協力したとみなされ殺されるんだよ!」
そう言いながら、おっさんは洗面所で念入りに手を洗う。
その姿だとなんか説得力ないけど。
さっき手が臭いって言ったの気にしてんのか。
いやでも、もしあのまま守り人にバレてたら危なかったってことか。
「なるほどな。おっさん、とりあえず助かった」
「分かったと思うが、俺達は一蓮托生なんだ。俺はお前よりここは長い。話す内容には気をつけることだな。それと行動も。守り人達は、ああして巡回している。分からないことがあれば、まず俺に聞け」
確かに今は軽率な行動は控えるべきか。
守り人達に目をつけられないようにしないと。
そのためにも、このおっさんから色々情報を聞き出さないとな。
「聞きたいことは山程ある。この場所のこと、守り人のこと。あと、腹減ったんだけど、ご飯はどうなってんの?」
「はいはい、順番な。おっと、自己紹介が遅れたな。俺はスタングだ。ここではお前より二年先輩だ。よろしく」
「俺はゼインだ」
スタングはベッドの下段にどかっと座る。
「んじゃ、まず飯についてだが、もう食事の時間は終わってる。残念だが、今日は飯抜きだな」
「そんな…。俺はほぼ丸一日何も食べてないんだぞ!」
「知らねえよ。一日抜いたくらいじゃ死なねえから安心しろ」
ゼインの腹から特大の音が鳴る。
「ったく、しゃあねえな」
スタングは枕の下から取り出した物をゼインに渡す。
「何これ」
「パンの切れ端だ。ちょっとカビ生えてるけどな。食堂から隠して持ち込むの大変だったんだぞ」
「こんなもん食えるわけないだろ!」
「静かにしろ!守り人達に没収されたらどうすんだ!いいから食え!」
スタングは俺の口にパンを突っ込む。
やべえ、一気に入れられたせいで喉に詰まった。苦しい…。
ゼインは急いで洗面所で水を汲むと、一気に飲み干した。
腹に流し込んだおかげで空腹は多少満たされた。でも、絶対あとで腹壊すな。
「あとは、ここがどこかって話か。ここはゲルダの中にある収容所、ってのは聞いたか?」
ゼインはこくりと頷く。
「この収容所は普通の場所とは違う。スキルを持ってる奴は問答無用で捕らわれる」
「スキル所有者を?何のために?」
「ゲルダではスキルを持ってる奴は全員危険人物扱いされる。だから、そいつらが暴れないようにここで捕らえてるってわけだ」
「おいおい、全員って。そんな危険な奴らばっかじゃないだろ。俺だってそんなつもりでここに来てないし」
「俺だってそうだよ。ただ、そんな理屈が通じる相手じゃないってことだ。噂じゃ、昔スキル持ちが大暴れして街が半壊したのが始まりって話だ。今じゃスキル持ちだと分かれば、通報され守り人に捕まる。次第に治安も悪くなり、通報報酬で暮らす成り金野郎も出ているらしい」
宿屋の男もそれか。
タダの食事を提供してきたのも、俺らから話を聞くためだったんだろうな。
あの銭ゲバ親父。ここを出たら絶対ぶっ飛ばしてやる。
「ゲルダを知ってる奴らはここを独裁都市なんて呼んでるらしい」
「そんな場所をガンドンは許してるのか?どう考えたって行き過ぎてるだろ」
「今の国王様は金さえ手に入れば何でもいいのさ」
「ゲルダはそんな金に潤ってるように見えなかったけど」
「それはそのうち分かる」
「にしても、おっさんやけに説明し慣れてるな」
「ま、お前で同室は三人目だからな」
「三人目?じゃあ、それまでの奴らはどうし…」
「いつまで起きている!もう消灯時間だぞ!」
再び巡回してきた守り人が怒鳴る。さっき来た守り人とは別の奴みたいだ。
スタングは地に頭をつけ謝罪する。
守り人は檻越しにスタングの頭を必要以上に踏みつける。
あまりに酷い。
守り人に向かって前に出る俺をスタングは制止した。
「ガキ、何か言いたげだな?」
守り人はゼインに目を移す。
ゼインが口を開く前に、スタングが割って入る。
「彼はまだここに来たばかりです。今回はどうかお許しください」
「二度目はないぞ!」
「も、申し訳ありません…!ほら、もう寝るぞ」
スタングはすぐさま下段のベッドで横になる。
ゼインも上段のベッドに寝転がる。
薄っぺらい敷物で、ほぼ木板に寝てるみたいな感覚だ。
スタングは守り人に聞こえないように小声で呟く。
「詳しい話はまた明日な」
「分かった」
おっさんは何でこんな理不尽に耐えてるんだ。
いや、歯向かえば殺される。おっさんは耐えるしかないのか。
でも、俺はこんな場所に居座るつもりはない。
まずログと合流してから脱出する。
じゃないと、交流会にも間に合わないしな。
…最悪、ログとの合流は諦めるか。俺一人で抜け出して、その後に救出するか。
今はこれ以上考えても仕方ない。まだ判断材料が少ない。
明日もおっさんに話を聞いて、この施設自体についても調べないとだな。
ゼインは再び空腹を感じ始める。
また腹減ってきたなあ。




