第56話 逮捕
「久しぶりの街だ〜」
最後に街を出てから、暫く歩いたところでガンドンの国境を越えた。
そこから小さな村はいくつかあったが、冒険者は泊める余裕がないと断られたのが二回。余所者は泊められないと断られたのが一回。
ここは二週間ぶりの街だった。
これだけの街なら宿屋の一軒くらいはあるだろう。
しかし、街に足を踏み入れると、ある違和感に気がつく。
前の街は活気がある雰囲気だった。対して、この街は少し陰鬱な雰囲気が漂っている。
時折すれ違う人は、暗く落ち込んでいる。それに服装も汚れが目立ち、ボロボロだった。
「ねえ、ゼイン。この街…」
「ああ、やけに寂れた街だな」
路地裏では物乞いをただ殴りつける男がいた。
男は憂さ晴らししているようだ。
しかし、それを諌める人もいない。異様な光景としか言いようがなかった。
この街の治安はかなり悪いみたいだ。
「ゼイン、やっぱり今日は野宿しようよ」
「一泊だけしてさっさと出れば大丈夫だろ。風呂も入りたいし」
「それはそうだけど…」
「シリルはどっちでもいいニャ」
「お前は飯さえ食べれればいいもんな」
通りに古めかしい看板を下げた宿屋を見つける。
「いらっしゃいませ!」
ダミ声を響かせ、禿た男が出迎える。
肥えた腹に身なりも良い。
宿屋の外観の割に儲かってるのかもしれない。
「二人用の部屋で一泊頼む」
「かしこまりました!こちらがお部屋の鍵になります!階段を上がって左にお部屋があります」
「どうも」
「お二人は冒険者でいらっしゃる?」
「ああ、まあそんなとこ」
「それはそれは。当店は冒険者の皆様にお食事を提供しておりますよ」
「へえ、そうなの」
「お好きな時に、食堂までお越しください。さあさあ、長旅お疲れでしたでしょう。うちでしっかりお休みください」
定型文を並べたような接客を受けた後、ゼイン達は部屋に入る。
外観に違わぬ古びた内装だ。
最低限の家財はあるが、机や椅子はガタついている。飾りと言ってもいいくらいだ。
床板も傷んでいるのか、歩くとキィキィと音が鳴る。
こんな部屋で疲れなんて大して取れないだろ。
これだと食事も期待できないだろうな。
でも、この街はろくな店もなさそうだ。それに、道すがら採った薬草の特徴をまとめないとだしな。
それなら宿屋で全て済ませられるなら都合がいい。
二人とも風呂を済ませると一階の食堂に向かった。
「おお!冒険者様、ささ、こちらへ」
出迎えてくれたのは受付をした男だった。この宿屋はこいつしかいないのかもしれない。
食堂も部屋と同じく見窄らしい。
そして、他に宿泊者もいないのか、食堂には誰もいなかった。
街には人の往来も少なかった。この宿屋を利用する人も少ないはずだ。
この男が痩せ細っていく日も遠くないだろう。
男がこんなに張り切っているのは、俺達が久しぶりの客だからかもしれない。
シリル用のスープを頼んでも、嫌な顔一つしなかった。
「さあ、どうぞ。お召し上がり下さい」
出されたのは簡単な肉料理とスープだった。具材は少ないが、味はそこまで悪くなかった。
「お二人はご兄弟なんですか?」
「違う」
「その若さで冒険者とは大変でしょう。お二人ともスキル何かをお持ちなんです?」
やけに絡んでくるな。鬱陶しい。
「そうだけど。だったら何?」
「それはそれは!お見逸れ致しました!それでは、ごゆっくり」
男はようやく食堂の奥へと消えていった。
落ち着いて食事を済ませ、部屋に戻る。
ゼインは資料まとめを終えると寝床に入る。ログとシリルはもう寝息を立てていた。
へたった布団だが、地面よりは格段に寝やすかった。
その日はすぐに就寝した。
◆
バンッ!
勢いよく扉が開かれ、目を覚ます。
部屋にぞろぞろと四人の男が入ってくる。
「起きろ」
「誰だよ、あんたら」
「我々は守り人だ。貴様らがスキル所持者だという通報があった。事実か?」
守り人?通報?宿屋の男か?スキルを持ってることが何だって言うんだ?
まだ状況に理解が追いついていなかった。
だが、良くない状況であることだけは理解できた。
前に出た男は他三人より武装が厚い。それに偉そうだ。
この男の方が地位が高いのだろう。
「だったら、何だって言うんだよ」
「ゲルダの規則に則り、貴様らを逮捕する。連行しろ」
逮捕だと?冗談じゃない。
「やってみろよ」
ゼインは稲妻を纏った手刀を男に突きつけようとするが、軽々と躱され組み伏せられる。
強い…!
いや、それ以上に身体が重たい。
抵抗するが身動きが取れなかった。
そのとき、ゼインはベッド下に隠れていたシリルが目に入る。
ここに隠れていたのか。
「威勢の良いガキだな。ズック様もお喜びになる」
背中に悠々と座る男がゼインの手に手錠を嵌める。
いつっ…。
何だ?手首に何か痛みが…。
守り人がログにも同じように手錠を掛けた。
「シリル。俺らの荷物頼む」
ゼインはシリルにしか聞こえないくらいの小声で呟いた。
男らに連れ出され、廊下に出る。そこにはニヤけた顔で宿屋の男が待ち構えていた。
「おっさん、ご苦労だったな。これは謝礼だ」
「エンキ様、ありがとうございます!」
男はエンキからの報酬に満足そうに微笑んだ。
しかし、俺達の存在に気づくと、エンキに振りまいていた愛想笑いが消え、虫でも見るような蔑んだ目を向けてきた。
「おっさん、よくも俺達を売ったな」
「黙れ、クソガキが!生きてくには金がいるんだよ!」
守り人に先を急かされ、男を睨むことしかできなかった。
◆
部屋に取り残されたシリルがベッド下から顔を出す。
しかし、ゼインから頼まれた荷物は既に持ち去られた後だった。
「これからどうしたらいいニャ…」




